ネギ餃子(焼き)

中国・吉林省で麺点師の資格を取得した吉村千恵子さんと、料理人の隆一さんが厨房に立つ「吉春」では、注文ごとに皮を延ばし、幾種類もの餡を練り、ひとつひとつ手で包みます。

「口コミサイトにもよく”ご夫婦の店”なんて書かれるんですよ。本当は姉と弟なんですけど」。そう苦笑するのは、2020年12月、調布市国領にオープンした餃子専門店「吉春(よしはる)の店主、吉村千恵子さん。

「もともと私と弟は吉林省で中国人の父と日本人の母の間に生まれました。吉林省など中国の北方ではでは小麦粉料理を主食としていて、どの家庭でも餃子はよく作ります」

「吉春」店主の吉村千恵子さん(左)と弟の隆一さん(右)。

千恵子さんは高校卒業後、地元のホテルに就職。現場での経験を積み、麺点師の資格を取得します。資格取得にあたり、餃子はもちろん、饅頭、パンに麺など、一通り小麦粉を扱う料理を体得。さらに現場で経験を積んだのち、1995年、両親とともに日本に移住します。

来日後は、飲食店や医療事務職の傍ら、休日にイベントやお祭りで「吉村餃子」を出店。地道に餃子のファンを増やしながら、昨年「吉春」の開店にこぎつけました。

「吉春」外観。

跳ねるような食感の水餃子と、香ばしさに震える焼き餃子。

鉄板で焼き上げられた焼き餃子の香ばしさは見た目にも力強く、水餃子のむっちりした皮は跳ねるような弾力で口内を躍ります。ていねいに練って詰められた餡は食べごたえはあるのに、やさしい味わい。いくつ食べても食べ飽きません。

「最初は水餃子の専門店を考えていたんです。吉林省では正月に向けて年末にたくさんの餃子を仕込んで、食べきれないほどの水餃子を作りますから。日本では焼き餃子とビールは欠かせませんが、吉林省にいた頃の焼き餃子と言えば、余った水餃子をフライパンで焼いた『煎餃』。年末に余るほど作った水餃子を正月に焼いて食べるんです」

中国では「余」ることが「余裕がある」「縁起がいい」と考えるので、まずは水餃子を余るほど作って、翌日に焼き餃子に展開したりするのが一般的なのだとか。

スタックできる木製バットを始め、店内の木工品は二人のお父様の手によるもの。「作るのが好きみたいですね。餃子のバットも吸湿性があったほうがいいのでありがたいです」

10種類から選んで楽しむ珠玉の餃子コース

ランチの人気は水餃子と焼き餃子の2種類から選べる「吉春餃子」の定食ですが、この店の真骨頂は10種類の餃子がそろうディナータイム。少し小ぶりで1人前6個入りの水餃子5種類、やや大ぶりで1人前5個入りの焼き餃子5種類、合計10種類の餃子から選ぶことができます。

水餃子、焼き餃子に共通する餡は、キャベツと豚肉をベースにした日本風の餡。水餃子用の餡は、白菜、ピーマン、海老の3種で、焼き餃子用の餡は大根、玉ネギ、人参の3種類。そう聞くと、ついあれもこれもと食べたくなってしまいます。

といっても、夜の「吉春」には前菜や主菜など餃子以外にもつまみになるメニューが盛りだくさん。餃子を包んでもらう前に、前菜や主菜などを何品か頼んでおくと、餃子を包んでもらう間の待ち時間も楽しくなるというもの。

前菜の干し豆腐や馬鈴薯のシャキシャキ和えなどもおいしいのですが、今回は取材も兼ねているので、まずはメニュー上に3種類ある「主菜」をコンプリートすることに。

餃子の前のお楽しみ。胃袋を開く前菜の数々

中華風鯖煮は、醤油ベースで隠し味にトマトを使ったしっかりした味わい。塩豚は塩だけで漬け込んだシンプル&ストレートな味つけで、よだれ鶏は黒ごまと香辛料で豊かな風味を演出しています。

中華風鯖煮

「鶏、豚、魚で一品ずつ、さまざまな味わいを楽しんで頂くことを考えました。ただあくまでも餃子が主役の店ですから、前菜や主菜は塩気を効かせすぎない味つけを心がけています」

塩豚
よだれ鶏

道理でどの皿もつまむほどに、お腹が空いてきます。その間目の前では球状の生地がひとつひとつ伸ばされた餃子の皮に、小さなボウルで練られた餡がていねいに包まれていきます。

ビールで肉つまみを食べながら、眼前では餃子の手包みライブエンターテインメントが繰り広げられる。ああ、なんてうっとりするカウンターなのでしょう。気持ちが十分に高まったところで、いざ、餃子に突入!

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