中国料理FROM天台山!当企画は、2021年にオープンした中国浙江省の山岳リゾートホテル「星野リゾート 嘉助天台(かすけてんだい)」総料理長・山口祐介さんの中国食探訪記です。仏教の聖地・天台山から、ここに住み、食を生業として働く料理人の目線で見た《中国の食》をご紹介します。 |
2021年からの駐在中に、中国でみるみる人気になっていった台州料理。今回は、前編に引き続き、台州料理店で食べるべき美味を厳選してご紹介します。<前編から読む>
イソギンチャクってどんな味?沙蒜豆面(シャースァンドウミェン)
東シナ海で獲れる海産物のひとつにイソギンチャクがあります。台州の海産市場で見られる、灰色がかった食材がイソギンチャク。日本では磯遊びで見るだけかもしれませんが、ここではれっきとした食材なのです。
そんなイソギンチャクを使った名物料理が、沙蒜豆面(シャースァンドウミェン|shāsuàndòumiàn)。生きたイソギンチャク(沙蒜)をコシのあるさつまいもでんぷんの春雨(豆面)と一緒に煮込んだ台州料理です。
ところがこの料理、皿をのぞき込んでもイソギンチャクの姿がよくわかりません。それもそのはず、イソギンチャクは加熱するとみるみる小さくなり、子どもの握りこぶし大のものが、大人の親指の先ほどの大きさに縮んでしまうからです。
しかし、イソギンチャクの有無で、料理の味はガラリと変わります。なぜなら春雨にこれといった味はありません。海の味が詰まったイソギンチャクこそ、料理に“鮮味”を与えてくれる立役者なのです。
沙蒜豆面の作り方は、前編でもご紹介した家焼(ジャーシャオ)の技法がベースになっています。作り方は、この界隈で有名な仙居咸肉(仙居産の塩豚)、干し椎茸の細切り、店によってはマコモの細切りを加えてラードで炒め、戻した春雨とイソギンチャクを一緒に煮込んでできあがり。
その際、イソギンチャクにショウガなどを加え、下処理してから圧力鍋で炊き、イソギンチャクと灰色になった煮汁を加えるのが味の決め手。コシのあるサツマイモ春雨に、イソギンチャク特有の海の味、ラードの香り、オイスターソースと老抽(中国たまり醤油)の色をしっかり吸わせれば、ねっとりとして香ばしく、濃厚な味わいの春雨料理ができあがります。
この一品は、漁民の料理がルーツにあると感じます。ラードたっぷり、煮汁は濃厚。高たんぱく、高脂質、いわば台州の肉体労働者を支えてきたごはんですが、これが今や美食に進化したわけですね。生活習慣病のある人は要注意ですが、こういう料理こそクセになるのも理解できます。
また、中国語が分かる方は気になったかもしれませんが、さつまいもでんぷんの春雨は、中国では一般的に紅薯粉絲と言われるところ、台州では豆面と呼びます。豆面は、朝からスープで食べたり、飲んだ後に肉まんと一緒に食べたりと、この界隈ではどこにでもある食材です。
そして、どこにでもある食材といえば豆腐が挙げられますが、台州の豆腐は一種独特。最初食べた時は、何かの間違いではないかと思いました…。続きは、次のページで!