出荷するだけの農業から、さまざまな体験ができる農家楽へ!社長に聞いた北海農場のあゆみ

食事、遊技、野菜摘み取りなど、さまざまな体験ができる、夢の”ビニールハウス農家楽”を生み出したのは、中国山東省出身の范継軍(はん・けいぐん|ファン・ジージュン)さんである。

「子供の頃、農業の手伝いをしたくなくて、一生懸命勉強をして大学に進学して、ソフトウエアを開発する仕事に就きました。自分で事業を興しもしましたが、今になって農業をやることになるとは思いませんでしたね」

そう話す范さんは、2016年に知人の誘いで椎茸栽培に着手。2019年頃から中国料理店でニーズの高い香菜や葉にんにくを育て始め、今では1年を通じてさまざまな野菜を育てているという。

椎茸の菌床栽培ハウス。中に入るときのこのいい香りが漂い、空調管理されているので真夏でもちょっと涼しい。
北海農場のルーツとなった椎茸の菌床栽培。1年を通じて収獲できる。

「最初は趣味的に始めた」という農業だが、本業のITの知識を活かし、野菜のEC販売にも着手。現在は栃木市の西野田、真弓、大塚町の3か所に野菜栽培用のビニールハウスを100棟以上保有し、露地と合わせて約5ヘクタール(15,125坪)の土地で農作物を栽培。東京を中心に旬の野菜を出荷している。

ささげを栽培しているビニールハウス。こちらは遮光幕なしなので、真夏はなかなかの蒸し暑さ。

こうして軌道に乗った農業だが、なぜ手間のかかる農家楽へと1歩を踏み出したのだろう。 范さんはこう話す。

「北海農場を見学に来る人や、農業を体験したいという方が徐々に増えてきたからです。ここに滞在する間に、休憩や食事は必要になりますから、だったら農家楽もやろうと思いました」。

さすがの行動力である。2021年後半に準備を始め、正式に農家楽をオープンしたのは2022年2月のこと。最初は中国人のお客さんがほとんどだったが、現在は8割が中国人、2割が日本人で、近隣のお客さんも少なくない。

ささげの花。つまりスイートピー。

ちょうど筆者が訪れた7月下旬は、酸豆角(スァンドウジャオ)でおなじみのささげと唐辛子が全最盛期。

唐辛子は激辛の辣妹子(ラーメイズ)、大ぶりであまり辛くない羊角(ヤンジャオ)、しぼしぼで細長い形状の線椒(シェンジャオ)の3品種を主に育てており、これらの摘み取り体験もできる(料金は重量で精算)。

新鮮な中国野菜はどこでも簡単に手に入るものではないので、料理好きにとっては否応なしにテンションが上がる。

収獲したささげは1kg800円(時季による)。収穫量に応じて、グラム単位で買い取ることができる。
都内の中華食材店でも時々みかける羊角(牛角とも)。あまり辛くない唐辛子の一種で、炒めものに適する。摘み取り価格は1kg400円(時季による)。

鶏、アヒル、ガチョウも飼育。山羊は草食みに大忙し

また、中国の農家楽といえば地鶏が欠かせないが、ここでは鶏だけでなく、アヒル、ガチョウも育てていた。

筆者が訪れたタイミングでは、オランダ原産の黒鶏で、卵のおいしさにも定評があるネラを発見。ちなみに以前は烏骨鶏や名古屋コーチン、世界最大級の鶏といわれるブラマも飼っていたそう。

アヒルとガチョウは時々屋外に開放される。元気闊達!

アヒルとガチョウを飼育するために、陸地だけでなく水辺も整備されている。范さん曰く、家禽は食用とはいえ「ほぼ趣味」で育てており、よそに出荷はしていない。

集団で尻を振りながら動く姿は、愛らしいことこの上ない。

参考までに、日本の地鶏は孵化してから最低75日以上の飼育日数が必要とされているが、北海農場の黒鶏は約150日間、アヒルとガチョウは半年ほど飼育しているそうだ。

実際、鶏に味がのってくるのは120日くらいからと言われるので、150日飼育した黒鶏はかなり身のしっかりした、中国で好まれる食感になっていることだろう。

山羊もいる。こちらは食用ではない。余談だが、以前、ペットに孔雀を飼っていたこともあるらしい。

こうして農場見学が終わったら、待望の食事タイムとなる。シンプルで豪快な料理こそ中国の農家楽だが、その料理も期待を裏切らないものだった。

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