記事中でご紹介している「廣東樓」は2022年12月に閉店いたしました。

横浜市南区の蒔田(まいた)は、見渡す限り落ち着いた住宅街だ。戦国時代には吉良氏の蒔田城があったといわれ、歴史のある地名。しかし正直、観光客が来るところではない。

ツールドチャイナ横浜の開幕地から、駅にして3駅、横浜橋商店街経由で歩くと約3km。なぜここまで足を延ばしたかというと、蒔田で70年超の時を刻む「廣東樓」の佇まいを見るためだ。

それだけではない。適度なウォーキングを挟んで、健康的にミッションを遂行する目的もあれば、お土産に焼売を買って帰るという楽しみもある。

伊勢佐木町から西へ歩くこと約40分。「廣東樓」の窓を飾るこの書体、往年の『dancyu』みたいな雰囲気があるなぁ。

蒔田に我々が到着したのは、ランチタイムを回ったころ。にも関わらず、女将さんは「よかったらちょっとお茶でも飲んでいったらいかがです?」と温かく迎えてくれた。

店内を見渡すと、おばあちゃんちと店が合体したような、不思議な憩いの空間がここに。小上がりの座敷にちゃぶ台、薄い座布団。ビールのポスターに額入りの店名。見れば見るほど味がある。

廣東樓の店内。座敷は小上がりになっている。思わず寝っ転がりたくなる謎の癒し空間。

聞けばこの店、初代は伊勢佐木町「龍鳳」の亡き女将さんの叔父様のものだったとか。それを当代オーナーシェフ・任鎮東さんの御尊父が譲り受け、現在まで営業を続けてきた。

任さんが蒔田にきたのは2~3歳のころ。1946年生まれというから、たしかに70年の歴史がある。

それにしてもこの座敷、上がったら最後、根が生えて7時間くらい居座ってしまいそうだ。そこで、座敷ではない円卓を囲むと、卓上の中央にあるメニューに目が留まった。

秘伝の水。

「めん類は全て秘伝の水で打った自家製細麺です」

自家製麺はともかく、水に秘伝もなにもあるのだろうか。
「裏に井戸でも?」
「特殊な浄水ろ過装置?」
「それじゃ、麺頼んでみない?」
結論に至るまで、時間はかからなかった。 さっそく焼麺(950円)2人前をオーダーする。

誰でもできる!?「秘伝の水」のつくり方

焼麺(950円)。同じ値段で揚げ麺のオーダーもできる。

しばし待ったのち、朱色の卓上に現れた焼麺(やきそば)がこちら。楕円形の大皿で、思ったより量があるな…と思ったら「はい、これ3人前ね」と女将さん。

こってりとしてギンギンの餡に、白菜やピーマン、玉ねぎ、小松菜、にんじんなどの野菜がたっぷり。麺を引き上げてみると、豚肉と腸詰も入っているぞ。

またこの餡が、自家製の細麺によく絡む。油も甘さもしっかりあるから、後半からはお酢をジャバジャバ。練り芥子がアクセントになって箸が進む、オールドスタイルのあんかけ焼きそばだ。

7人で、瞬く間に3人前がなくなった。

製麺機は横浜中華街「大珍楼」から譲り受けた古式ゆかしいもの。以前働いていたよしみで、大珍楼が使わなくなったタイミングで引き取ったのだそうだ。

そして気になる「秘伝の水」だが、これが想像だにしないお答えだった。「気を入れているんですよ。誰でもできます。おいしくなれと水に波動を伝える。そうすると、水が変わるんです」

誰でもできるのか――!

料理人であり気功師。1Fはレストラン、2Fは気功施術!

そこでスッと差し出されたのは、気功師の名刺。なんと任シェフ、「廣東樓」のオーナーシェフであるとともに「和水気功施術院」で、現役で施術および指導を行っているという気功伝道師だったのだ。

現在は、横浜中華街「華僑婦女会館」、銀座8丁目「東京華僑会館」、そしてここ「廣東樓」2Fで、午後は気功の施術と伝授を行っているとか。よく見ると、店の入口を入った真正面にこんな告知も貼ってあった。

入口に告知があった。

となると、さらに気になるのが、名刺にある「遠隔施術」の文字だ。

遠隔施術とは何なのか。サイトも見てみてね。

尋ねると「気功は波動だから、距離は関係ないんです」と任シェフ。香港に住む息子さんの体調も、カナダに住む娘さんの体調も、なんと電話でピタリと当ててしまうのだとか。「遠隔施術をしているから、家族はみんな元気だよ」。

するとこの日は運よく、我々の体調もチェックしてくださるというじゃありませんか。その模様がこちら。

見ていると、足から頭のてっぺんまで、任師父は手のひらで何か感じ取っているようだ。

師父(もはやそう呼ばせていただく)によると、これでチャクラがブロックされているところを発見し、それを解くことで身体の調子を整えるという。チャクラって用語、ヨガだけじゃなかったのね。

これが1人やるとみんなも興味を持つもので、7人中6人が体験。2人が第1チャクラ(足)、1人は第1チャクラからの心臓(足から上へ血流が登らないことの滞り)、3人が第6チャクラ(頭)が弱っているとのことだった。

ダウジングの道具のひとつ、振り子(ペンデユラム)を使うことも。L字型の2本の棒を利用したものなら、かつて『ドラえもん』で読んだことがある。

ちなみに頭が弱っている3人は、それぞれ会社へ通勤するワークスタイル。人間関係、仕事、通勤電車と悩みは深いのか…。「廣東樓」は、いつしかレストランから気功院となっていた。
(※ちなみに通常、気功は15~17時まで、曜日によって施術場所等が異なる。詳しくは文末でどうぞ)

本来の予定であれば、この後、同じ蒔田で餃子やワンタンがおいしい「公珠(こうじゅ)」で点心を買う予定だったが、「秘伝の水」に誘われて、気づけば日が暮れる手前の時間。

チャクラ談義に花を咲かせつつ、「ツールドチャイナ横浜」一行は、石川町から横浜中華街へ至る最終ステージへと向かうのだった。

中国料理 廣東樓
神奈川県横浜市南区榎町2-62(MAP
横浜市営地下鉄(ブルーライン)蒔田駅下車 出口3番より徒歩4分
TEL 045-731-2021
火曜定休(不定休あり。15時以降は気功をしていることが多いため、行く前に確認を)
※和水気功施術院は「廣東樓」2Fです(2020年7月以降、1Fで再開していた気功施術も、廣東樓閉店につきクローズしています

TEXT & PHOTO サトタカ(佐藤貴子)
MOVIE よこぜきよし