空気も香りも全部ごちそう!イチ推しはドラム缶窯で焼く羊の丸焼き

この日のメイン料理として用意してもらったのは、ドラム缶窯で焼いた烤半羊(羊の丸焼き・半身)と、中国東北地方の名物料理である鉄鍋炖(鉄鍋煮込み|铁锅炖)

羊肉は最近どこでも食べられるよね? と思う方もいるかもしれないが、窯を開けて煙とともに現れるローストラムの姿と香りは、街場のレストランでは体験できるものではない。

ドラム缶で窯は手づくり。羊は1頭20kg相当。半身の注文もできる。

調理する羊肉はニュージーランド産。今回の食事で唯一、北海農場産ではない食材だが、広々とした農場の食体験として、これ以上ないエンターテインメントだ。

友人が駆け寄って窯を開けた。すると、煙とともにこんがりと焼けた羊の半身が登場。この感動は普通のレストランでは体験できない。

聞けば、羊肉は我々の到着時間に合わせて、4時間以上かけて炭火でじっくり火を入れたという。これを見たら即、食事処に直行したくなる。

なんていい焼き上がり!

焼きたての羊塊を眼前に、乾杯は哈爾濱啤酒(ハルビンビール)というのも気分が盛り上がる。ライトな飲み口が主流の中国産ビールだが、こちらはほのかな酸味と、しっかりとした飲みごたえがあるのが特徴。

解体した烤羊肉を持って現れた范さん。友人が喜びのあまりビールを掲げる。

哈爾濱啤酒の本拠地は、中国東北地方最北端の省、黒龍江省哈爾濱市。中国最古のビール工場として知られており、日本ではまだ飲めるところが少ないので、ここで思う存分飲んでいただきたい。

哈爾濱啤酒のプレミアムラガー。ここに来たらケースで頼むのがおすすめ。

そして、ドラム缶窯で焼いた羊肉は、手にはめたビニール手袋でほぐせるほどに軟らかい。裂いた肉の断面は瑞々しく、表面の皮はクリスピー。特にあばら骨の周辺は香り高く、文句なしにおいしい。

焼き色も身の食感も素敵。

そのまま食べても十分おいしいのだが、唐辛子粉やクミンをブレンドしたスパイスをつければ、さらにビールが進んでしまう。敷地内には中華食材店もあるので、味変を楽しみたい人はそこで何か調味料を購入するのも一興だ。

鶏を絞め、鉄鍋で煮て、豪快に食べる農家料理「鉄鍋炖」とは?

そしてもうひとつ、ダブル主役のもう片方が鉄鍋炖(ティエグゥオドゥン:鉄鍋煮込み)である。

この調理が実に豪快。ぶつ切りにした家禽や豚肉を野菜や粉条(幅広春雨)と一緒に大きな鉄鍋に入れ、鍋肌に玉米餅(トウモロコシ粉で作ったバンズ)を貼り付けて加熱する料理だ。

「鉄鍋も手づくりです」と范さん。中国の農家楽はなんでも手づくりのところが多いが、それは日本でも一緒だった。

この調理法は、一度に煮ものと蒸しものができる合理性もあり、中国東北地方では定番の農村料理として知られる。

材料は鶏や豚肉、牛すじなどさまざまだが、ここでは敷地内で飼育された鶏またはアヒル、ガチョウを選びたい。「鉄鍋の具は鶏が定番ですが、広東人にはアヒルが人気です。ガチョウは月に1回くらい注文が入りますね」ということで、どれを選ぶかはあなた次第。

食べ方は、骨ごとぶつ切りにし、そこから染み出るエキスや内臓まですべて味わい尽くすのが中国式だ。

大鵞鍋(ガチョウの鍋)。黄色い円形のものが玉米餅(トウモロコシのバンズ)。この日はビニールハウスではなく、冷房の効いた室内で食べたため、鉄鍋ではなくボウルに盛りつけられている。

参考までに、写真のガチョウは八角や唐辛子などのスパイスを効かせ、こっくりと醤油味に煮込んだもの。肉のみをしっかり味わう広東料理の焼味(ロースト)とは全く異なる景色がここにある。煮汁にバンズを浸しながら食べれば、気分は哈爾濱(ハルビン)あたりの農家楽だ。

