日本では、たまごといえば半熟が人気だ。とろとろ、ふわふわは正義であり、癒しである。一方、中国ではたまごにしっかり火を通す。生食の習慣がないからともいえるが、火を通すからこそ際立つ魅力がある。それは香りだ。
とくに、焦げ目がつくまで焼いたたまごは、香りがぐわっと立ちあがる。それはメイラード反応が起きているからだ。
メイラード反応とは、材料に含まれる糖とアミノ化合物が熱されると、メラノイジンという褐色成分を生み出すとともに、さまざまな香りを発することをいう。例えば、肉をフライパンで加熱すると表面が茶色くなり、おいしそうな香り出てくるが、これこそがメイラード反応によるものだ。おいしい茶色、その多くはメイラード反応によるものといっていい。
さらに中国料理の場合、葱やニラなど香りの高い野菜とたまごは定番かつ鉄板の組み合わせである。こうなると、調味料は塩しかいらない。素材から風味も香りも引き出され、余計な味付けはいらなくなる。
そんな中国式の“よく焼き”たまご料理でぜひ作っていただきたいのが、香葱煎蛋(シャンツォンジェンダン|xiāngcōngjiāndàn|たまごと小ねぎの煎り焼き)だ。小ねぎを卵にたっぷり入れて焼くだけだが、火が通るとともに小ねぎの香ばしい香りが部屋中に充ちてきて、空腹でなくとも食欲がわく。
炒めるのではなく、煎り焼きというのもいい。頃合いをみてひっくり返せばいいので、手を動かす回数が少なく、失敗がないのだ。ポイントは油をけちらず、よく焼くこと。そのままはもちろん、ごはんにのせて玉子丼、麺のトッピング、弁当のおかず、なんでもいける。
焼けたねぎの香りが最高の調味料!香葱煎蛋(たまごと小ねぎの煎り焼き)のレシピ
材料は至ってシンプル。たまご、塩、小ねぎ、油の4つだ。たまご1個に対して塩ひとつまみ、油大さじ1杯強、小ねぎ3~4本と覚えておこう。
<材料:目安:内径22cmのフライパン1つ分>
たまご(中) 3つ
塩 3つまみ(目安は2グラム)
小ねぎ 50g(12本くらい)
油 大さじ3強
<作り方>
①小ねぎを小口切りにする。
まずは小ねぎを刻もう。薬味で使うときに白い部分を落とす方もいるが、この料理は小ねぎの香りがほしいため、根元から先っちょまですべて使える。美しさは問わないので、キッチン用のハサミで切ってもOKだ。
②たまごをボウルに割り入れ、塩を入れて軽く混ぜる。
目安は、たまご1個に対して塩ひとつまみ。菜箸などで、たまごの白身を切るように混ぜる。
③小口切りにした小ねぎをボウルに加えて混ぜる。
小ねぎを溶き卵に加えてざっくりと混ぜる。小ねぎを加えたら混ぜすぎないようにしよう。ねぎとたまごがはらんだ空気が、ふわっとした焼き上がりを約束する。
④フライパン(中華鍋)に油を入れる。
油はたまご1個に対して大さじ1杯弱。ふつうの炒めものより「ちょっと多すぎる?」というくらいがちょうどよい。空気をはらんだ小ねぎ入り溶き卵を熱した油に入れると、ブワッと膨らみ、心地よい食感をつくってくれる。
⑤フライパン(中華鍋)に小ねぎ入りの溶きたまごを注ぎ入れる。
強火にして、フライパンに小ねぎ入りの溶きたまごを注ぎ、しっかりと焼く。しばらくすると、部屋中に焼きねぎの香ばしい香りが漂ってくる。そうしたら焼き色を確認しよう。ここでつけた焼き色が、香ばしい味と香りにつながる。
⑥ひっくり返してもう片面を焼く。
焼き色が確認できたら、フライ返しなどでひっくり返し、もう片面は弱火でじっくりと火を通す。ここで若干かたちが崩れても味には問題ない。もう片面も焼き色がついたら、そのままスライドして皿に盛り付けてもよし、皿にひっくり返して盛り付けてもよし。さあいただこう!
“よく焼き”は正義。どんぶり、汁物、弁当、鍋の具に!
香ばしく焼けた小ねぎの香りと、それを包み込むやさしいたまごの風味。これこそが、何ものにも代え難い香葱煎蛋の持ち味だ。焼き上がりの熱々をはふはふと食べるのも最高だが、どんぶり飯に乗せればこれぞ新・玉子丼!
また、香葱煎蛋はたっぷり入れた小ねぎのおかげで、冷めても硬くなりにくい。ゆえに、お弁当のおかずにもぴったり。白葱やニラなど、他の香味野菜でアレンジしてもいいだろう。
さらにおすすめの食べ方が、麺のトッピングや鍋の具にすること。麺のイメージとしては、そばやうどんに、かき揚げやちくわの天ぷらをのせる感覚だ。この香ばしさがつゆに溶け、香葱煎蛋が具となり薬味となって、新たなおいしさをもたらしてくれる。
いつからか、温泉卵が何にでも幅を効かせるようになって久しいが、ぜひこの一品で“よく焼きたまご”に開眼していただけたら嬉しい。
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RECIPE & PHOTO & TEXT:サトタカ(佐藤貴子)