和の惣菜が並びそうな、居酒屋の雰囲気満点な店の前。看板を横目に通り過ぎかけると、“梅”の字の上のふりがなが目に留まりました。それは、“うめ”でも“ばい”でもなく…“めい”

そう、ここは中国から来た梅(めい)ちゃんが営む店。出身は中国最北端・黒龍江省の省都、哈爾濱(ハルビン)市。2019年3月3日にオープンし、2022年の3月に3周年を迎えています。

先日そのタイミングで伺ったところ、3周年記念サービスメニューを提供しての絶賛営業中。店にいる間、地元の常連さんが絶えず「おめでと〜う!」と来店しては花束や祝杯をあげていて、温かな祝意に包まれていました。

この店で楽しめるのは、料理上手のお父さんのレシピをベースにした、ありのままの家庭料理。その想いを店名の“台所”に込め、“中国料理店”、“東北料理店”との違いを表現しています。

三鷹の老舗「餃子のハルピン」でも7年間お手伝い。お手製の粉ものが充実

メニューや壁に貼られたおすすめ料理のほか、「本日の野菜」から好きな野菜を選べるのも、梅ちゃんのお宅の台所へお邪魔しているかのように錯覚してしまいそう。この日は定番メニューに加えて、梅ちゃんが口頭でおすすめしてくれた「3周年記念サービス価格メニュー」からも注文してみました。

カウンター席から見える壁面には、娘さん手書きのメニューも。

「ナスとじゃがいも醤油炒め」は、この名から迷わず地三鮮(ディサンシェン|dìsānxiān)を想像してしまい「やはり東北人に馴染み深いのだなぁ」と思いながら注文。

すると、ピーマンに替わってにんじん・小松菜が加わり、仕上げに香菜を散らした、梅ちゃんアレンジ版。食べてみると、にんじんの甘みもなかなか好相性! 後日、自宅でも再現したほど気に入った組み合わせでした。

ナスとじゃがいも醤油炒め。ピーマンの替わりににんじん、小松菜入り。仕上げに香菜を散らした梅ちゃんスタイル。

続いては「中国生春巻き」。これ、わかりますか? 揚げない・食材を巻く・東北…。「これは春餅ですか?」「おぉっ、そうそう」!

手作り生地に、葱・キュウリ・チャーシュー・甜麺醤をお好みの量で巻いて。 ちょっと厚めでモチっとした食感の生地には、まず甜麺醤をさらりとひと塗りし、怯まずたっぷり具をのせ、最後に再び甜麺醤。しっかり味付けふわりと巻き、勢いよくガブリといきましょう!

中国生春巻き(春餅)。きゅうり、葱、チャーシューに甜麺醤をつけ、小麦粉の生地で巻いていただきます。

東北地方の味覚でもある餃子は、ニラ・セロリ・大葉・エビの4つの味が定番。ときどき酸菜(白菜の漬物)を使った餡などが加わり、それぞれ水(茹で)または焼きを選べます。ほかにも肉まん、お焼き(餡餅)など自家製の面食(小麦粉の料理)が充実しているのは、やはり哈爾濱出身だからかもしれません。

セロリ水餃子
ニラ焼き餃子
手作りの包子(餡入り饅頭)。(画像提供「梅ちゃんの台所」)
餡餅(おやき)。たまご・干しエビ・春雨・ニラが入った餡を小麦粉の生地で包み、香ばしく焼いています。(画像提供「梅ちゃんの台所」)

ちなみに、三鷹・餃子・哈爾濱出身と聞くと『餃子のハルピン』を思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。

尋ねてみると、梅ちゃんは同店に7年ほど勤めていたことがあり、同郷かつ日本生活の先輩である二宮千鶴さんを「日本のお姉さんのような存在」なのだと話してくれました。コロナ禍で最初の緊急事態宣言中は、自店を休業して『餃子のハルピン』のお取り寄せ対応を手伝ったのだそう。

哈爾濱(ハルビン)といえば腸詰!冬に仕込み、売り切れ次第終了の限定品

さらに自家製腸詰も見逃せません。腸詰といえば哈爾濱の名物。梅ちゃんも、ご主人に手伝ってもらいながら今冬10kg仕込んでおり、なくなり次第終了、季節限定の一品です。こちらは冷凍状態で持ち帰り、家で蒸していただくと、噛むほどに旨味が滲み出し、腸詰へ伸ばす手が止まりません。

また、パクチーの佃煮は梅ちゃんのお父さんがよく作ってくれた料理。饅頭や花巻、お粥などに入れて食べていたそうで、香菜の葉や茎だけでなく、刻んだ根も入っています。辛味をガツンときかせていて、このままちょいとつまめばお酒のお供にもよさそう。わたしはお持ち帰りにしてごはんの友に。おかわり必至!

