北部は亜熱帯、南部は熱帯気候に属する台湾は、暑さを乗り切るための食べものや飲みものを挙げれば枚挙にいとまがありません。

これまでにご紹介した酸梅湯(さんめいたん)仙草(せんそう)がその代表格ですが、忘れてはいけないのが愛玉子(あいぎょくし:オーギョーチ ※愛玉とも)です。

愛玉子(愛玉)は植物としての種子、愛玉子で作ったゼリーの両方に使える言葉ですが、この記事では、台湾における主な呼称に準じて、基本的に[愛玉子=種子・食材][愛玉=愛玉ゼリー]として表記します。

 

ゼラチンや寒天なしでぷるぷるゼリーができる愛玉子とは?

愛玉子はイチジクの仲間のつる性植物で、台湾固有の植物のひとつです。そのユニークな特徴は、種子を水の中で揉んで混ぜると、種子に含まれているペクチンと、水に含まれているカルシウムが反応して自然と固まるところ。

こうしてできたゼリー状のものを、台湾では愛玉凍(アイユゥドン:àiyùdòng)といい、台湾の店や屋台では、愛玉愛玉冰(アイユゥビン:àiyùbīng)と表記して売られているのを見ることができます。

愛玉の種子(左)と、カップに入った愛玉凍(右)。店頭では愛玉や愛玉冰と呼ばれます。

その食感は、ゼラチンや寒天で固めたゼリーとは少々異なり、もっとやわらかく、より水分を感じ、スルッと喉を通り抜けていく繊細さが特徴。食欲のない暑い夏、果物やシロップと一緒に飲んだり食べたりするのにちょうどよい食べものといえます。

台北で愛玉を売る店。大きなボウルに、愛玉と青レモンが一緒に浮かべてあり、すくって提供されます。
台北市「松江市場」の愛玉売り場。中央の黄色っぽいゼリーが愛玉です。ちなみに右隣は仙草ゼリー。

また、愛玉子はローカロリーで食物繊維が豊富。解熱やデトックス効果あるといわれるヘルシーな食材です。

愛玉子と似たものに、四川省をはじめ、中国南西部で親しまれている冰粉(ビンフェン)がありますが、いずれにせよ、これらの植物を見つけ、水で揉んで食べてみようとした昔の人はすごいですね。

NHK朝ドラ『らんまん』の主人公・牧野富太郎博士が名付け親

実はこの愛玉子、日本人ともつながりがあります。それは、現在NHKで放送中の朝の連続ドラマ『らんまん』の主人公のモデルとなっている牧野富太郎博士です。

牧野博士は、日本の植物分類学の礎を築いた学者で、「雑草という名の植物は無い」という言葉を残した人物。新種や新品種など約1,500種類以上の植物を命名しており、愛玉の学名もまた博士が名付け親となっています。

1896年、台湾でも植物の調査と採集を行っており、1904年、台湾の嘉義で採集したものから新種の発表がされた際、博士はのちに愛玉として親しまれる植物を《Ficus awkeotsang Makino》と名付けました。

その後、正式な学名は《Ficus pumila var. awkeotsang(Makino)Corner》となっています。今後『らんまん』をきっかけに、愛玉の存在と名前が、もっと広まることを期待せずにはいられません。

乾燥させた愛玉子の種子。

オーギョーチーとアイユゥ、どちらの呼び名が正解?

愛玉子は、日本ではオーギョーチ(オーギョーチー)という名前で親しまれていますが、これは台湾語の薁蕘子(ò-giô-chí)が由来です。一方、本家の台湾では中国語の愛玉(àiyù:アイユゥ)と呼ばれることが多いよう。

台湾中部出身の友人に聞いてみたところ、呼び方は年齢や地域によって異なるものの、台湾語の会話の中でも、愛玉だけ中国語読みになることもあるそうです。

台南の成功夜市にて。愛玉+檸檬の組み合わせで販売。

もし、台湾で愛玉子を注文するなら、台湾の方に日本語発音で「オーギョーチ」と伝えるより、中国語の愛玉「àiyù(アイユゥ)」、または筆談のほうが早いかもしれません。現地でぜひ試してみてください。

さて、台湾の食材の中では、缶詰が輸入されていることもあり、かなり昔から日本で知られている愛玉子ですが、意外と本物を食べられるところは多くないのが現状です。

そこで次のページでは、1年を通じて手作りの愛玉を食べられるお店を紹介します。

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