ウルトラマン発祥の地、祖師ヶ谷大蔵。かつて駅の近くに円谷プロダクションがあり、創業者の円谷英二氏の自宅も祖師谷にあったことから、そう称される“ウルトラな街”だ。

そんな祖師谷大蔵に、ウルトラマン同様、昭和の時代から人の集まる“横丁”があることをご存じだろうか。

まるよし横丁。約20店舗が密集している。

昭和30年代から続く、その横丁の名は「まるよし横丁」。いやあ、渋い。夜はぐっと酒場の雰囲気がでるだろうなあ。

そんな「まるよし横丁」の入口左手に2019年5月17日(金)、中国料理店「胡同三㐂(フートンさんき)」がオープンした。オーナーシェフは大城昌宏さん。齢は若干29歳。実に爽やかな料理人さんだ。

大城昌宏さん。プレオープン中の店の前で。

三代続いて中国料理人。そして三代目で開業!

実はこちらの大城さん、おじい様、お父様ともに中国料理人の家系である。

おじい様の大城宏喜さんは江蘇省鎮江出身。二子玉川「富士観会館」や大久保にあった「ホテル海洋」などで腕を振るい、中国料理人が結成する組織「日本中国料理協会」の設立から初代会長を務めたレジェンドだ。

また、お父様の大城康雄さんは、水天宮前「ロイヤルパークホテル 中国料理 桂花苑」の現役料理長であり、昨年「現代の名工」にも選ばれた方。大城昌宏さん自身は、東京農業大学短期大学部で栄養学を学んだのち、中国料理の道へ入った。

大城昌宏さん。しっかり味見をしながら作る姿が印象に残った。

聞けば「三代続いて中国料理人なので、血を絶やしたくないと思ってこの道に入りました」と大城さん。Jasmineグループに長く勤め、広尾本店、日本橋店、銀座店の立ち上げを経て、中目黒店でも研鑽を積んで独立へ至ったという。

独立の理由はシンプルだ。「おじいちゃんがやっていたような料理を、いつかやりたいと思っていたんです。そのためには、組織だとちょっと難しい。それなら自分で店を持って、小さくやるのがいいかなと」。

そして、偶然は必然とは言ったもの。昨年大城さんが結婚された奥様は、Jasmineで働いていたサービス担当。公私ともにパートナーとして「一緒にやれる」と思えたことも開業に繋がった。

フロアは16席。奥に円卓で5人座れる個室が1つある。余談だが、奥様のお父様も中国料理人。高級店のシェフを務めたのち、要町でオーナーシェフとして店をやっている。

シンプルでやさしい、家伝の味。

料理は「オーソドックスでおいしいものを出したい」と、酢豚や炒飯、焼売、春巻、餃子など、日本人にとってなじみのあるメニューがずらり。最近の東京では、エッジの効いた料理や、コース1本の店も増えているが、アラカルトで、客が好きなものを選べる日本人シェフの店は意外と貴重かもしれない。

なかでもメニューの中で目を引くのは、「おじいちゃんの肉団子」「大城さん家の焼き餃子」といった固有名詞。いずれも家族に伝わる味を大切にする、大城さんのイチ押しだ。

おじいちゃんの肉団子(1,230円)

しかも、おじいちゃんの肉団子は、おじいちゃんだけの味ではない。

「実はこれ、おじいちゃんが『ホテル海洋』で出していた獅子頭(シーズートウ)と、おばあちゃんが家で作ってくれた肉団子の作り方を合わせているんです。

甘めの醤油あんをかけているのはおじいちゃんのエッセンス。超粗挽きの豚肉に潰した木綿豆腐を加えて仕上げるのは、おばあちゃんの作り方。

揚げてから圧力鍋で煮た後、調味液に浸して冷ます方法で味を入れ、お召し上がりいただく直前に蒸してから提供しています」というこだわりは、今までの店で教わったやり方だ。

大きさは1個200g。まさに見た目は獅子頭だが、食べれば肉々しさや脂っぽさはゼロ。ふわりと軽く、胃にやさしい。

大城さん家の焼き餃子(5個 600円)。

また「大城さん家の焼き餃子」は、「僕が小さかったころ、親父が休みの日によく餃子を仕込んで、近所の人にあげていた」という家庭の味。

「キャベツたっぷりで挽き肉は少なめ。店で出すことに決めてから、父や兄、家族みんなに味見してもらって『うん、これはウチの味だ』と認められたものを出しています」。

花椒を入れた米酢をつけていただくのが、ホールを担当の奥様のおすすめの食べ方だ。

ドリンクは母方のルーツ・八丈島のエッセンスを入れて

また、ドリンクメニューでは「八丈島菊池レモンサワー」や「明日葉ハイ」といった変わり種が目に留まる。聞けば、八丈島は母方のおばあさまの出身地。「八丈島菊池レモンサワー」には、東京の島・八丈島や小笠原で栽培されている菊池レモンを使っている。

菊池レモンは1940年代に菊池さんという方によって島にもたらされたそうで、オレンジに近い黄色の皮と、ぷっくりと丸みががって、掌ほどの大きさがあるのが特徴だ。風味は一般的なレモンよりマイルド。

菊池レモン。小さいもので200g、大きなものでは400gほどあり、市販価格で1個1,000円もするものもあるのだそう。現地の農協から直接送ってもらっている。

このサワーには、そんな菊池レモンを乱切りにして凍らせ、サワーの中へどぼんと投入。氷のようにゴロリと入っているのを楽しんでもらうスペシャルな一杯。レモンの在庫がなくなり次第終了となる。

また「明日葉ハイ」は、青汁などにも使われている明日葉をパウダーにしてブレンドしたもの。いずれも、家族に関わりのある味を出したいと願う、大城さんのこだわりだ。

店内のインテリアには、おじい様やお父様から譲り受けたものを使った。中学生のときに、お父様と一緒に香港で買ってきた思い出の品も。

料理を出しながら「僕の料理ってこれといった特徴がないんですけど、いいんですかね?」と謙遜する大城さんだが、肉団子も餃子も、軽やかで食べ疲れない家庭料理のような持ち味と、いつまでもつまみつづけたくなる、プロの味の両方の側面を持っていた。

そしてメニューからも、家族を大切にしていることが伝わってきた大城さん。やさしい味わいと、年配者に愛されそうなキャラクターも手伝って、すぐに地元に愛される店となりそうだ。

店名は、おじい様の名前に「喜」が入っていたことから、その異体字である「㐂」を使った。「七が三つで、三代揃っているのもいいなと思って。「三喜臨門」という、三つのおめでたいことがやってくるという意味にも掛けました」。
胡同三㐂(フートンさんき)
住所:東京都世田谷区祖師谷1-8-17(MAP
アクセス:小田急線祖師ヶ谷大蔵駅から徒歩2分(まるよし横丁)
電話:03-6880-5530
営業時間:ランチ11:30~14:30(L.O.14:00)ディナー18:00~22:30(L.O.21:30)
定休日:月曜日
※コース6,000円~、貸切可能(15名以上)

 

TEXT & PHOTO サトタカ(佐藤貴子)