香り高い油までも調味料!アヒルのビール煮込み「王剛啤酒鴨(ピージョウヤー)」

中国ではビールを使った煮込み料理が珍しくない。例えば、広西チワン族自治区桂林市陽朔県名物の啤酒魚(ピージョウユィ)や、各地の農家レストランなどで食べられる啤酒鶏(ピージョウジー)がそのひとつ。そして、江西省の名物といえば啤酒鴨(ピージョウヤー|píjiǔyā|啤酒鸭)と相場が決まっている。

啤酒鴨はぶつ切りにしたアヒルをビールで煮込んだ豪快な料理で、骨付き肉のぶりんとした弾力は、いかにも大陸の中国料理を感じさせる。味付けはしっかりとした醤油ベースで、油が多いように見えて、にんにく、しょうが、唐辛子の味と香りが溶け込んだ油もまた調味料と化す。

中国では苦みが少なくライトテイストのビールが主流で、日本の大手メーカーのビールのようなコクはあまりない。これが料理にとってはプラスに働くようだ。

なぜなら、肉の煮込みに炭酸を使うと、水で煮込むよりもタンパク質が早く分解され、加熱時間が短縮される。また、ビールに含まれるアミノ酸も料理のうまみに寄与する。もしかすると、もともとは合理性を追求した料理なのかもしれない。

ちなみに「王剛啤酒鴨」という料理名にある「王剛(王刚)」は江西省出身のシェフの名前。わざわざ名を冠しているのだから、これは頼まねばならない。

燻した干し肉とタケノコの歯触りを楽しむ「冬笋炒燻肉(ドンスゥン チャオシュンロウ)」

また、季節料理カテゴリから1皿選ぶなら、冬笋炒燻肉(ドンスゥンチャオシュンロウ|dōngsǔnchǎoxūnròu|冬笋炒熏肉)はおすすめだ。

80C(ハオチー)では毎年寒くなるとよく読まれる腊肉(ラーロウ)の作り方地域性ついてという記事があるが、この店で使われているのは江西省スタイルの腊肉である。これはいわば燻しベーコンのようなもので、濃縮したうまみと燻製由来の香りに食欲がわかないわけがない。

そこに合わせた新鮮な冬筍はサクサクとして、まるでとうもろこしのような香り。干し肉との相性のよさはいうまでもなく、唐辛子、青椒(ピーマン)、赤玉ねぎがエッジの効いた風味を添える。シェフの炒め料理の腕のよさを実感できる一皿だ。

6人は集めたい!円卓を囲んで江西客家料理を楽しもう

参考までに、東京で江西省の料理が食べられる店として、台東区入谷の「龍艶閣」がある。

メニューを見ると、「龍艶閣」は日本でも親しまれている炒飯・餃子などの中国料理に加えて、三杯鶏(鶏肉とバジルの炒め)瓦罐煨湯(壺蒸しスープ)などの代表的な江西料理を出しているのに対し、「幾道菜」は郷土料理に特化し、特に江西省南部の料理および客家料理の専門店という印象を受けた。

紙のメニューはあるが、基本的に注文はアプリで行う。「日本産サムゲタン(中国語:大和参鶏湯)」といった謎の料理もある。

今回は注文しなかったが、中国南方でおなじみの鶏の冷菜、白斬鶏(バイジャンジー|báizhǎnjī|白斩鸡 ※白切鶏と呼ばれることが多い)は名古屋コーチンを使用しているそうだ。材料のよさと火の通し方が肝心な料理なので、老板娘(女店長)曰く、注文するときはできれば予約してほしいとのこと。

豉汁排骨(豚スペアリブのトウチ風味蒸し)。こちらも客家料理。
江西客家炒米粉。こってりとした醤油味。麺は江西米麺の乾麺を使用。ぷりぷりとして透明感があり、小麦粉の麺よりも軽い。
春菊のような爽やかみのある青菜が入った贛南炸春巻。料理名から、江西省南部スタイルということがわかる。

また、スッポンや、中国ではおなじみの野菜であるチシャトウ(莴笋|萵苣|茎レタス)を使った料理も予約すれば用意できるそうで、気合いを入れて食べるならば事前の相談は重要と思われる。

この店の場合、円卓個室が1卓あるので、ディナーに6人~8人を集めて、店に事前相談の上、これぞ江西客家料理!という宴会を開くと満足感が高まりそうだ。

ちなみに「人を集めるのは面倒で、すぐに食べてみたい」という方は、昼に行くという手もある。実はこの店、客家料理で“いの一番”に食べておきたい梅菜扣肉(メイツァイコウロウ:豚バラ肉と梅菜の蒸しもの)や、江西料理を代表する啤酒鴨(ピージョウヤー:アヒルのビール煮込み)を1人前のランチセットでも楽しめるのだ。

中国料理は各地方の郷土料理の集積といえるが、地方文脈とは少々異なるポジショニングにある客家料理。これは客家の歴史同様、掘り甲斐がありそうですよ。

幾道菜(いくどうさい)

東京都台東区上野2-12-23 上野ユーワンビル2F(MAP
TEL 03-5826-8853
営業時間 11:00-23:00
※注文はQRコードをスマホカメラでスキャンすると日本語、WECHAT(微信)でスキャンすると中国語のメニューが表示されます。飲料はメニューにないものも揃えているので、店員さんと相談してください。

参考文献
トイ人(toibito)「客家とは何か」飯島典子


TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)