ガチョウのハツが丸ごと入っていた。新鮮そのもの。

なお、羊の丸焼きと鉄鍋煮込みは諸々の準備と仕込みがいるため、事前に電話等で予約がいる。季節によってはイノシシやシカ肉も選べるそうで、いずれにせよ相談して決めたいところだ。

それ以外に旬の野菜を使った冷菜や炒めもの、地鶏の卵を使ったメニューがあり、こちらはその場で注文可能。これらはいい意味で拍子抜けするくらいあっさりとした家庭料理なので、肉と一緒に食べるといい塩梅だ。

拍黄瓜(きゅうりのにんにく和え)。
絲瓜炒鶏蛋(ヘチマと卵の炒めもの)。
干煸四季豆(インゲンの炒め)。インゲンから水分を抜くようにシボシボになるまで炒めた一品。鮮度がよく、味付が控えめなのがいい。
清炒米苋(紅ひゆ菜の炒め)。フューシャピンクの炒め汁にぎょっとするかもしれないが、クセがなく繊細な味わい。

民泊施設に大注目!北海農場でできる10のこと。

こうして1日を振り返ってみると、ここでできるコンテンツの多さに改めて驚く。

①ドラム缶窯で焼いた羊の丸焼きで盛り上がる
②絞めたての家禽で作った中国東北式の鉄鍋料理に舌鼓
③とれたて野菜の素朴な家庭料理にしみじみする
④哈爾濱啤酒(ハルビンビール)をとことん飲む
⑤食前食後にビリヤード、卓球、中国将棋、ダーツ、ブランコ、幼児を遊ばせるなど
⑥鶏、アヒル、ガチョウ、山羊を見て癒される
⑦農園体験(中国野菜の摘み取り体験、とれたて椎茸、ネラの卵を購入)
⑧小川と鯉を眺める

ざっと挙げただけでも8つあるが、現在は民泊施設も準備中。正式オープンは2023年の年末を予定しており、ここがオープンすると⑨宿泊、⑩カラオケという2コンテンツが追加される。

今回、ひと足お先に試泊させていただいたのだが、偶然にもこの民家が山口智子さんの元ご実家。家の中には、昔のポスターや、「山口」の名前が入った懐中電灯もあった。

玄関に飾られていたポスター。

敷地内には母屋と離れがあり、母屋は5組ほど宿泊可能。母屋の1階には、農家楽の必需品である中国式の全自動麻雀卓があり、離れの1階は防音完備でカラオケもできる。

しっかりとした日本家屋。夏休みに祖父母の家に来たような感覚になる。
正方形のテーブルに見えて、中国の全自動麻雀卓。
離れのカラオケルーム。

思えば、中国の農家楽には、農業の傍らレストランをやっているところと、レストランで農作物を育てているところがあるが、想像の斜め上をいく展開が待っているのは圧倒的に前者だ。そこには、いつも日本人には想像だにできない多様な世界がある。

北海農場もまた前者の農家楽といえる。現在進行形で変化しているところも含めて、今後も目が離せない一軒となりそうだ。

北海農場

住所:栃木県栃木市大平町西野田1077(MAP
※最寄駅は東武日光線新大平下駅から徒歩34分ですが、車で来ることをおすすめします。
TEL 03-5839-2398(予約電話)※基本的に予約してください。
TEL 0282-25-6296(農場直電)

<料理予算の目安>※要予約メニュー
▼羊肉
・烤全羊(丸焼き)65,000円(冷菜4品、温かい料理2品、羊スープ1品付き)
・烤半羊(半身焼き)35,000円(冷菜2品、温かい料理1品、羊スープ1品付き)
※烤半羊を注文する際は、人数は少なくとも7名以上をおすすめします。
▼鉄鍋炖(鉄鍋煮込み)
・のびのび育てられた鶏(4~8人:鶏の種類と大きさによって異なる)8,980円~12,800円
・のびのび育てられたガチョウ(6~8人)35,800円
・ジビエ(イノシシ、シカ)時価
※その他、中国式BBQ等もあり。基本的に予約の上お越しください。

<野菜収穫体験>
・旬の野菜を時価で販売。収穫したものを購入しても、自分で体験してもOKです。
・タイミングが合えば、農園で平飼いの鶏の卵も購入できます。
公式サイト


TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)