ありとあらゆる技法と食材を駆使し、中国料理人のダークヒーローが活躍する料理マンガ『鉄鍋のジャン!』。1995年に連載が始まったこの作品が「30年の時を経て、まさかのテレビアニメ化!」と話題だ。

アニメ放送は2026年7月5日にスタート(テレビ東京系列)。日曜夕方5時30分、地上波かつ晩ごはん直前という時間帯も手伝って、放送直後には毎回X(旧Twitter)のバズワードとなるという盛り上がりっぷり。

ニコニコ動画では総合ランキングで度々1位を獲得するなど、配信でも好評が続いている(公式Xはこちら)。

作品の見どころは、「料理は勝負」と断言し、勝つためならば手段を厭わない主人公・秋山醬(ジャン)と、彼を取り巻く個性的な料理人が繰り広げる熾烈な中国料理対決。

一見荒唐無稽なようだが、中国料理の基本的な技術と、当時最先端の調理科学を交えた料理描写が作品の魅力を底支えしている。

なかでもアニメで注目したいのが、料理人の動きと中国料理の精緻な描写だ。なぜなら、静止画でモノクロの漫画から、カラーで動画のアニメにするにあたり、製作陣がとことん注力し、時間をかけたのがまさにその2つだから。

作画は基本的に、料理人が作った料理をベースに描き起こしている。その際、プロの中国料理人の周りに4~5台のカメラを設置。厨房でのリアルな動きを捉えるとともに、中華鍋に突っ込むようなかたちで調理音も収録した。

いってみれば、原作の血気盛んな勢いはそのままに、料理をよりリアルに、よりおいしそうに表現することに妥協せずに作ったのが、アニメ版『鉄鍋のジャン!』なのだ。

料理人の周りに5台の定点カメラを設置。あらゆる角度から調理プロセスを捉えると同時に、さらにスチル撮影も行った。(茶碗蒸しを再現した「南方中華料理 南三」)
音収録に使うこの子たちが油まみれになった。燃えるかと思った(音声収録「なかの中華!Sai」)

当記事では、そんな料理再現の世界をアニメ版の監修・コーディネートを務めた佐藤貴子(サトタカ)がナビゲート。さらにアニメを深く味わっていただければ、こんなに嬉しいことはない。

[注意]料理解説はネタバレの宝庫です。先に知りたくない方はアニメを観てからお読みください。

忘れない。漫画の監修者・おやまけいこさんの思い出

まず、これだけは伝えておかなければならない。中華料理目線でこの漫画を語るのに、真っ先に思い出されるのが、故・おやまけいこ(小山惠子)さんだ。

料理研究家であり、薬膳料理教室も開いていた小山さんは、故・陳建民さん(「四川飯店」創業者)が設立した恵比寿中国料理学院で中国料理を学ばれた方。

中国料理を味わう「吃吃会」を主宰されたり、故・譚彦彬さん(「赤坂璃宮」創業者)をはじめとするトップシェフたちとも親交があり、晩年は「若い料理人たちを育てたい」と、ベテランの技を若手に継承する活動にも取り組まれていた。

そんな小山さんと一緒に卓を囲むと、必ず話題に出るのが『鉄鍋のジャン!』のエピソードだった。

原作『鉄鍋のジャン!』の魅力は、アクの強い料理人たちの一見“邪道”な料理が、確かな中国料理の技術と、当時最先端の調理科学に裏付けられているという絶妙なバランス感。この世界を、西条真二さんとともに創り上げたのが、料理監修を手掛けた小山さんだったのだ。

だからこそ、アニメのために料理を再現する際、小山さんと親交があった中国料理人や、漫画の愛読者だった料理人に真っ先に声をかけた。

アニメ制作をサポートした中国料理店と料理人たち

料理の再現に協力いただいた店舗は11店舗(敬称略・撮影順)。知る人が見ればおわかりになると思うが、いずれも人気と実力を備えた料理人ばかりである。

JANU東京 虎景軒 山口祐介料理長
中国菜 漢~Kan~ 藤井寛オーナーシェフ @chugokusai_kan
南方中華料理 南三 水岡孝和オーナーシェフ @south_chinese_minami
神田雲林 成毛幸雄オーナーシェフ @kanda_yunrin
なかの中華!Sai 宮田 俊介オーナーシェフ  @nakanochinese_sai
赤坂璃宮 銀座店 水野耕作料理長 @akasakarikyu
赤坂四川飯店 田中良司料理長 @akasakasisen
西麻布香宮 有島浩昭料理長 @nishiazabu.shangu
山西亭 李俊松オーナーシェフ
中国意境菜 白燕 白岩勝也オーナーシェフ@baiyan20190805
瞎虎餐廳 BLINDTIGER 馬渕了オーナーシェフ/点心師・坪井佳織  @blindtiger_dimsum_

なぜこんなに多くの料理人に声をかけたかといえば、理由は3つある。

1つ目は、『鉄鍋のジャン!』に登場する中国料理の多様性だ。単に中国料理といっても、菜系によって必要な技術は異なる。また、中華鍋を扱う料理人と、麺点(点心やデザート)をつくる点心師ではできる仕事が違う。

2つ目に、創作料理の多さが挙げられる。原作では、定番も中華もある一方で、工数が多く、漫画の表現通りでは再現できない創作中華料理もたくさん出てくる。これを少人数ですべて請け負うのは難しい。

3つ目に、原作に縁のある方や、その道のプロを巻き込みたかった。再現には、レシピがあるものはそれを尊重しつつも、見た目を再現するために微調整するといった”勘所”を押さえた試作も必要となる。

さらにモチベーションも大切だ。そのため「この料理を再現するならこの方」と、それぞれの得意分野を鑑みながら、料理ごとに“再現料理人”をお願いしていった。

最初の再現料理は「海鮮風炒飯」。JANU東京 虎景軒(フージン)の山口祐介シェフから撮影が始まった。

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