店のオープンは毎週水曜ランチ限定。知る人ぞ知る“未来の巨匠”が、入れ替わり立ち替わり腕を振るう「わかば食堂」。1日限定50食、1,000円でちょっと贅沢ランチがいただけるこのレストランに、ついに海外からのチャレンジャーがやって参りました。(わかば食堂についてはコチラでどうぞ)
(2020.3.4追記:2020年より開催が毎週水曜日から火曜日に変更となりました。)
厨房に立つのは、Joshua Plunkett(ジョシュア プランケット)さん。ここのところ訪日観光客が増えているとはいえ、日本の中華の厨房で、欧米人が中華を調理。これはなかなか新鮮なワンシーンじゃないですか?
世界に名だたるレストランを経て、
京都の中国料理店へ
ジョシュアさんは、大学で美術と哲学を専攻した後、食への強い興味から、首都・ダブリンの料理学校で食とワイン、HACCP(ハサップ)を学び、ロンドンで料理人としての人生をスタートさせたアイルランド出身の29歳。
この10年間で、ニューヨークを本拠地とする、ラーメンを中心としたレストランチェーン「Momofuku」や、世界に名だたる「NOMA」、2014年にミシュランの一つ星を獲得したニューヨークの「Luksus & Torst」、同じくニューヨークの「Atera restaurant」など、様々な場で腕を磨いてきました。
そんな彼が、新たな修行の地として選んだのは、京都は二条の中国料理店「中国菜 大鵬」。なぜ日本? そして中国料理店に?
「ロサンゼルスで『大鵬』のシェフ・コウキさんの友人と知り合い、紹介してもらったんです。アメリカに5年間いてちょっと疲れたこともあるし、新しい食との出会いや、いいアイデアを得たいと思って」。
中国は杭州に行ったのみで、中国料理の修行は日本で初めての経験。2017年の2月に来日し、わかば食堂に挑んだのは5か月後のことでした。
欧米×中華が新鮮!
イノベーティブなすっぽん料理
「ニューヨークでも中国料理は食べていましたが、アメリカの中華とは違います。厨房に入って実際作ってみると、全然違いますね。
フレンチやアメリカの料理とは食材はもちろん、メソッドが違う。ひとつの料理を作るのに、自分が知っているアプローチとは全然異なりましたし、料理の組み立て方も違いました」。
そう語る彼が「わかば食堂」で提案したメニューがこちら。
目を引いたのは「すっぽんスラッピージョー」、すなわちすっぽんをガブリと食べるサンドイッチ。
本来のスラッピージョー(sloppy joe)は、牛挽肉、玉ねぎ、トマトソースやケチャップなどで味を調えた具をバンズで挟んだサンドイッチの一種。これは中華なのか疑惑もありますが、牛挽肉をすっぽんに替えて中華の香りを付けるという発想はユニーク!
30食分ですっぽん4匹分!肉感もゼラチン感もしっかり。
聞けば、すっぽんという食材に大きなインパクトを感じたらしいジョシュアさん。「捌いている動画をFacebookにアップしたら、ものすごく反響があったよ」とニヤリ。
ちなみに今回使ったすっぽんは琵琶湖の天然物。花椒を隠し味に使っており、トマト風味の中に、さっぱりとした華やかさが加わり、青花椒を効かせた冬瓜スープとも好相性でした。
ザ・中華な紙箱に、すっぽんサンドが入っているというギャップたるや。
他のお客様からは「シウマイ弁当みたい」「いい味よ」「コラーゲンを感じるわ」とコメントの嵐!
洋×中な味わいが印象的。「この2週間毎日試作したよ!」とジョシュアさん。
I love qing fua jiao!
夏に爽やかな青花椒をあちこちに
そして、青花椒を使った料理の数々もメインに華を添えました。「青山椒は以前から知っていた食材ですが、日本で初めて出合った」そうで、お気に入り食材のひとつになったよう。
前菜は3品で「塩水毛豆(枝豆 四川青花椒風味)」は、昆布水と酒にミント、生の青花椒を使った軽やかな一品。
「孜然拌牛腱子(牛すね肉のクミン風味)」は牛すね肉、すじ肉をカラリと揚げて麻辣味を絡めており、隠し味に黒酢を使って後味よく。ふっくらとした「川式沙丁魚(自家製オイルサーディン)」にはじゃがいもの千切りを合わせ、青花椒がふわりと香ります。
塩水毛豆(枝豆 四川青花椒風味)。ミントと昆布水にセンスが光ります。
孜然拌牛腱子(牛すね肉のクミン風味)。揚げた食感がユニーク。
川式沙丁魚(自家製オイルサーディン)。じゃがいもに青花椒の香りを忍ばせます。
極め付けは「美式青花椒広開口笑(アメリカ式青花椒ドーナツ)」です。実はジョシュアさんの得意料理はパンやペストリー。表面をまとう砂糖に青花椒のパウダーを混ぜ込んでおり、花椒と同じミカン科のオレンジを使ったマーマレードベースのソースと相まって実に爽やか!
もちろんその日の朝に生地を練っているため、ふわふわのもちもち。揚げたてのおいしさも手伝って、揚げものながら何個でもいけてしまう、オリジナリティーのある逸品でした。
将来は自然の中でナチュラルな料理を
今後は「わかば食堂」での料理長デビューを経て、8月に再びアメリカに戻って、半年ほど期間限定のレストランに参加するというジョシュアさん。
中華の厨房で、これまでにない調理法や食材と出合うだけでなく、日本の食を巡る経験は刺激的だったようで、「特に京都は春夏にスペシャルな素材――山菜が入るのが魅力的。また、摘草料理『美山荘』『草喰 なかひがし』祇園『炭火割烹いふき』はスペシャルな体験で素晴らしかった」と深く心に刻まれたよう。
「将来はアメリカの西海岸で、屋外で焚火をしながら、野菜や肉をベーシックに調理して提供してみたい。科学的なものではなく、ナチュラルなものをやる」のが夢。日本での豊かな食の経験と、中国料理の経験とを携え、より大きく世界に羽ばたいてほしいですね。
“未来の巨匠”を応援する「わかば食堂」は、毎週火曜ランチに腕を振るう1日料理長を募集しています。年齢は35歳以下で中国料理店勤務の方。詳細は、株式会社中華・高橋(TEL 03-3820-0030)までお問い合わせください。 |
photo & text 佐藤貴子(サトタカ)