もくじ
1 日本有数のふかひれ生産地・気仙沼
2 菅原市長が語る「鮫と気仙沼」
3 鮫の水揚げ深夜二時
4 船頭はすごいよ – 延縄漁の男たち
5 大漁そして入札!
6 「鮫のひれ」が「ふかひれ」になるまで
7 真っ黒な鮫のひれが、真っ白に!?
8 干した時間もおいしさの一部!奥深い乾物の世界
9 シェフの手間を肩代わり!戻し済ふかひれ
10 ふかひれだけじゃない!鮫肉も中華に!
11 スープも具もまるごと鮫!驚きの鮫ラーメン誕生

ふかひれはご存じの通り「鮫のヒレ」が原料。では、ヒレなき後の鮫はどこに行くのか、想像したことはありますか? 実はこれが、中国料理の素材になっているんです。

そこで、今回はこれまで鮫肉を使ったさまざまな中国料理を開発・提案し、なんと10月の「おすすめランチ」に吉切鮫(よしきりざめ)の身を使った料理を提供しているという、このお店を取材してきました。

調理長調理風景

ANAクラウンプラザホテル大阪 花梨

訪れたのは、大阪・堂島浜にあるANAクラウンプラザホテル大阪の中国料理店「花梨」です。
同店は宴会や特別コースなどで吉切鮫のフィレを使ったさまざまな料理を提供。田中孝尚(よしたか)調理長を中心に、鮫肉の扱いや特性について、数年がかりで研究を重ねてきました。

では、どんな料理があるのでしょうか?
まずはお客さまがアッと驚かれ、評判を呼んだという一皿をご紹介しましょう。吉切鮫の、麻婆です!

吉切鮫の麻婆吉切鮫の麻婆

土鍋でグツグツと煮立った状態でサーブされる吉切鮫の麻婆は、豆板醤、トウチ、麻辣醤(まーらーじゃん)、蝦醤(=海老味噌)、スープ、にんにく、しょうが、山椒がベース。
卵白と片栗粉を絡ませて軽く油通しし、お布団のようにふかふかになった吉切鮫を、パンチ×旨みのあるマグマのような麻婆だれがコーティングしています。高たんぱく低脂肪、至極やわらかな鮫肉を豆腐の変わりに使うというアイデア、確かにこれは合わないわけがない!

そして、2013年10月のランチメニュー(2500円)の前菜として提供しているのが吉切鮫のカルパッチョスタイル!

ヨシキリ鮫肉の冷製サラダ 山椒ソース「ヨシキリ鮫肉の冷製サラダ 山椒ソース」

こちらは青葱と花椒をベースにした四川料理のソース・椒麻(ジャオマー)をアレンジしたサラダ仕立て。絶妙に湯引きされた吉切鮫は、魚とも鶏肉とも似て非なる、ほどよくねっとり感のあるミディアムレア。ほんのり甘みのある身が、下に敷いた紹興酒漬けにしたアボカドとよく合います。

鮫肉マスター・田中孝尚調理長に訊きました

ところでなぜ、同店では中国料理に吉切鮫の身を活用するようになったのでしょうか。

「実は僕らの子どもの頃は、鮫肉にあまりいいイメージがなかったんです。アンモニア臭がきつい印象でね。それが実際料理の素材として使ってみたら、思っていたより臭みがない。これはいけそうだな、と思いました。今は、自分が食べておいしいと思ったものを広めたい気持ちもあります」

そう答えてくれたのは同店の調理長・田中孝尚さん。「とはいえ、使い始めの頃は“鮫肉”をウリにはできませんでした。特に年配の方からは『鮫肉って食べられるの?』って尋ねられることもあります。 でも、白身魚として麻婆や糖醋(タンツウ)にしてお客さまにご提供すると、『おいしいね。何の魚?』って会話が生まれるんです。
そこで初めて『実は鮫肉なんですよ。ふかひれに使っている吉切鮫の身なんです』って言うと、『へえー、こんなにおいしかったんだ!』となる。こうして1テーブルごとに鮫肉のストーリーを伝えてきました」

調理長調理風景

その「鮫肉のストーリー」とは、産地気仙沼の話であり、近年鮫を取り巻く環境の話のこと。

「料理人として、被災地を料理で応援したいという思いがあるんです。また、ふかひれを取るために、船上で鮫のひれだけ切り取り、胴体を海に捨てる“フィニング”という行為が問題視されていますが、気仙沼のふかひれ漁はそうではありません。
僕自身、水揚げから加工まで、ふかひれを作る工程を全て見せてもらっていますし、こういうことでふかひれ料理が提供できなくなることは残念。料理人自身がこうしたことを料理で伝えていくのも、中国料理の文化を守るために大切なのではないかと」

田中料理長の吉切鮫活用アイデアとは?

