この店が「ツールドチャイナ横浜」、すなわち横浜中華ハシゴツアーのLe Grand Depart(グランデパール=開幕地)でよかった。

この後何軒も控えているのに、予定よりかなり多く食べてしまった。それにも関わらず、幸先明るい気分になったのは、直球で恐縮だが料理がおいしかったからだ。たくさん食べても食べ疲れない。むしろ胃袋が開いてしまった。

イセザキモールに面した「龍鳳」外観。1Fの四川料理店の左側の階段を上がる。

「龍鳳」は食べ歩きの1軒目ということで、事前オーダーは6品と控えめ。「横浜オールド中華探訪」の連載ぴーたんが店にお願いしていたメッセージはこうだ。

「蕗の薹の包み揚げと季節の壁メニュー、できれば焼売と桂春麺をいただきたいです。折角なので薬膳スープ、シーズン最後の牡蠣チャーハンもお願いします。(中略)

横浜名店食べ歩きツアーで、女性メインになります。サッと食べて、混み合う前においとまする予定です。食べ歩き、あまり行儀いいものではないのですが、無理言ってすみません」

つまり、何品かつまみ、この後のため、胃袋に“空き容量”を残す想定だった。

皿数は多く、味わいは引き算。大人が悦ぶ宴会料理。

しかし店についたら様子が違う。円卓の上に次々と前菜が並び始めたのだ。

グラン・デパール(開幕地)の龍鳳。次々卓上にでる前菜に若干戸惑いつつ、せっせと写真を撮り、分け合う。

まずはキュウリ、エリンギ、大根と軽めの野菜の前菜がきて、明爐(焼き窯)で焼き上げた燒肉(シウヨッ:窯焼きクリスピーポーク)がどどん。

燒肉。皮付きの豚ばら肉を焼き上げる。皮はパリパリ、肉はしっとり。相反する要素を両立。

弾けた豚バラ肉の皮はサクサクで思わず目を細めるが、控えめの塩加減もまた絶妙。

春節(中国の旧正月)の時期に仕込むという臘腸(腸詰)は自家製。素材の持ち味を生かした味付けで、甘さは抑えめ。これなら他の料理とも調和する。幸先のよいスタートである。

臘腸(腸詰)。激甘の店もあるが、非常に食べやすい。

「みんなが来る時間に合わせて焼き上げているんだよ~」と楊義誠オーナーシェフが持ってきてくれた炭焼き鶏は、ほのかな燻香にハリのあるふっくらとした肉が艶めかしい。

焼き上げるのは店内の明爐(焼き窯)。ほのかな焙煎香と油をまとった葱が、箸の動きを加速させる。

炭焼き鶏。身がふっくら。

続くは焼売。「横浜の焼売(シウマイ)のルーツを訪ねて」「まるでサウナ上がり!湯気と脂輝く焼売を求めて」の連載でもご紹介した通り、「龍鳳」で焼売は外せない。「今日は梅菜入りだよ」と出てきたのがこちら。

梅菜焼売。半乾燥でシャキッとした食感。

梅菜といえば梅菜扣肉(梅菜と豚ばら肉の合わせ蒸し)をはじめ茶色い料理が多いが、こちらは軽やかな緑色。口にするとシャキッとした食感が残る。聞けば「耀盛號に半乾燥の品が売ってると思うから見ていったら~」とオーナーシェフの楊義誠さん。

その焼売から間髪入れずに「いいシバエビが入ったから」と登場したのは軽やかな素揚げ。甘くもなくしょっぱくもなく、エビの素直な味が口に残る。その余韻がまたエビを呼ぶから無限シバエビ。

