中国大陸の西北端に位置する新疆ウイグル自治区。その面積は、中国大陸のおよそ6分の1、日本の4倍半に匹敵する約166万㎢と実に広大。

接する国は多く、モンゴル、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、インドの8カ国。多くの民族と文化が融合している地域でもあります。

そんな新疆ウイグル自治区のカシュガル(喀什)は、タクラマカン砂漠の西端に位置し、シルクロードの要衝として発展したオアシス都市として知られます。

今回ご紹介する「シルクロードムラト」の店主・ウシュル エリ(吾守尔 艾力)さんは、ここカシュガルから来日。故郷の食文化を紹介する場として店を開き、なんと今年で15周年!

料理は清真料理(ムスリムの料理)。メニューには、小麦粉と羊肉を主食材とした多彩な料理が並びます。

「シルクロードムラト」外観。看板に「株式(会)社」とありますが、ドアを開ければそこはレストラン。
店主のウシュル エリ(吾守尔 艾力)さんとシシカワプ(kawap)。

特にコロナ禍で気軽に出かけられなくなった2020年の春頃から充実しているのが、ナンや羊肉がたっぷり入ったサムサ。

店のタンドールでたくさん焼き、イートインはもちろん、テイクアウトや遠方への配送にも対応するようになりました。

東西交易の路途、シルクロードのオアシスでひと休みする気分で、カシュガルの家庭の味を楽しむことができる手段が増えたのですから、これは朗報! いったいどのように作られているのか、ある日の工程を追ってみました。

焼きたての香りに興奮!タンドールで焼き上げる香ばしいナンとサムサ

タンドールで焼く料理を主に担当するのは、ウズベキスタン出身のベフティヤルさん。店主エリさんもサポートします。

タンドール担当のベフティヤルさんはウズベキスタン出身。

ナンやサムサは、営業時間中にイートインで注文を受けた料理を作りながら同時進行。店内の料理提供がひと段落したらタンドールをON。

水を壁面に当てながら釜の中の温度を微調整し、適正な状態を見極めたら、テンポよくナンやサムサを釜の内側へ貼り付けていきます。

ぷっくりドーナツ型がそそる!ギルダーナン

主力商品のひとつであるギルダーナン(girda nan)は、中央部が凹んだ丸型のナン。食べるとほんのりと牛乳の香りと甘みも感じられ、料理の汁、スープ、ミルクティーなどにつけたり、ジャムをつけてもおいしくいただけます。

ギルダーナン(320円税別)

成形時のポイントは、剣山のようなスタンプ型の刺し器具で、凹んだ部分へ押し刺すこと。すると中の空気が抜けて、ギュッとしまった生地に焼き上がるそう。

右端にあるのが剣山のような押し器具。

仕上げに表面全体に牛乳を塗るとツヤが出て、風味付けと飾りを兼ねたごまが留まりやすい状態に。

2色のごまを振って仕上げます。

焼き上がったら、長い柄のL字型の金具で、先端を凹みにひっかけて釣り上げ、取り出して粗熱をとって冷まして…と休み時間返上、じっくり丁寧に作られています。

ギルダーナンは約60個、一度にタンドールに貼り付けることができます。

羊肉たっぷり!小さくてもずっしりのサムサ

そしてもうひとつの主力商品、サムサ(samsa)は、中にたっぷり羊肉が入ったおかずパン。

羊肉がたっぷり詰まったサムサ(350円税別)。

あらかじめ作っておいた円型の生地を、端部を薄くするように再び棒で伸ばし、「えっ!? そんなに包みきれる!?」というくらいたっぷりの羊肉餡を生地にのせて包みます。

サムサの生地は綿棒で薄く伸ばします。

秤の上で計量確認しているようですが、既に手が覚えているようで、ほぼひと握りで均一にのせていきます。熟練技!

