有楽町で中華といえばここ、という方も多かったことでしょう。1950年(昭和25年)からこの街で68年間営業してきた「純廣東料理 慶楽(けいらく)」が、2018年12月28日で一旦、店を閉めます。
店は有楽町の高架沿い。小説家の池波正太郎、吉行淳之介、開高健、落語家の9代目林家正蔵など、昭和の文豪や著名人が通ったことでも知られています。
名物は「スープ入ヤキメシ」。ワンプレートの「中華ランチ」も健在
今の東京で、これだけの数の料理をいつでも頼める街場の中国料理店はほぼないでしょう。アラカルトでオーダーできる料理は約180種類。赤い表紙のメニューを開くと、鶏類、蝦蟹類、牛肉類、猪肉類(豚肉)、魚類、雑類(内臓)…と、食材別に料理が紹介されているのは中国スタイル。写真はなく、広東語で料理名がずらりと並び、英語と日本語が併記されている様子は独特の味わいさえあります。
なかでも、昼に夜に、多くの方に愛されたメニューは「スープ入ヤキメシ」こと「上湯炒飯」。ドーム型に整えられた香ばしい炒飯に、熱々のスープをたっぷりとかけたこの一皿に、魅了された方は少なくないはず。今では珍しくなった「中華ランチ」と称するおかずとごはんのワンプレート盛り合わせも健在でした。
また、金属の器に盛りつけられた料理の佇まいもこの店ならでは。白切肥鶏(ウデトリ)、ボリュームのある炸蝦捲(巻揚)などが卓上に並ぶと、ちょっと嬉しい気持ちになったものです。
食べる派も飲む派も、共に憩える有楽町のオアシス
かつては通し営業だったことから、遅めの昼ごはんに、焼きそばや麺でホッとひと息つく人、早めの夜から肉団子や内臓類の 滷水煮で一杯楽しむ人など、時間帯によって、人々のさまざまな表情が見られる店でもありました。近くには東京宝塚劇場があり、観劇の前に寄るという方もいらっしゃいましたね。
タイ人留学生のおなかと心を満たした歴史も
今になって気づいたのですが、看板にはタイ語も併記されています。女将さんに尋ねてみると、創業間もない頃はタイ人のお客さんやスタッフも店におり、今でもタイ語のメニューを用意しているのだとか。卓上にある唐辛子の甘酢漬けも、タイ人の声で作り始めたのだそうです。
聞けば「今でこそタイ料理はどこでも食べられるようになったけど、当時はなかったようなんですよ」とのこと。見せてはいただきませんでしたが、気になって調べてみると、京橋玉次郎のお品書き「おやじの昼めし」にはこのようにありました。
「店の創業は昭和25年だが、その頃タイの裕福な家庭の子女が日本に随分留学していた。『故国の料理を食べたい』という留学生たちの要望を受けたタイ大使館が慶楽に『タイ料理を作って欲しい』と依頼してきた」
遅めのランチが狙い目か。思い出の味を尋ねて有楽町へ
店の貼り紙には「一旦閉店」とはありますが、今後については決めていないと女将さん。閉店を惜しむと「一番続けたいのはアタシなんですけどね」と話してくれました。
現在は、営業日と営業時間を変更し、昼は11時30分から、夜は17時からのスタート。近隣オフィスに勤務するSさん曰く「昼は開店直後よりも13時過ぎの方が入りやすい」とのことで、12月21日に訪れてみたところ、13時で17人待ちでした。ランチですから、それほど待たずに入れましたよ。
行列は必至ですが、入りやすい時間を見計らって、思い出のある方はぜひとも、足を運んでいただければと思います。
純廣東料理 慶楽
東京都千代田区有楽町1-2-8(MAP)
TEL 03-3580-1948
営業時間(12月21日に確認した内容です。店の都合により適宜変更があります)
ランチ 11:30~L.O.14:00、土日~L.O.14:30
ディナー 17:00~L.O.21:00、土日~L.O.21:30
「一旦閉店」予定日 2018年12月28日(金)
text & photo 佐藤貴子(サトタカ)