あれは15年以上前のこと。80C(ハオチー)編集部がある清澄白河エリアで外食といえば、町中華に喫茶店、そば、大衆食堂に深川めしといった布陣。

それが今やブルーボトルコーヒーをはじめ、個性的なコーヒーロースターが街に点在。予約の取れないイタリアンや、気のきいたショコラトリー、さらには「ニューヨークで話題のラーメン屋さんが駅前にできるらしい」なんて噂もあり、食を楽しむ場として日々、豊かさを増しています。

 

地元出身シェフによる、清澄白河のモダンチャイニーズ

そんな現在進行形で幅も深みも出てきたこのエリアに、地元出身の大津光太郎さんが中国料理店「O2(オーツー)」をオープンさせたのは2018年3月のこと。

自転車、STAR WARS、緑。この3つがインテリアのアクセント。

オープンキッチンでカウンター6席、テーブル8席の空間は、吹き抜けがあり開放的。よくよく見ると、随所に大津さん の愛するモチーフがさりげなく仕込まれており、控え目に、しかしエッジの効いたアイテムが光ります。こうした遊び心は、会話のきっかけにもなりますね。

オーナーシェフの大津さんは、日本を代表するモダンチャイニーズの名店「wakiya 一笑美茶樓」をはじめ、wakiyaグループで15年間腕を磨いた36歳。カウンターから見える鍋を振る姿勢のいい後ろ姿、スムーズな動きに実力を感じさせます。

 

丁寧かつ大胆に。中華の技法が引き出す素材の香りと味わい

料理はいずれも美しく丁寧な仕事。それでいながら、口中で弾ける素材の香りと味わいは中華ならでは。

天草産真鯛の春巻。素材の風味が口の中で躍動!

印象に残ったのは「天草産真鯛の春巻」。シャワッと繊細な音を立て、春巻の皮が崩れた瞬間、共に巻いたディルの香りが鼻腔に抜ける快感がここに。

噛めば真鯛のふっくらとした身と、フレッシュなマコモが軟らかに溶け合い、口の中でじわりとひとつになっていきます。これは季節を変えて違う春巻も味わいたくなりますね。

焼き茄子と中国ハムのスープ。地味であり滋味。

そしてこちらは「焼き茄子と中国ハムのスープ」。炙った茄子のほのかな焦げ感に、雲南ハムの引き締まった味わいが、舌の上でうまみを増幅。

前菜の叉焼は温かい状態で提供されます。すみません写真ピンボケで。

前菜の叉焼は温かい状態で提供されるのもうれしいところ。ほとばしる肉の脂と香りに、早々飲みたくなってしまいます。

店で最も売れているというフランス南西地方のロゼ「Rose qui Touche Vin de France」。葡萄は赤みのしっかりしたアブリュー100%。

聞けば、こちらで最も売れているワインはロゼ。以前から「中華のコースを1本で通すならロゼ」という話はちらほら耳にしていましたが、実際にロゼが最も飲まれているという店は稀。お2人でこちら1本を頼まれる方も少なくないそう。

上海風フカヒレの煮込み。

そして何より驚いたのは、コースの最後に登場した「上海風フカヒレの煮込み」。大津さんご自身が最も得意な料理に挙げているのが、上海料理の紅焼(ホンシャオ)こと醤油風味の煮込みですが、この技法で作られたフカヒレ姿煮がたっぷり100g、最後に丸々1枚提供されるのです。

しかもこのフカヒレが、原ビレ(皮付きのまま乾燥させたフカヒレ)から戻したヨシキリザメの尾びれというからさらに驚き。昨今はスムキ(皮をむいた状態で乾燥させたフカヒレ)から戻したフカヒレを使うことが多いのですが、ここでは昔ながらの技法で作られたフカヒレを用いています。

フカヒレとともに登場する小さな土鍋炊きごはん。

さらにフカヒレとセットで、小さな土鍋で炊きたてのごはんも登場。コースは5,000円と1万円(ともに税抜)がありますが、フカヒレごはんの愉悦を体感するなら後者をぜひ。

さらにお腹に余裕がある方は追加オーダーもぜひ。オリジナルの担担麺もありますし、炒飯は「こんな感じで」というリクエストに応えて即興で作ってくれます。甘いものはコースに含まれないため、食べたい方は追加でどうぞ。

黒糖を使った杏仁豆腐。

いままで清澄白河はちょっと遠いと思っていた方も、中華を楽しむために訪れる価値は十分。今の清澄白河らしい、小粒でピリリとエッジの効いた店です。

DATA
O2(オーツー)
東京都江東区三好2-15-12 峯岸ビル1F
TEL 03-6458-8988
OPEN 18:00~23:00L.O. ※21:00以降は状況次第でアラカルト対応も可

text & photo 佐藤貴子(サトタカ)