では、田中料理長はこれまでどのような調理法で吉切鮫肉を活用してきたのでしょうか?その特性や扱い方について伺いました。

① 麻辣(マーラー)

先ほど写真でご紹介した麻婆は、料理長が自信をもってお届けする鮫肉料理のひとつ。ポイントは下処理の仕方です。
「まず、中に入っている筋をきちんと抜いて食べやすくすることと、水分が多いのでしっかりとふき取ることが重要です。ですが、水分とともにたんぱく質もいくらか流れ出てしまうので、スライスしたら卵白をしっかり揉み込み、肉にたんぱく質を吸わせた後、片栗粉をまぶします。身が軟らかいので作業中に伸びますが、揚げるとひと周り小さくなるので問題はありません。170℃の油で表面を固めるように揚げたら、麻婆の調味をしてできあがりです」

調理代の上手前が冷凍吉切鮫肉、右上が解凍後、左上が片栗粉をまぶした状態です。

② 焯水(チャオシュエイ)

焯水は湯引のこと。同店では刺身にもできる鮮度の吉切鮫に火を入れることで、独特の食感を甘みを引き出し、これまでにない食感の料理に仕立てています。
「カルパッチョには胴の中でも尾に近い肉が適します。その部位を厚めにカットして、90℃前後で湯引きにし、一度水で締めると、とろっとしてもっちりとした、えも言われぬ食感に。あっさりしていながらもコクのある感じは、まさに高たんぱく低脂肪な吉切鮫ならではの持ち味といえるでしょう。季節によってエビマヨのソースを合わせたり、アボカドの変わりに柿をあわせるなど、アレンジもしやすい料理です」

調理長調理風景

③ 糖醋(タンツウ)

糖醋とは酢豚の調味に使われる甘酢味のこと。豚肉ではなく、白身魚の甘酢餡かけを提供する店もありますが、まさにその組み合わせです。「淡白な鮫肉と甘酢味は相性がいいです。コクと香りの強い黒酢にも合いますよ」

④ 麺仕立て

日本では古くから鮫肉をすり身にして、はんぺんをはじめ、さまざまな練り製品に加工してきた歴史があります。実際、すり身の吉切鮫は使いやすく加工しやすいそう。「魚ぞうめん(※)のように仕立て、水からゆで上げると、低糖質低脂肪で高たんぱくな麺に。軟らかく食べやすいので、お年寄りに好評です」
※魚ぞうめん(うおぞうめん)=京都の夏の味覚。魚のすり身に卵白や塩などを加え、細く糸状に搾り出し、ゆで固めたもの。

⑤ 土司(トゥスー)

土司はトーストのこと。海老のすり身を塗って揚げた広東料理・蝦土司が有名ですが「これも鮫肉のすり身で作れます」。

……とということで、お話を伺っていると、吉切鮫だけでふかひれ&鮫肉のコースが作れてしまいそう。いかがでしょうか?料理長。
「僕の目指すところは、関西で鮫肉料理ならクラウンプラザって言われるようになることかな。普及はまだまだこれから。でも、僕は大阪にいる気仙沼の大使やからね(笑)。使い方も含めて、お客さまや仲間に伝えていきたいと思っています」

調理長立ち姿ANAクラウンプラザホテル大阪 中国料理花梨 田中孝尚調理長

 

ふかひれ×鮫肉、両方が楽しめます!

ANAクラウンプラザホテル大阪 花梨
住所   大阪市北区堂島浜 1-3-1(ホテル6F)
電話   06-6347-1112(代表電話)
ランチ 11:30-14:00(L.O) ディナー 17:30-21:00(L.O) ※土日祝 17:00-21:00(L.O)
※吉切鮫を活用した料理の詳細は店舗までお問い合わせください。

 

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構成・文 佐藤貴子(ことばデザイン)
撮影   竹中稔彦