口水鶏(よだれ鶏)

40年余の歴史を刻み、家族代々、高島平在住の人々、転居後も遠方から訪ねる人々、そのお友達…。長年にわたり、多くの老若男女から愛される「中國四川料理 剣閣」。都営三田線新高島平駅から徒歩3分の老舗を訪ねました。

外観

「天下第一関」蜀の要衝の名を冠した、四川料理店。

総料理長は、塩野大輔さん。「剣閣」創業者であるお父さまの美味しい料理を食べてきたことで、継ぐように強く命ぜられたこともないのに、幼心に料理人を目指したそう。

大学卒業後は、お父さまも修業した「四川飯店」へ入社。8年間の修業を経て、原宿「龍の子」で料理長として6年間働いたのち、初代料理長の引退、震災の影響が重なり、2011年に「剣閣」の厨房に入りました。

剣閣スタッフ
厨房のみなさん。(前列左から)篠原さん、亀ヶ谷さん、森さん、田沼さん(後列左から)高さん(遼寧省瀋陽出身)、塩野さん、李さん(黒竜江省哈爾濱出身)

店名「剣閣」は『中国料理技術入門』の著者のひとりで、お父さまの先輩だった原田治さんが名付け親。

直接聞き伝えられたわけではないけれど、その険しさで名高い剣閣の山が、蜀(現在の四川省)の要所で『三国志』の蜀VS魏の最後の激戦地。「剣門関を得れば四川を得る」と喩えられたことから、この店をしっかり築いていくことで繁盛につながるようにとの願いが込められているような気がして、ありがたく、そして誇らしいと大切に思っているそうです。

中国料理技術入門
『中国料理技術入門』は、中華料理人、中華料理を愛する人、四川飯店ファンならおなじみであろう1冊。わたしのバイブルでもあり、多くを教えていただいています。

メニューを見ずともオーダーOK!? 中国式注文術

コロナ前までは、年に2回ほど四川省を訪ね、食材調達や現地の料理人と交流を重ねてきた経験から得たことを採り入れつつ、店の伝統を受け継いだ料理を提供。メニュー冊子や卓上スタンドには、数多くの料理がずらりと書かれています。

それらを見つめ、吟味して注文するもよし。ですが、オススメは〈おまかせ〉。具体的には、

*予算
*店頭掲示ボード「本日の特別野菜」から食材リクエスト
*肉や魚の選定
*ボリューム
*好き嫌いやアレルギー

というところからいくつかのポイントを押さえて、要望をお伝えするとよいでしょう。

本日の特別野菜

このような注文方法は、きっと中国渡航滞在歴のある方は懐かしさを覚えるかもしれませんね。メニューシートや冊子はほとんど見ることなく、席につくなり(もしくは席へ向かう途中で歩きながら早速)メニューの相談を始めるという場面が少なくないのです。

「剣閣」では、おまかせの相談や厨房への連絡役、料理の提供など、わたしたちが多くコミュニケーションをとるサービススタッフの皆さんの明るさも魅力。「剣閣」でも、個性あふれるスタッフが、丁寧にリクエストに応じてくださいます。

サービス陣写真
サービス担当のパラカスさん(左)、大場さん(右)※2021年2月10日まで行っていた、夕方の店頭販売時に撮影(画像提供:剣閣)

ネパール出身のパラカスさんは、元タンドール職人、原宿の店で10年余、シェフとして腕をふるっていた経験の持ち主。塩野さんが「龍の子」時代に知り合い、現在はサービス担当として、お店のムードメーカーに。

大場さんは、柔らかな物腰で料理や食べ方の説明を添えてくださり、お見えになるたびホンワカ癒されます。また、タイミングが合えば塩野総料理長と直々に相談できることも!?

今なお海外渡航解禁の兆しが見えぬなか、このような側面からも“旅するように”中華料理を楽しみに訪ねてみるのもよいでしょう。

5,000円でおまかせ。もう喜びが止まらない!

さて、今回お願いしたのは、友人同士3名、ひとり5,000円(税込)でおまかせに出てきたメニューはこちら!

