SABOTENと言ってもトンカツではない。トゲのある多肉植物でもない。

ここのところ、東京を中心に、食べることが好きな人が熱視線を注ぐ“発酵中華”。その奥行のある味わいとともに、日本ワインが楽しめる店が、今年1月、成田にオープンした。

成田国際空港と、成田山新勝寺のある、あの成田だ。

最寄りはJR成田駅。

男、21歳で発酵に目覚める

オーナーシェフの石曽根禎宏(いしそね ただひろ)さんは、成田生まれの成田育ち。修行は東京で、六本木「中国名菜 孫」、三田「御田町 桃の木」といった名店と、個性的な中華が楽しめる「黒猫夜」赤坂、六本木、銀座各店を経て独立した24歳の料理人だ。ちなみに昨年わかば食堂でも1日料理長として腕を振るってくれたことも記憶に新しい。

聞けば「黒猫夜」時代、店の『発酵フェス』で料理を振る舞い、発酵の魅力に開眼。想像以上に料理の評判がよかったことに手ごたえを感じ、21歳の時「独立するなら“発酵中華”だ」と心に決めたという。

SABOTENの発酵ハム「酸肉」と、千葉県いすみ市で作られているブルーチーズ。酸肉は軽く炙って出している。

そして、扉は開かれる。

「『発酵フェス』では、酸肉(発酵ハム)の炒め物と、酸豆尖(発酵ササゲ)の餡かけ料理、紅酸湯(発酵トマトの鍋料理)を作ったんです。酸肉は本を見て、初めて作った料理でした。

そこで来ていただいたお客様に、料理の説明をさせていただいたのですが、話し終わった後、あるお客様から「私、紅酸湯の本場・貴州省出身なんです」と言われまして。

ハッとしましたね。自分は貴州省に行ったこともないのに、まるで詳しい人のようにぺらぺら語ってしまって。そう思ったら本当に恥ずかしくて。その後、貴州省に行かなければと思いました。

そこで、そのお客様がまた来店されたときに相談したんです。そうしたら、タイミングを合わせて帰省すると言って、僕に貴州を案内してくれたんですよ。そこで刺激を受け、いろいろ学ばせてもらったことが今に繋がっています」

四川料理とは全く異なる、貴州式の辣子鶏(ラーズージー)。ごはんを呼ぶ、鶏の煮込み料理だ。
そして、皿に残った辣子鶏のタレで炒飯も。香り米を使っているところがニクい。

唐辛子、豆腐、檸檬、豚肉…!厨房から生まれる発酵の風味

現在、「SABOTEN」で常時仕込んでいるものは、糟辣椒(ザオラージャオ:貴州の発酵唐辛子)、腐乳(ふにゅう:豆腐の発酵調味料)、発酵レモンといった発酵調味料や、中国の少数民族・侗(トン)族に伝わる酸肉(スゥァンロウ:豚肉を酒醸などで発酵させたハム)などの発酵食品。

発酵レモンと青花椒オイルで風味をつけた鴨料理。

爽やかに辛い糟辣椒(ザオラージャオ)は旬の海鮮や肉料理で。コクと旨みのある腐乳(ふにゅう)は青菜炒めに。奥深い香りに変化した発酵レモンは、青山椒と合わせて鴨肉のソースなどに大活躍。このほかにも、お客様の要望に合わせて、適宜仕込むものもある。

自家製水豆豉(干し大豆を戻し、軽い酸味が出るまで発酵させた調味料)と香菜のサラダ。

石曽根流・日本ワインと中華の合わせ方

そんな個性的な料理に、日本ワインを合わせるのが「SABOTEN」スタイル。もともと御尊父がフレンチの料理人だったこともあり、ブドウの品種や産地の違いについて、話だけはよく聞かされていたそうだ。

興味を持つようになったきっかけは、修行していた「御田町 桃の木」時代。「シェフがワインを開けた際、僕にもテイスティングさせてくださる機会が多く、そこでおいしさに目覚めたんです。でも、外国のワインと自分の料理では、あまり合うイメージがわかなくて。

そんな時、日本ワインでよく使うマスカットベリーAという品種に、醤油や照り焼きのような風味があると気づいてから、自分の中華に合うのではないかとマリアージュを意識するようになりました」

ワインはどれもバイザグラスで楽しめる。過去には採算度外視で日本ワインの会を開催したことも。

オープン早々に、採算度外視で日本ワインの会を開催するなど力を入れてきたからか、最近は日本ワインを楽しみに「おすすめをお願いします」と、任せてくれるお客様もちらほら。セレクトは、テーブルの上の料理を見て決めることが多いという。

「例えば、3カ月寝かせ、塩気と旨みがしっかりとした酸肉(発酵ハム)は、比較的フルーティーで甘めのワインが合います。宮崎県にある都農ワインの「キャンベル・アーリー ロゼ」のような1杯は、値段も手ごろですし、塩気と甘みで、ずっと続けていけるような感じになりますね。

また、ワインを飲んで「自分の料理に合わせたい!」と強く思って料理を作ることもある。

「長野県にある小布施ワイナリーの「ドメーヌ・ソガ サンシミ メルロ」がそうでした。合わせた料理は酢豚です。一般的に、酢豚は酢と砂糖を多く使いますが、うちでは砂糖を減らして糖色(カラメル)を使います。ワインに含まれるメルロのタンニンの苦味と、酢豚に含まれるカラメルの風味が実によく合うからです」

店のセンターにオープンキッチン。ガラス越しのカウンターと、シェフの背中が見えるカウンター席がある。
鶏肉は千葉県香取市の錦爽鶏を使用。実にいい肉色ですね。

80C(ハオチー)読者ならご存じの通り、昨今は、発酵による独特の旨みと香りをたたえた中国料理を出す店の存在感が日々増している。

店名を挙げれば、白金「蓮香(れんしゃん)」、荒木町「南三(みなみ)」、藤沢市「茶馬燕(ちゃーまーえん)」、代々木上原「matsushima」、この分野に早くから光を当て続けてきた「黒猫夜」などが有名だ。

そのなかでも、石曽根さんは、ひとつの皿の上で味を重ねすぎず、描きたい味にフォーカスし、キレイに味をまとめる能力に長けた印象。

とはいえ、若きオーナーシェフは悩みも多い。「発酵中華というと『納豆炒飯を出すの?』と言われたり、『貴州の料理?なにそれ』と言われたり」。自分がやりたいことと、お客様がイメージする中国料理の接点を作るため、試行錯誤の日々だという。

ゆえに、この記事で「SABOTEN」の料理がどんな雰囲気か、漠然とでもイメージを掴んでもらえたら嬉しい。

「中国発酵料理と日本ワイン」という味やコンセプトもいいのだが、個人的には、石曾根さんという素直でひたむきな料理人に会いに行ってもらえたら、という気持ちもある。行ってみたら、若き店主のがんばりを、きっと応援したくなるはずだから。


中国発酵料理と日本ワイン SABOTEN

住所:千葉県成田市花崎町846-15(MAP
アクセス:JR成田駅から徒歩1分、京成成田駅から徒歩4分
電話:070-4167-6716
営業時間:
ランチ(月~木)12:00〜15:00(14:30 L.O.)
ディナー 18:00~24:00(21:00 L.O.)
バータイム 21:00〜24:00(23:00 L.O.)
コース料理は3,000円、5,000円、8,000円(各税別)。日本ワインのペアリングもコースと同価格で行う。アルコールの弱いお客様は量の調整も可能。
定休日:不定休


TEXT & PHOTO サトタカ(佐藤貴子)