日本の町中華で、スープは永遠の脇役だが、中国でスープは主役を張れる料理だ。

それは、佛跳墻(ぶっちょうしょう)のように手間暇かけた高級レストランの料理に限らない。無駄がなく合理的な、中国家庭料理の世界でも同様である。

なかでもスープとおかずの1品2役を担う、一挙両得的な料理が連鍋湯(れんごうたん|liánguō tāng|リエングゥオ タン)だ。

四川省の伝統料理である連鍋湯は、豚肉を主役に、大根または冬瓜などを取り合わせて作るシンプルなスープである。素材を活かしたあっさりした味わいの中に、いきいきとしたおいしさがあり、食べ飽きない。

そんな連鍋湯の名脇役は蘸水(ジャンシュイ)、すなわちつけだれだ。スープの中の豚肉を豆板醤ベースのたれに潜らせれば、先ほどまでのおだやかさが一変、俄然ごはんに合う肉料理が爆誕する。

思わず肉でごはんを巻きたくなる。

一品のスープで2品分のおいしさが味わえるこの料理。今の季節、甘みが増した大根を使って作ってみよう。

豚肉と大根でつくる、蘿蔔連鍋湯(萝卜连锅汤|ルゥオボ リエングゥオ タン)のレシピ

<作り方のポイント>
豚肉を塊のままゆで、8割ほど火を通し、ゆで汁で大根を煮る。肉はスライスして鍋に戻し入れ、軽く煮て仕上げる。肉はつけだれをつけて食べると美味。つけだれも料理のキモなので、必ず作ってほしい。

材料(スープ碗に4~5杯分)※所要時間約20分
<スープ>
・豚バラ肉(塊)250g~300g ※できれば脂が少なめのところを選びたい
・大根400g
・水1000g(1リットル)
・小葱 2本
・生姜 2~3片
・塩 小さじ1強
・日本酒(少々)、花椒(数粒)、白胡椒(数粒)※なければなくてもよい

<つけだれ>
・豆板醤 大さじ1
・醤油 小さじ1
・にんにく 1片(みじん切り)
・黒酢 小さじ1杯
・油 小さじ1/2
<薬味>
・小葱 みじん切り ※お好みの量で

1:豚バラ肉を塊のまま、水からゆで、8割ほど火を通す。

鍋に豚肉を入れ、水を注いで加熱する。水からゆでるのは、豚肉のうまみをゆっくりと水に溶け込ませるためだ。

沸騰したら、浮いてきたアクをとり、結んだ小葱、生姜、花椒(粒)、白胡椒(粒)、日本酒を入れる。これらは豚肉の臭みをマスキングし、スープにスッキリとした香りを付ける役割を担う。足りないものがあっても問題ないが、葱と生姜は入れてほしい

これらを加えたら、水分が蒸発しすぎないように蓋をして、10~12分ほど煮る。豚肉はこの段階で完全に火を通さなくてもいい。この後薄切りにして、スープに入れたときに完全に火が通るからだ。強火で煮ると肉が縮むので、中弱火のコトコト感をキープしよう。

2:大根の皮を剥き、ちょっと厚めの薄切りにする。

豚バラ肉をゆでている間に大根を切る。皮を剥き、縦2分の1に切り、5~6mmの厚さにスライスする。

四川省では2mm程度の薄切りにすることもあるが、ここではスープを一気に食べ切らないことを考慮して、やや厚切りにする。そのほうが大根が崩れにくいからだ。

3:豆板醤ベースのつけだれを作る。
ここでは、減塩豆板醤「華(はな)」と、「ピーシェン豆板醤 特級」を3:1でブレンドして、味わいに奥行きを出した。

連鍋湯は辛くないスープだが、うま辛のタレを添えることで俄然ごはんに合う料理となる。たれの材料は、豆板醤、醤油、にんにくのみじん切り、黒酢。これらを混ぜ、少々油を加えて滑らかに整える。黒酢がない場合、透明の米酢や穀物酢をほんの少しだけ加えてみよう。

一般的に、豆板醤は色が濃い方が熟成期間が長く、コクがありまろやか。タイプの違うものをブレンドすれば、味わいに奥行きを出すことができる。

また、この料理の故郷・四川省では豆板醤の油で炒めて香りを出してから使う。手間をかけられる方は試してみてほしい。もちろん、ただ混ぜただけでも十分おいしい。

4:豚肉を鍋から取り出し、大根を鍋に入れて煮る。

豚肉に8割ほど火が通ったところで鍋から取り出し、スライスした大根を鍋に入れて煮る。この厚さだと、およそ5~6分で火が通る。

5:豚バラ肉を極々薄切りにする。

大根を煮ている間に、豚バラ肉を薄切りにする。1mmほどの厚さに切ると、口に入れたときに舌に沿うような心地よさが感じられる。できる限り薄切りにチャレンジしてみよう

なお、熱々のところを切ると、熱い上に肉汁が流れ出やすくなるので、少し冷ましてから切ると切りやすい。

6:薄切りにした豚肉をスープに入れ、軽く煮立てる。

大根に火が通り、半透明になったら、塩を加え、豚肉を加えてさっと煮る。豚肉のところどころピンク色の部分に火が通ったら、うつわに取り分け、小葱を散らしてさあ召し上がれ!

つけだれは正義!一度で二度美味しい連鍋湯の楽しみ方

まずは一口、スープをごくりと飲んでみよう。

冬に甘みを増す大根と、豚バラ肉のうまみが溶け合ったスープには、食材のいきいきとした活力が宿っている。さらに大根を一口頬張れば、ほのかな甘みがふわり。素材の滋味を感じるはずだ。

次いで、豚バラ肉はつけだれにドボン。これが驚くほど表情を変える。

さっきまでおだやかなスープを飲んでいたのに、今度は豚肉の豆板醤炒めのような、別のおかずを食べているような気分になるのだ。

食べる前には「スープにつけだれなんて必要なのか?」と思うかもしれない。しかしこの食べ方を一度味わえば「絶対いる!」と思えるだろう。

そもそも連鍋湯(れんごうたん)という一風変わった名前の由来は、鍋でスープをつくり、その鍋のままテーブルの上に出して温めながら食べたから、という説がある。つまり、簡易版の火鍋(火にかけながら食べる鍋料理)と考えると、つけだれがあるのも納得なのだ。

また、回鍋肉など肉料理を作った後の鍋に水を加え、大根などの具を煮ながら食べたから、という説もある。いずれにせよこの料理には、合理的で無駄のない、四川の家庭料理のエッセンスが詰まっている

なお「薄切り肉で作れる?」という質問には、「素材を活かした塩味のスープを作るのはちょっと難しい」と答えたい。なぜなら、塊肉のゆで湯が出汁になるからだ。ゆえに、あまり少量で作ると味が出ない。最低でも今回のレシピくらいの分量で作ろう。

塊肉をスライスするのが手間なら、一口大に切った豚バラ肉と乱切りの大根を大鍋で一緒に煮込むと、この連鍋湯と同様のおいしさが描ける。さらに人参を加えてもおいしい。また、肉を扱うときは、ニトリル手袋をすると手が油まみれにならないので楽だ。

「家でごはんを食べたいけれど、おかずをあれこれ作るのが面倒。一品しか作りたくない!」という方にもおすすめしたい連鍋湯。冬の大根はもちろん、夏は冬瓜などで楽しめる。まったく難しくないので、季節ごとに楽しんでいただけたら幸いだ。

[参考文献]
文学城【温馨煮艺】连锅汤(連鍋湯の由来)


RECIPE・TEXT・PHOTO サトタカ(佐藤貴子)