台湾でよく食べられている家庭料理といえば、三杯鶏(サンベイジー|sānbēijī)です。“三杯”とは、ごま油・醤油・酒をそれぞれ一杯ずつ、同量入れて味付けした料理のこと。鶏以外にも、イカ(三杯中巻)、エリンギ(三杯杏鮑菇)、ナス(三杯茄子)などでも作られ、レストランでもよく見かけます。
この味付けは、台湾では九層塔(台湾バジル)を入れるのがお決まりの組み合わせ。三杯鶏なら、“三杯”の調味料に生姜やにんにくをたっぷり入れ、ぶつ切りにした鶏肉を煮込み、最後に九層塔を入れて、ふわっと香りが立ち上ったら火を止めればできあがり。
胡麻油、生姜、九層塔が合わさった複雑な香りに、ホクホクのにんにく、醤油のコク。シンプルな配合や、調理の手軽さはもちろん、ごはんもお酒も進む味付けなのが、長年親しまれている理由でしょう。
三杯鶏のルーツは中国江西省の客家料理
日本では台湾料理として知られる三杯鶏ですが、そのルーツは中国南東部・江西省の客家料理にあります。江西省では現在も名物料理のひとつで、13世紀後半には南宋の宰相・文天祥が処刑される前に食べ、それが出身地の江西省に伝わったという逸話もあるほど。
ただし、江西の伝統的な“三杯”は、ラード・醤油・甜酒釀(酒醸:糯米から作った甘酒に似た発酵食品)とされています(諸説あり)。その背景には、文天祥がいた獄中の事情で、調味料が1杯ずつしか使えなかったという言い伝えもあるよう。
歴史を振り返ると、江西式の三杯鶏が台湾に渡ってローカライズされたと考えられますが、三杯鶏のルーツが江西料理だということは、台湾においてそこまで有名な話でもないようです。
台湾気分を盛り上げる香り!台湾バジル「九層塔」とは?
そんな三杯鶏ですが、本家の江西省にはなく、台湾で欠かせない食材となっているのが九層塔(台湾バジル)です。九層塔は日本でよく売られているスイートバジルとも、タイ料理で使うホーリーバジルとも異なるスパイシーな香りが特徴で、料理に加わると「これぞ台湾の味!」という気分を盛り上げてくれる名脇役。
また、台湾では伝統的な市場で買いものをする際、九層塔を使いそうな食材を買うと、サービスで九層塔を渡されることも。例えば、鹹酥雞(台湾風唐揚げ)や、九層塔炒蛤蜊(はまぐりの台湾バジル炒め)など、九層塔を使う料理はたくさんあります。
残念ながら、私自身、日本の中華食材店で一度も見かけたことがなく、スーパーで気軽に買えるものではありませんが、栽培している農家さんや、三杯鶏を作るために自家栽培している店はあります。また、九層塔が元気に育つのは夏ということもあり、日本では夏の料理といえるでしょう。
そこで次のページでは、夏に食べたい九層塔を使った“三杯”料理を楽しめるレストランをご紹介します。