酒とつまみを楽しむ中華居酒屋は、料理、価格、飲める酒まで千種万様。それだけに、仕事が丁寧でお財布にやさしい店との出合いは「お宝発見!」という気持ちになる。誘う相手を選ばない店は、意外とない、ですよね?
そんな稀有なお宝店「chinesebar ゆずのたね」が、新中野駅そばにオープンしたのは2019年6月のこと。店主は、20年以上中華一筋に歩んできた初見直人さんだ。

初見さんは「四川飯店」の総本山「赤坂四川飯店」でみっちり腕を磨き、2012年からは、老舗製麺会社が運営するレストラン「はしづめ」の総料理長として活躍した方。
三店舗を立ち上げたのち、「広尾はしづめ」を店舗をミシュラン掲載店に育て上げたという輝かしいキャリアを持つ。
初見さんを知る人ならわかると思うが、生粋の職人気質。昨今はSNS隆盛の時代だが「自分、不器用ですから」というキャラで、オープン前の宣伝は特になかった。
しかし、中野の人々のお目は高い。気づけばオープン初日、20人もの行列ができていたというのだから。

小ワザの効いたつまみ続々!キラリと光る中華的エッセンス
メニューを開いて驚いたのは、つまみの充実っぷりだ。
「ナメコの発酵唐辛子漬け」「ハーブ香る鶏唐揚げ」など、「お?」と思うつまみもあれば、「王道のエビチリ」といった中華ど真ん中の一品もあって目移り必至。
迷ったら「当店一押し」「とりあえず」「おすすめ」「低温調理」「パン」などのカテゴリの中から選ぶのもいい。
なかでも初見さんの一押し中の一押しは「四川火鍋モツ煮」。
もともとモツ煮込み屋をやりたいと思っていた初見さんが、自らのキャリア、技、やりたかったことを掛け合わせて生まれた一杯は、濃厚で香り高く、思わず汁まで完飲するおいしさだ。

それにしても、決して広くはない厨房で、なぜこんなにいろんな料理が用意できるのだろうか。
尋ねると、「最後に勤めた『原宿はしづめ』が、つまみとお酒を楽しみ、最後にそば(中華そば)で〆る“蕎麦前”がコンセプトだったんです。そこで試行錯誤して作らせてもらったことが今に生きています」と初見さん。
今の店も、1皿あたりの量は多くないので、おひとりさまも安心。わざわざ予約するというより、仕事終わりにふらっと寄って、寛いでいけるような雰囲気がある。

「中華名菜をちょっとだけ」もOK。おひとりさまにも嬉しいオーダースタイル
中華というと大勢でシェアする料理も多いが、この店なら「黒酢の酢豚をちょっとだけ」「よだれ鶏を1人前」という楽しみ方ができるのもいい。
例えば「妖艶な黒酢豚」と「干し肉のハニートースト」をオーダーし、酢豚の皿に残った黒酢ソースを、ハニートーストのフランスパンでぬぐって食べる、なんて食べ方もここならでは。



お酒も多々取り揃えており、オリジナルの「ゆずハイボール」「ゆずモヒート」をはじめ、日本酒は「みむろ杉」「吉野川」「花の香」など。
ビールは「ザ・プレミアムモルツ」の生、サッポロラガービール「赤星」、その他にはホッピー、紹興酒、焼酎各種、変わり種では四川金魚サワーなど一通り揃っている。

さすがの〆そば!おすすめは「極細麺の鶏そば」
そして「最後は炭水化物で締めくくらないと締まらない!」という方も大満足なのが〆の中華そばだ。
さすがは製麺会社を母体に持つ「はしづめ」で、店の立ち上げから数限りない麺メニューを開発してきた初見さん、これが実に堂に入った味わい。

ちなみに私のおすすすめは鶏そば。飲んで食べて、最後というのにさらにグイグイいかせる“うましお”味で、鶏スープと、厳選されたこだわりの麺のバランスのよさといったら…! 麺好きなら、恐らく1杯で止まらない、危険な炭水化物である。
いわゆる高級店の経験が長い初見さんにとって、自らの城はこれまでとは180度異なる店だが「わちゃわちゃやっているのが好きなんですよ」と話す顔からは、充実感がじわり。
こんな店が近くにあったら、1日の終わりに楽しみが増えそうだ。
chinesebar ゆずのたね 住所:東京都中野区中央3-34-1 プラム鍋横1F(MAP) アクセス:地下鉄丸ノ内線新中野駅から徒歩2分 TEL:050-1142-5020 営業時間: 火~金 17:30~翌2:00(L.O.1:00、ドリンクL.O.1:30) 土 17:00~翌2:00(L.O.1:00、ドリンクL.O.1:30) 日祝 17:00~23:00(L.O.22:00、ドリンクL.O.22:30) 月曜定休(祝祭日の場合は翌火曜日) 30席(カウンター席あり) |
TEXT & PHOTO サトタカ(佐藤貴子)