突然、秋がやってきた。これまで蒸し暑さに喘いでいた身体に、すーっと冷たい空気が吸い込まれる。そこで生じがちなのが呼吸器の不調である。

この季節、「あれ、ちょっと喉が痛いかも…?」なんていうとき、中華圏では梨のスープを飲むことが多い。なぜなら、東洋医学において、梨は肺を潤す効果があるとされるからだ。

北京の街中には梨のスープの専門店もある。

乾いた肺が潤えば、呼吸がラクになり、気持ちいい季節をのびのびと過ごせる。逆に、呼吸がしんどいとQOLが下がる。これはだれしも体感していることだろう。

そこで、この秋を気持ちよく過ごす一助となる、ほんのり甘い梨のスープの作り方をご紹介しよう。手軽なデザートにもなる一品だ。

梨と白キクラゲの甘いスープ(銀耳雪梨湯)のレシピ

[材料]※小鍋(容量1.6リットル)に1つ分

梨 1個(青梨がおすすめ。二十世紀梨など)
白キクラゲ(乾燥) 6~7g
 3~4個(15g~20gくらい)
氷砂糖 12~13粒 約35g
水 500cc(白キクラゲを煮る水)
水 700~800cc(梨を加えて煮る水)
※好みでクコ、金木犀の花のシロップ漬けなどを仕上げに用いると美しい。

白キクラゲを水で戻し、硬い部分を取り除き、食べやすくちぎる。
左が乾燥白キクラゲ、右が水で戻したもの。

まず、梨と組み合わせる白キクラゲを水で戻す。梨だけをシンプルに煮てもいいのだが、東洋医学において肺を潤す効果のある白キクラゲは、梨とも非常に相性がいい。また、生命力を司る腎を養う働きもあり、特に女性にとってはいいことずくめの食材だ。

白キクラゲは、水に浸して3~4分もすると軟らかくなってくる。そうしたら、根元の硬い部分をキッチンバサミなどで切る。さらに、食べやすいよう小さくちぎる。

もし、乾物特有のにおいが気になるようなら、戻している間に水を2~3回変えるといい。浸水時間は30分もあればOKだ。また、水に浸すと倍増するので、欲張って入れすぎないのも肝心。

白キクラゲに冷水を加え、10分煮る。

水で戻した白キクラゲを水から煮る。湯が沸くまでは強火にし、沸いたら中強火で10分ほど煮ると、シャキッとした海藻のような食感に仕上がる。この状態は、サラダなど冷菜に使うのに適する。冷凍保存もできる。

しかし、この梨のスープに入れる白キクラゲは、もっととろっとした食感のほうが食べていて心地がよい。そこで、次のステップにすすみたい。

弱火にして、白キクラゲを約2分間同じ方向に混ぜる。

白キクラゲには多糖体が多く含まれており、煮ることで特有のとろとろとした食感が出てくる。ただし、数時間かけて煮ないと、このとろとろ感は出てこない。

そこで裏技がある。10分間煮た白キクラゲを、2分間かき混ぜながら煮るのだ。そうすると、白キクラゲ含まれた多糖体が流出し、とぅるん、ぷるんとした触感に変化する。嘘だと思ったら試してみてほしい。ただし乾物の状態によって食感に差があるので、そこはご留意いただきたい。

なお、食材を混ぜるときは同じ方向に回すのが鉄則とされる。ごちゃごちゃかき回さず、泡立て器や大きめのスプーンなどを使って、一定方向にリズミカルに混ぜよう。混ぜ終わったら、いったん火を止めておく。

梨の皮をむく。芯を取り、果実を食べやすい大きさに切る。

梨には大きく分けて、ざらっとして茶色目の皮の赤梨と、つるっとして淡緑~淡黄の皮を持つ青梨がある

中華圏でこのスープによく用いられるのは青梨だ。なかでも雪梨や鴨梨と呼ばれる品種を使うことが多いが、これらは日本の二十世紀梨と近しい。もし手に入れられる機会があれば、青梨の中から選ぼう。

二十世紀梨。鳥取県で生産がさかんだ。

梨は、生で食べるときと同様に、皮をむいて芯をとる。ただし、皮と芯もスープに使うので捨ててはいけない。果実は食べやすいよう一口大に切る。下の写真では、8等分にしたあと、3~4等分にカットしている。

左が梨の果実、右が皮と芯の部分。どちらもスープに使える。
白キクラゲの入った鍋に、梨(果実・皮・芯)、棗、氷砂糖、水を加えて、沸騰したら中弱火で20分煮る。

梨は果実だけでなく、皮や芯からも味が出るので、すべて捨てずに鍋に入れよう。あらかじめ皮をむいてから入れるのは、食べるときに取り除けるからだ。

棗はそのまま煮てもいいが、縦4分の1にカットしてから煮ると、食べやすく味も出やすい。氷砂糖を使うのは、クリアな甘みを出すためだ。砂糖の種類を変えれば、風味も変わる。

沸騰後、20分ほど煮て、梨が透明感を帯び、棗からも味がでてきたらできあがりだ。味わうときは、熱々のまま飲んでもいいし、冷たく冷やしてもいい。

呼吸が整えば気持ちも安らぐ。肺を潤す梨のスープ(銀耳雪梨湯)

梨は煮ると、スープをたっぷり吸ったやわらかな食感となり、生にはない魅力が生まれる。口にすると、トロトロの白キクラゲに包まれて、おだやかな甘みとともに口の中に滑り落ちる。きっと、食べるそばから身体を潤してくれるように感じるはずだ。

さらにトッピングするなら、金木犀の花の蜜漬けや、水で戻したクコの実などがおすすめ。金木犀は香りが良く、クコの実は赤色がアクセントになって美しい。

金木犀の花の蜜漬け入り。オレンジ色の小さな花が金木犀だ。
クコの実は補陰、すなわち潤いを補う食材。梨、白キクラゲとも方向性が一致する。

ちなみにこのレシピは、甘さは控えめになっている。しっかりとした甘みがほしいときは、氷砂糖の量を増やそう。また、中華圏では黒砂糖を使うレシピも定番。黒砂糖を使うとコクが増す。

所要時間は、白キクラゲの下ごしらえ20分+梨や棗を加えて煮込み20分=合計約40分。難しいことは何もない。ただこれだけで中華スイーツ専門店で楽しむような糖水(デザートスープ)が作れ、身体も潤うのだから、ぜひ一度作ってみてほしい。

特に秋冬に呼吸器が弱りがちな方にはおすすめの一杯だ。できあがったら冷蔵庫や冷凍庫に入れておき、食べたいときに味わおう。


RECIPE&TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)