レンゲですくい上げた、長芋と豚ひき肉の澄まし蒸しスープ(山薬肉餅湯)

獅子頭(シーズトウ)のような、ふわふわの巨大肉団子が入ったごちそうスープ。作ってみたいし、家で食べたい。美味しさも間違いない。でも、肉を刻み、丸めて……という手間を考えると、気が遠くなる。これはプロに任せたい案件だ。

そんな獅子頭の食感に近いものが、実は長芋(山芋)とひき肉で作れる。

包丁の出番はほぼ無し。特別な機材もいらない。肉だねを器の底に敷き詰めて蒸し、湯を注いで再び蒸すだけ。それだけで、ご馳走感、食べごたえ、品の良さを兼ね備えた、大きな肉団子入り“風”の蒸しスープができあがるのだ。

蒸し調理は、鍋で煮るのと違って、加熱中に液体の対流がほぼ起きない。そのため、アクを出さずに食材の味だけをクリアに引き出した、限りなく透明で雑味のない清湯(チンタン)がとれる。蒸籠や蒸し器がない場合は、深型フライパンなどを使ってできる(詳細は後述)。

この料理の陰の主役は長芋(山芋)だ。中華圏では山薬(さんやく)とも呼ばれ、脾(胃腸)を整えてくれる食材でもある。特に3月~4月に出回る春掘りの長芋は、甘みやねばりが増し、肉と合わせるのにぴったりだ。

仕上げに生のグリンピース、清涼感のある春菊など、旬の味と香りを載せれば、おもてなしにも使える、主役級の一杯の完成する。見た目以上に簡単なので、ぜひ作ってみてほしい。

長芋と豚ひき肉の澄まし蒸しスープ(山薬肉餅湯)の作り方

作り方のポイント
・長芋はポリ袋に入れ、鍋の底で押し潰して細かくする。こうすると、粘りの強い長芋を手で触ることなく(手が痒くならない)、ひき肉と絡みやすい質感に砕くことができる。
・肉だねを先に蒸す。こうすることで、スープに仕立てる際に肉のアクを出さずに、極々やわらかく固めることができる。
・蒸した肉だねには熱湯を注ぐ。水を注ぐと急激な温度低下で、アクや雑味が出やすくなる。
【材料】(2人前 ※汁碗や小どんぶり2つ分 )
山薬肉餅湯(長芋と豚ひき肉の澄まし蒸しスープ)の材料。左から順に使っていく。

<肉だね>
豚ひき肉: 150g
長芋(山芋): 75~80g(ひき肉の約半量)
塩: 小さじ1/2 (約2g)
紹興酒または日本酒: 大さじ1(約15g)
醤油: 小さじ1/2(約3g)
白こしょう: 少々

<スープ>
熱湯: 240cc(1碗120cc)
葱・生姜:各細切りを少々
塩: ひとつまみ(仕上げの味の調整)

<トッピング(2つの碗で作り分ける場合)>
グリンピース、うすいえんどう等(器の表面を満たすくらい ※ここでは8さや分を使用)
春菊の葉(1本分)

【作り方】
1:長芋の皮をむき、ポリ袋に入れて鍋底で潰す

ポリ袋にピーラーなどで皮を剥いた長芋を入れて口を閉じ、鍋の底でギュッと圧して潰して細かくする。

こうすると、包丁で切るより表面に凹凸ができ、ひき肉と絡みやすくなる。また、山芋を直接手で触らないので、手が痒くならないのも大きなメリット。麺棒、瓶の底などで潰してもよい。粗みじん切りくらいの大きさになればOKだ。

2:ひき肉と潰した長芋をぽってりとするまで混ぜる

ボウルに豚ひき肉、潰した長芋、調味料をすべて加えて混ぜる。肉の粘りを出す必要はなく、全体が下の写真のようにぽってりとまとまればOK。

潰した長芋が、まるで細かく切った豚の脂のように見えてきたら次のプロセスへ。

3:器に肉だねを敷き詰める
ラップを上において押すと手が汚れない。

耐熱性の器に肉だねを半分ずつ入れ、器の底に隙間なく押し付ける。ラップやスプーンの背などを使うと、手を汚さずやりやすい。

肉だねが平たくなればOK。

耐熱性の器は、陶器・耐熱ガラス・琺瑯(ほうろう)などがおすすめ。この料理の総量は、肉だね230g+熱湯240g=470g。2つに分けると1人前235gなので、小さめのどんぶりが適している。

このサイズがない場合は、大きなどんぶりで全量(470g)全量入れた取り分けスタイルにしてもいいし、4等分(117g)にしてそば猪口や茶碗蒸しの器に入れてもいい。手持ちの器を活用してみよう。

4:肉だねを蒸して固める

蒸籠(せいろ)に器を並べて蓋をして、中~強火で8分間蒸す。目安は、上の写真のように生肉のピンク色が完全に消え、全体が白っぽく固まるまでここで肉を固めておくと、スープが濁らない

大きな蒸籠がない場合は、鍋や深めのフライパン(ウォックパンなど)を使う。鍋底にスチームプレートや畳んだ布巾を入れてから器を並べ、フライパンの底に、蒸気を起こすための熱湯を器の半分の高さまで注ぎ入れ、蓋をして同様に蒸す。

5:加熱したい具と熱湯を注ぎ、蓋をして蒸す

加熱した肉だねの上に、グリンピースなど生の豆を入れ、熱湯を静かに注ぎ入れる(春菊などやわらかな葉ものはこのタイミングではなく、最後に入れる)。

それぞれの器に、千切りの葱・生姜を少量浮かべて香り付けと肉の臭いをマスキングする。

器にアルミホイルを被せてフタをし、再び弱〜中火で20分蒸す。器にフタをするのは、美しく澄んだ清湯をつくり、香りを封じて逃さないため。アルミホイルで封をするのは中国でもよく見る手法だ。フタ付きの器を使う場合は、そのフタでどうぞ。

6:塩でスープの味を調え、春菊など葉物を入れる

蒸し上がったら、スープを味見し、塩を軽くつまんで入れ、味を整える。春菊は、このタイミングで碗に生の春菊を入れてできあがり。

まるで獅子頭!口でほどける繊細食感と端麗スープ

作ってみて、「え、これ獅子頭じゃん…!」と自分で驚いてしまった(笑)。

獅子頭は、ただの肉団子ではない。口に入れると極々やわらかく、肉のうまみと脂の甘みを放ちながら、一瞬で雪崩のように崩壊する。これ以上、繊細さと豪快さを併せ持った肉団子を私は知らない。

この食感は、肉と脂をせっせと小さな角切りにし、壊れないよう丁寧に蒸すことで得られる手間の結晶。

今回は、ちょうど今の時季に出回る、甘みと粘りが強い“春掘り”の長芋を使って、獅子頭と、スッキリと透明感のある飲み口のスープを合わせたいいとこどりだ。

旬の豆をさやから出して作れば、見た目にも愛らしく、豆の風味もしっかり引き出されて多幸感が増す。

蒸し調理で引き出されたクリアなスープも唯一無二。ほったらかしでこのレベルのスープが取れるのはありがたい限りだ。

たった一杯で幸せになれる蒸しスープ、春は山芋や豆、秋は乾燥きのこなどを使って、


RECIPE・TEXT・PHOTO サトタカ(佐藤貴子)