シバエビをサッと揚げて調味。

事前にリクエストしていたスープは、冬瓜と鶏、人参に棗の組み合わせ。広東の家庭料理らしい、気取らぬ、しかし食材の味がしっかり感じられるスープでするすると入る。

冬瓜、鶏、人参、棗の入った本日のスープ。

白貝もおいしいなあ。軽くとろみをつけたスープに、貝のエキスたっぷり。このスープを「蕗の薹の包み揚げ」にちょっとかけたりするともう悶絶。

白貝のスープ煮

待ってました!の「蕗の薹の包み揚げ」は、この季節限定のスぺシャリテ。口にすると鶏肉がホロッとほどけ、蕗の薹のほろ苦さが広がる。中に熱がぎゅうっと詰まっているなあ。

蕗の薹の包み揚げ

日本の春を中華で表現するとはまさにこのこと。春先に「龍鳳」を訪れたら食べずには帰れない。

「この鶏肉は、粗みじん切りと細かなみじん切りを混ぜているんだよ。城の石垣のように、大小組み合わせることで、挽き肉を使わなくとも蕗の薹をしっかりホールドすることができる。親父さんはあるときこれを思いついたらしいんだよね」とぴーたん。常連の蘊蓄も味わい深い。

つまりこういうことだ。写真は姫路城の石垣。/photo by shutterstock

後半にシンプルな青菜の料理が出てくるのは広東料理らしい流れ。本日の青菜はフレッシュな高菜の炒め。ぐわっとボリューム感のある根元と青々した葉先がしんなりとまとまり、いくらでも入る。この引き算がいい。

フレッシュな高菜のにんにく炒め。

そして、事前にリクエストしていた牡蠣炒飯が満を持して登場。バターライスのようなコクに、もち米のようなもっちり感。箸で軽く押すと、ムンッと押し返す牡蠣の弾力がまたそそる。

牡蠣炒飯。「年々おいしくなっているように感じるんだよ」とぴーたんが顔をほころばせる。

それにしてもこの炒飯、炒飯というにはグラマラスなコクがあり、炊き込みごはんにしては香ばしい。

いったいどうして?と尋ねてみると、「ラードと白絞油(しらしめあぶら:中華料理店で一般的に使われる油。大豆油や菜種油を精製したもの)を半分ずつ使っているよ」と楊オーナーシェフ。なるほどラード。禁断のラードだ。

米の次には麺もある。桂春麺は神楽坂「龍公亭」の名物だが、実はこの麺、「龍鳳」の先代が「龍公亭」で鍋を振っていたときに生み出した料理だそう。

桂春麺。1人前ずつ小分けに。

挽き肉、卵、筍という身近な素材をふくよかな餡でまとめてあり、実にバランスがよく、堂に入った味わい。真似できそうでできないのはこういう味だ。

これで最後かと思ったら、デザートもあった。こちらは百合根、白いんげんに里芋を合わせ、グレープフルーツのほろ苦いピールがアクセント。広東式の汁粉でもなく洋風でもない。白でまとめた、センスの光る甘味だ。

百合根、白いんげん、里芋を軽く練り合わせたところに、グレープフルーツピールがアクセント。バーナーで少し炙ってキャラメリゼしている。

もはや事前にオーダーした料理を食べるのではなく、1軒目から集中宴会モードとなっていたが、おいしいものならどんと来い。食べ疲れない塩味や油分の加減はさすがベテランの職人技。

「真味只是淡」。本物の味はただ淡白である、とは、明代に洪自誠が記した「菜根譚」の言葉だが、ふとそんなフレーズを思い出した。

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GRAND DEPART▼TOUR DE CHINE DANS YOKOHAMA:1軒目
龍鳳(りゅうほう)
住所:神奈川県横浜市中区長者町7-112(MAP
※イセザキチョウ三丁目交差点そば。オデヲンビル前
TEL:045-261-0308
営業時間:11:00~14:30 17:00~21:00(L.O.20:30ごろ)
水曜定休 ※臨時休業あり。訪れる際は店に確認を。
※宴会予約は5名以上、市場休日は宴会不可。おまかせ宴会予算の目安は一人あたり6,000円(税込)~。


TEXT & PHOTO サトタカ(佐藤貴子)