サムサは約110個を、一度に壁面へ貼り付けることができます。

包み終えたら表面に水を塗り、表面の粉っぽさを取りツヤを出したら、タンドールに貼り付けて焼き上げます。

ムラになった焼き色がそそります。

普段はこれら2品が定番ですが、カクチャナン(ギルダーナンより平たい型)など、違うものも焼くことがあるようです。

ありがたいのが、焼いた時だけ注文を受け付けるのではなく、随時受付中なのだそう! 個数の相談以外にも、タイミングによって自家製ジャムや辣油の用意もあります。

ナンやサムサ以外にも、ほとんどの料理はテイクアウトOK。詳しくは、文末の店舗情報欄の連絡先から問い合わせしてみてくださいね。

小麦粉と羊と野菜でしみじみうまい!カシュガルの家庭料理

今回訪ねたとき、ギルダーナンとサムサの他に食べた料理も少し紹介いたしましょう。まずはラグメン(lagumen)。中央アジアや新疆ウイグル自治区で食べられている手延べ麺です。

ここでは細麺か、きしめんのチョイスが可能。麺にかけるのは、羊肉と野菜炒めが基本。もうひと皿は、卵と野菜炒め(まかないバージョン)でした。

ラグメン。肉と野菜炒めがかけられています。
ラグメンその2。まかないバージョンは卵と野菜炒めがかかっています。

続いてはシシカワプ(kawap)、ラム肉の串焼きです。

シシカワプには、オーストラリア産の柔らかいラム肉を使用。注文は2本からになります。

中国でも全国各地で羊肉串は人気がありますが、店主エリさんの出身地であるカシュガル(喀什)のそれは、他の地域と一線を画す自慢の料理。他でよく見るものは、羊肉の小さな塊ですが、カシュガルのものは大きな塊。じっくり下ごしらえした肉は、クミンや唐辛子の香味に頼りすぎず、使う量は最小限です。

ゴイロセイ(goyro sey)は、ラム肉と野菜の炒めもの。赤色はトマト。辛くなくさっぱり目な口当たりです。

ゴイロセイ。親しみやすいビジュアルです。

これらはエリさんたちご家族が「おいしいよ〜、いつも食べているよ」という、自らが大好きな料理。近隣在住の同郷人たちも、ここがオアシスであるかのように集まり楽しむ、故郷の味。

店名でもあり、息子さんの名前でもある「ムラト」は、ウイグル語で「希望」「夢を叶える」という意味です。以前のようにみんなでワイワイとカシュガルの美味に舌鼓を打てる日の再来を願って、今できる可能な限りの方法でムラトの料理を楽しみましょう!

店主のウシュル エリ(吾守尔 艾力)さん(写真右)、サービスと調理補助を行う奥さんのアイトルソンさん(写真左)、タンドール担当のベフティヤルさん(写真手前)。※ベフティヤルさんはウズベキスタンに4月に帰国予定。帰国後は店主と奥さんが作る予定です。

シルクロードムラト

埼玉県さいたま市桜区栄和3-20-13(MAP
TEL 048-852-3911
定休日 月曜日(祝日の場合は営業)

▼アクセス
バス推奨:路線はいずれも「北浦03 埼玉大学行き」
▽南与野駅(JR埼京線)から(乗車約5分)
・国際興業バス・西武バス「南与野駅北入口」乗車→「栄和北町」下車
▽北浦和駅(JR京浜東北線)から(乗車約8分)
・国際興業バス「北浦和駅西口(北浦和公園前)」乗車→「栄和北町」下車
・西武バス 「北浦和駅」乗車→「栄和北町」下車
▽徒歩
・南与野駅から約1.5km(約20分)

▼営業時間
▽通常の営業時間
・平日17:00-23:30(L.O.23:00)
・土日祝 11:30-15:00(L.O.14:30)17:00-23:30(L.O.23:00)
▽コロナ対応中の営業時間(2021年3月10日現在)
・平日 17:00-20:00(L.O.19:30 酒類L.O.19:00)
・土日祝 11:30-15:00(L.O.14:30)17:00-20:00(L.O.19:30 酒類L.O.19:00)

▼サムサ・ナン等の注文方法(口頭ではなくテキストメッセージでお願いします)
・店のfacebookページ経由でメッセージ
・LINE電話番号検索(070-6528-8162)で「ウシュル エリ」さんのアカウント宛にメッセージ
・上記電話番号宛にショートメッセージ


text & photo :アイチー(愛吃)
中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。日本の中華のなかでも、中国人シェフが腕を振るい、郷土の味が味わえる“現地系”に精通。『ハーバー・ビジネス・オンライン』でも執筆中。