台湾牛肉麺キービジュアル

魯肉飯や小籠包は、日本でもおなじみの台湾の味ですが、もうひとつ、忘れてはいけないのが台湾牛肉麺(台灣牛肉麵)です。牛肉麺というと、中国には甘粛省の蘭州牛肉麺、雲南省の大酥牛肉麺、湖北省の襄陽牛肉麺、広東省の牛腩麺など各地に名物がありますが、台湾の牛肉麺にはどんな特徴があるのでしょうか。

覚えておきたい二つの味。紅焼(ホンシャオ)と清燉(チンドゥン)とは?

中国各地で名物となっている牛肉麺は、味わいの方向性が基本的にひとつであるのに対し、台湾の特徴は、スープの味が何種類かあります。

定番の味は、紅焼(ホンシャオ|hóngshāo)と清燉(チンドゥン|qīngdùn)の2種類。牛骨をベースにスープをしっかりとるのは両者の共通点ですが、紅焼牛肉麺は醤油味に豆板醤やスパイスで風味づけしており、甘じょっぱく、ちょっとスパイシー。清燉牛肉麺はクリアなスープ。生薬が効いているものの、さっぱりとした味わいです。

紅焼牛肉麺。台北の空港で食べた一杯。photo by Takako Sato
清燉牛肉麺。『三商巧福 赤坂店』の一杯。同店では、日本人にもわかりやすいよう「薬膳塩牛肉麺」と表記されています。

どちらかというと、紅焼牛肉麺のほうが主流で、ほかにも四川風で辛い“川味”、トマト入りの“番茹”もよく見ます。さらに台南周辺では清燉牛肉麺に似ているものの、作り方の違う清湯牛肉麺もあるなど、ご当地牛肉麺も存在しています。

うどん風の中細麺に、軟らかく煮込まれた牛バラや牛スジが王道!

麺は小麦粉がベースで、うどんに近い雰囲気があります。しかしこれも一種類ではなく、刀削麺や、ちょっと太めのコシがある麺があるかと思えば、きしめんに似た幅広の麺、冷麦のように細い麺など、麺店によって違いがあります。

また、牛肉麺の名の通り、スープ、麺、とともに大事なのが牛肉。どの店も軟らかく煮込んであり、牛バラ、牛スジ、ハチノスなど定番の具に。これら3つが全部乗ると三宝麺、牛バラと牛スジの組み合わせは半筋半肉麺。その牛肉麺がどういったものなのか、メニュー名から読み取ることができます。

意外と新しい!台湾牛肉麺の歴史。

そんな台湾牛肉麺のはじまりは、数十年前と比較的新しいものです。もともと牛肉を食べる文化のなかった台湾に、牛肉が持ち込まれたのは1949年以降のこと。中国から台湾に渡った国民党政府の軍人が、牛肉を食べる習慣を台湾に持ち込みました。

なかでも食文化に影響を与えたのが四川省出身者です。彼らが台湾で四川の調味料である豆板醤を作り、その豆板醤やスパイスを使って台湾牛肉麺ができあがっていきました。今や台湾名産となっている高雄市岡山の豆板醤は、四川人によって作り出されたものだったのです。

牛肉麺は簡単に作れて、売りやすかったということもあるようですが、彼ら自身が食べたい味であり、生きていくために生み出していったのではないかと想像します。この段階で作られていたのが、川味牛肉麺(四川風味の牛肉麺)であり、紅焼牛肉麺のルーツとなっていると思われます。

台湾人に人気の牛肉麺専門店は?

台湾の詩人である焦桐(ジアォトン)が、台湾に根づいた食を綴った味の台湾(原題『味道福爾摩莎』 翻訳:川浩二)には、川味紅焼牛肉麺(四川風牛肉煮込み汁麺)の話が詳しく紹介されています。

『味の台湾』(みすず書房)photo by Takako Sato

その中で、焦桐が「いちばん長く食べている」と語るのが、台北桃源街の『老王記牛肉麵大王』です。

「この店の牛肉はじゅうぶん柔らかく煮上げられている。スープの色は褐色で、上に浮く油はやや多め、スープの味は濃厚で飲みやすく、口をつける前から肉質香がぷんと鼻をくすぐる」。そんな牛肉麺にまつわる表現は、読むそばからお腹が減ってしまいそうなほど。

台北っ子の友人に好きな牛肉麺店を尋ねてみると、いろんな店を教えてくれた最後に「やっぱり子供の時から食べている『老王記』の清燉牛肉麺が思い出の味で大好き」と教えてくれました。牛肉麺といえば紅焼牛肉麺がどちらかといえば一般的になるものの、彼女は清燉牛肉麺にたっぷりの酸菜(自家製の高菜の漬物)をのせるのがおすすめなんだとか。食べ方にも好みが現れますね。

そんな台湾人のソウルフードといえる牛肉麺。都内ではどんな味わいが楽しめるのでしょう。台湾人の友人たちも足を運ぶ、おいしい台湾牛肉麺の店を3軒ご紹介します。

NEXT>都内で巡る、こだわりの台湾牛肉麺3選