パクチーの佃煮(上)と自家製腸詰(下)。
厨房にぶら下がる、仕込み中の自家製腸詰。

参考までに、80C(ハオチー)の記事でも人気を集めた中国東北料理の「地三鮮(ディサンシェン」や、常連さんの定番になりつつあるという「キャベツと干しエビと春雨のピリ辛炒め」も人気の一品。

「地三鮮」はじゃがいも、なす、ピーマンを素揚げして醤油味で炒めた野菜料理。「キャベツと干しエビと春雨のピリ辛炒め」は、赤くないので、油断していると、ガツンと利かせた青唐辛子の辛みが。ヒーヒー汗をかきながら頬張るのがクセになるらしい!

中国東北料理の定番中の定番、地三鮮です。(画像提供「梅ちゃんの台所」)
キャベツと干しエビと春雨のピリ辛炒め。(画像提供「梅ちゃんの台所」)

お酒はビール・紹興酒・ブランデー・焼酎で仕込んだ自家製梅酒などが揃いますが、人気があるのは日本酒。常連さんのリクエストとアドバイスで少しずつ置くようになったところ「中華料理を気軽につまみながら日本酒を飲める店ってなかった。嬉しい!」との声が続々。女性おひとりの来店もグンと増えたのだとか。

日本酒のラインナップはホワイトボードに。女性客を惹き付けています。
アルコールは自家製梅酒なども。ソーダ割りや水割りで。

ほかにもこの日は、3周年記念サービス価格メニューの「枝豆ビール蒸し」「ザーサイ炒め」「エビチリ」「セロリと豚団子塩煮込み」と、木須肉、スパイスラムチョップ、チャーハンをオーダー。梅ちゃんの故郷の家庭料理を通じて、哈爾濱の風情を感じることができました。

「3周年記念サービス価格メニュー」より、右上から時計回りに「枝豆ビール蒸し」「セロリと豚団子塩煮込み」「エビチリ」「ザーサイ炒め」。
木須肉はきくらげと豚肉の卵炒め。青菜たっぷりが梅ちゃんスタイル。

梅ちゃんの人柄に惹かれて集って3年目。三鷹の憩い場、ここにあり!

ひとりで来ても、梅ちゃんと、そしてお隣さんといつの間にか楽しんでいる、みんなが自然と和んでしまう「梅ちゃんの台所」。しかし、そう簡単に軌道にのったわけではありません。

特にオープン後半年くらいは来客ゼロの日も少なくなく、そばで飲食店を営む同郷の“もう1人のお姉さん”の肩を借りて涙し、支えてもらったことも度々。

「今、こうして楽しい店づくりをできているのは、そばに居る同郷の2人のお姉さん、故郷と日本の家族、足を運んでくれるお客さんのおかげなのです」

梅ちゃんからは感謝の言葉がつきません。と同時に、周りに人を呼ぶ求心力はやはり梅ちゃんの持ち味。「その日本語違うぞー」「こりゃずいぶん辛いなぁー」などとお客さんのツッコミに、カラリと笑顔で応じながらすぐ改める素直なやりとりは、見ていて気持ちいいほど。ハキハキとした快活さも手伝って、梅ちゃんのファンはどんどん増えていったのです。

今ではお客さんと一緒に高尾山へ登山に出かけたり、バドミントンなどの地域活動に参加するなど、店以外での交流も深まっているのだそう。聞けば、遡ること中学時代からずっと「生活委員(学級委員のような役割)」として、いつしかみんなの中心にいたという梅ちゃん。地域に根差し、愛される店になるのも納得なのでした。


梅(めい)ちゃんの台所

東京都三鷹市下連雀3-22-19 エトワール三鷹第三 B2(MAP
TEL 0422-29-9426
営業時間 17:00-23:00(まん延防止等重点措置等期間中は21:00閉店)
日曜・祝日定休
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※緊急事態宣言期間中およびまん延防止等重点措置がとられている期間は、営業日や営業時間に変更がある場合があります。また、酒類の提供も停止されることがあります。最新の情報は店に直接お問い合わせください。


text & photo :アイチー(愛吃)
中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。中華料理にまつわるコーディネート、アドバイス、監修などを行う。一つの「食」を愛し、味も知識も徹底的に極めた「偏愛フーディスト」がプロデュースする期間限定レストラン『偏愛食堂』中華料理担当として、多彩な中華地方菜の楽しさを伝える。