生片三文魚(信州サーモンの中華風刺身)
生片三文魚(信州サーモンの中華風刺身)
雲白肉(くちどけ加藤ポークの薄切りガーリックソース)
雲白肉(くちどけ加藤ポークの薄切りガーリックソース)
香腸(台湾風腸詰)
香腸(台湾風腸詰)
小籠包
小籠包
口水鶏(よだれ鶏)
口水鶏(よだれ鶏)
樟茶鴨・夹割花卷(四川式スモークダックと花巻)
樟茶鴨・夹割花卷(四川式スモークダックと花巻)
竹筒湯(竹筒入り蒸しスープ)
竹筒湯(竹筒入り蒸しスープ)
拌海蜇皮(クラゲの冷菜)
拌海蜇皮(クラゲの冷菜)
韮黄魷花(モンゴウイカと黄ニラの塩味炒め)
韮黄魷花(モンゴウイカと黄ニラの塩味炒め)
豉辣羊排(フランス産ラムスペアリブの辛味豆豉炒め)
豉辣羊排(フランス産ラムスペアリブの辛味豆豉炒め)
海鮮豆花(海鮮と豆腐の煮込み)
海鮮豆花(海鮮と豆腐の煮込み)
剣閣担々麺
剣閣担々麺
流沙包(アヒル塩卵とろとろソース入りまんじゅう)
流沙包(アヒル塩卵とろとろソース入りまんじゅう)

盛りだくさん! 素材の持ち味を活かし、酸・辣・鹹・甜・苦・麻・香といった〈七滋〉を感じる料理を堪能しました!

ちなみのこの日の締めくくりには、さらに「剣閣」の名物が!

それは、お菓子作りが大好きなパートさんの新作スイーツ、黒ごまテリーヌショコラ。試食を分けていただきました。

黒ごまテリーヌショコラ
黒ごまテリーヌショコラ

これまでは、不定期ながら販売すると常に完売だった、山椒香る「剣閣」スタイルのガトーショコラが人気。

今回いただいた新作は、バレンタインデーに合わせた限定企画で、濃厚なチョコレートの滑らかな口どけにうっとり。余韻に黒ごまの味わいがしっかり効き、コーヒーやワインにも合いそう。

こうした特別メニューは「剣閣」のSNS(店舗情報参照)でチェックし、登場を楽しみに待ちましょう。

看板料理は樟茶鴨(ジャンチャーヤー)。ランチはツウな一品が人気!

なお、剣閣の招牌菜(看板料理)として、塩野総料理長イチオシの一品は樟茶鴨(ジャンチャーヤー)

樟茶鴨(四川式スモークダック)
樟茶鴨(四川式スモークダック)

こちらは、茶葉を含んだ特製のタレに鴨を漬け込んだのち、まるごと燻した四川名菜。スモークはヒバをベースにスモークチップを混ぜて燻します。今回はサクラを使用していますが、ヒッコリーやリンゴに替え、香りのイメージをアレンジすることもあるとのこと。行くたびに食べ比べたくなりますね。添えられた塩をちょこっと付け、一緒に出された切り込み入の花巻に肉をサンドするのもまた旨し。

そしてもうひとつ、人気の剣閣担々麺は、店内ではもちろんテイクアウトも人気。麺とスープを分けて持たせてくれるため、食べる直前に合わせることができるのは嬉しいですね。自家製辣油や胡麻の香り立つ濃厚なスープで、まだ寒い今の季節もしっかり温まれそう。

剣閣担々麺
剣閣担々麺

提供される点心類は、同じ場所にあるもうひとつの店舗「広東料理 飲茶 とうげんきょ」のもの。

かつては隣接で別店舗を構えていたのですが、どちらかに集客が偏る日などに、どちらの料理も知ってもらえたら…という想いから、1つ屋根の下で2店舗営業に至りました。

よって、席に着くと2店のメニューが置いてあります。もちろん、ランチタイムもそれぞれのメニューが。「とうげんきょ」の名物でもある「トライアングルランチ」は、①麺 ②飯 ③デザート 各5品ずつ用意された料理から一つずつ選び、自分だけのオリジナル3点ランチセットを作れることで人気。

一方「剣閣」のランチセットは、これまで圧倒的首位を独走していた麻婆豆腐を抜き、現在一番人気に君臨する一品は、台湾緑筍・黄ニラ・豚肉の黒胡椒炒めなのだそう! 常時提供ではないため、こちらも、「剣閣」のSNS(店舗情報参照)で要チェック。

台湾緑筍・黄ニラ・豚肉の黒胡椒炒め
台湾緑筍・黄ニラ・豚肉の黒胡椒炒め(画像提供:剣閣)

伝統に裏打ちされた美味しい料理、そしてそれぞれのポジションで輝くスタッフの皆さんの姿に、口福と活力を一気にもらえそうなお店です。


中國四川料理 剣閣

東京都板橋区高島平7-32-5(MAP
TEL 03-3939-6750
営業時間 11:00-16:00(L.O.15:30)、16:00-20:00(L.O.19:30 酒類は19:00)
定休日 なし
SNS facebook / Instagram

※営業時間と休日は状況に応じて変更の可能性があります。


text & photo :アイチー(愛吃)
中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。日本の中華のなかでも、中国人シェフが腕を振るい、郷土の味が味わえる“現地系”に精通。『ハーバー・ビジネス・オンライン』でも執筆中。