ピータンから生まれる驚きの“こくまろ”効果

1967年、NHK「きょうの料理」で陳建民氏が麻婆豆腐を紹介してから約半世紀。当時は辛さ控えめ、花椒を使うこともありませんでしたが、今や麻婆豆腐は痺れて辛い麻辣(マーラー)味の料理の代名詞となり、店ごとの個性が楽しめるようになりました。

アレンジされた麻婆豆腐もさまざまあるなか、意外とも思える組み合わせながら、クセになるのがピータン(皮蛋)を入れた麻婆豆腐。中華のおつまみで定番のピータンは、アヒルの卵を塩や泥入りの木灰などアルカリ性の成分で包み、熟成させたもの。麻辣の刺激的な辛さに、つるっ、とろんとしたピータンを入れると、コクとまろやかさが加わって、より一層ごはんが進む味わいになるのです。

ピータン(皮蛋)。写真のように白い花状の模様が出ているものを松花ピータンと呼びます。

この組み合わせを教えてくださったのは、2002年、古樹軒の料理教室「中国料理の友」の講師として来ていただいていた、四川料理の達人・山本和夫先生(中国料理「天山」元料理長)。

ポイントは、ピータンを刻んで、麻婆ソースの一部とすることです。いったいどんな味わいになるかって? さっそくレシピをご紹介しましょう。

ピータン麻婆豆腐(皮蛋麻婆豆腐)のレシピ

<材料>

ピータン(皮蛋)…2個
寄せ豆腐…1丁
豚ひき肉…100g
ニンニク…5g(みじん切り)
ネギ…50g
豚ひき肉用調味料=醤油…大さじ半分、紹興酒…大さじ1杯、甜麺醤…大さじ半分
豆板醤…大さじ1.5杯
朝天辣椒粉(唐辛子粉)…小さじ2杯
トウチ…2~3g
スープ…1カップ(200cc)
醤油…大さじ1杯
紹興酒…大さじ1杯
コショウ…少々
水溶き片栗粉…大さじ1強(片栗粉と水を1:1の割合混ぜ合わせる)
食用油…大さじ6杯程度
花椒粉…小さじ半分

<作り方>

1:豆腐を2~3cm角、ネギとニンニクをみじん切り、ピータンを細かく切る(1個を16切れに)。
2:中華鍋またはフライパンに油大さじ1杯を入れ、豚ひき肉を炒める。
3:ひき肉がほぐれ、水分がなくなったら、醤油、紹興酒、甜麺醤で味付けをし、肉味噌をつくる。
4:鍋に湯をわかし、1の豆腐を弱火でゆでて、ザルなどに入れて水切りしておく。
5:中華鍋またはフライパンに油大さじ3~4杯分、ニンニク、豆板醤、朝天辣椒粉(唐辛子粉)、トウチを入れて炒め、香りが出たらスープ、3の肉味噌、ピータンを加える。
6:醤油、紹興酒、コショウを加えて味を調え、ネギのみじん切りを入れた後、水溶き片栗粉大さじ1弱でとろみを付け、最後に油大さじ1杯を入れる。
7:皿にゆでた豆腐を入れ、上から6のピータン麻婆ソースをかけ、 仕上げに花椒粉をふりかける。

ポイントはピータンのソース化と加熱!

このレシピのすごいところは、ピータンが苦手な人でもほぼ抵抗なく食べられてしまうこと。刻んだピータンを加熱して使うことで、麻婆ソースの一部となり、においや食感がほぼ気にならなくなるのです。

ちなみに半熟卵や温泉卵を麻婆ソースに入れた場合、マイルドにはなるものの、料理の色と味がガラリと変わってしまいます。しかしピータンの場合はそれほど雰囲気を変えることなく、麻婆に深いうまみを与えてくれるのです。

また、豆腐は一度ゆでることで、豆腐の中の水分が抜け、崩れにくくなる上、味が染み込みやすくなります。ゆでるときは豆腐を壊さないよう、激しく沸騰させないのがコツ。このレシピでは寄せ豆腐を使っていますが、キメが細かく柔らかいものであれば別の豆腐でもいいでしょう。

そのまま食べればおつまみとなるだけでなく、麻婆豆腐の隠し味ともなるピータン。こんな使い方、味わい方もあるのか!と、目からうろこの一品です。

皮蛋麻婆豆腐

料理:山本和夫(「中国料理 天山」元料理長)
撮影:2002年7月 古樹軒の料理教室にて
中国語料理名:皮蛋麻婆豆腐(pí dàn má pó dòu fǔ|ピーダンマーポォドウフー)


Text 佐藤貴子
photo 西田伸夫