ギャラリー、アトリエ、スタジオが集まるアートの拠点であり、追いかけっこに夢中な子供たちの声が響く地域住民の憩いの場でもある、アーツ千代田3331

神田の末広町駅に近く、10年ほど前に旧千代田区立練成中学校を改修して誕生したアートセンターには、さまざまな人たちが集まり、多様な活動で賑わいを見せています。

晴れた日には外や階段で寛ぐ人々の姿も。

そのエントランスに、2020年8月「3331 cafe Ubuntu(カフェ ウブントゥ)」が誕生。

〈コーヒーとサンドイッチで世界を旅するカフェ〉をテーマに、ファラフェル、シャワルマ、テキサスバーベキューポークなど、世界各地の味と季節の野菜を包んだサンドイッチを楽しみながら、緑豊かな空間で寛げます。

これまで「食の旅先」として登場してきたのは、ヨーロッパ、アフリカ、中近東、アメリカ。それに続いて、新たに加わったのがなんと、中国!

といっても、サンドイッチの中華風味のアレンジではありません。我々にとってなじみ深いサンドイッチのように、中国各地の人々に親しまれている料理が登場しているのです。

第一弾は、中国全土に旋風を巻き起こした「黄焖排骨饭:黄燜排骨飯:ファンメンパイグーファン:豚スペアリブと野菜の醤油スープ煮込み)」。

黄焖排骨饭(黄燜排骨飯:ファンメンパイグーファン:豚スペアリブと野菜の醤油スープ煮込み)。ごはん、漬物、香菜がセットに。

腕をふるうのは、お父さまの仕事の影響で山東省煙台市や上海での在住歴がある、程旭さん。本業はアート事業のプロデューサー。これまでに、北京、上海、深圳、重慶などの美術館や大型商業施設などで展示企画などを行った実績をお持ちです。

程旭さん。月火のランチのみ3331のシェフに。黒板メニューも素敵です。

そんな程さん、実は大の料理好きで、仕事仲間に振る舞う料理がいつも大好評。その腕前は、仕事のパートナーとしても付き合いが長かったカフェ店長も太鼓判を押すほど。

レシピは料理上手なご両親から受け継いだ醤油ベースのスープに、スパイスを利かせた程さんオリジナル。現地の風情を感じることができ、かつ、アーツ千代田3331を訪れる老若男女幅広い層の人々が楽しんでもらえるようにと試作を重ね、完成に至ったそうです。

8月24日の初登場の日は、提供数は控えめに1day開催でしたが、好評のうちに終了。その後、月に1~2度の開催を予定し、2度目の9月7日はカフェオープンから1ヶ月を迎えた頃。店内で焼き上げるベーカリーの本格始動を進めるなか、少人数での運営でもこの企画を続けられるようカフェスタッフと調整され、

ここで中国の地方料理を通して未体験の味に出合い、普段と異なる食文化を楽しんでもらいたい。そして、次は何が出てくるのだろう、というワクワク感を提供できる場でありたい

と、中国地方菜のスペシャルランチが、毎週月曜~火曜の定期開催へ昇格したのです。

月火限定!10月の中国家庭料理は、黄焖排骨饭と土锅油面筋饭。

中国家庭料理定期化初の10月は、隔週で2つの料理が交替で登場。ひとつは、前出の「黄焖排骨饭(黄燜排骨飯:ファンメンパイグーファン:豚スペアリブと野菜の醤油スープ煮込み)」。

料理名にも含まれる焖(燜:メン)の字の通り、テーブルに運ばれるのはグツグツ熱々の土鍋。目の前で店員さんが蓋を外すと、じっくり煮込まれ、鍋の中で踊るスペアリブや野菜がお目見え。同時にスパイスの穏やかな香りがふんわりと広がります。

黄焖排骨饭(黄燜排骨飯:ファンメンパイグーファン:豚スペアリブと野菜の醤油スープ煮込み)

使用する野菜は、程さんの生活拠点である神奈川県三浦半島産の新鮮野菜。そのつながりが縁で、時々カフェでも直売マーケットが開かれることもあるそうです。

もうひとつ、中国地方菜スペシャルランチの第二弾として新たに登場したのは、程さんにゆかりのある上海から「土锅油面筋饭(土鍋油面筋飯:トゥグゥォヨウミェンジンファン:肉詰めボール揚げ麩の白胡椒スープ煮込み」。揚げ麩に最小限の穴を開け、そこからコツコツ丁寧に肉餡を詰めてゆく、手間のかかった料理です。

土锅油面筋饭(土鍋油面筋飯):トゥグゥォヨウミェンジンファン:肉詰めボール揚げ麩の白胡椒スープ煮込み

きのこ、春雨、厚揚げなどが、ガツンとしっかり胡椒を効かせたスープで煮込まれています。胡椒の刺激がじわじわクセになり、気がつくと箸もスプーンも握ったまま、スルスル食べ続けてしまっていました。

アートセンターのカフェとして、こだわりと今後の展開は?

つい食べることに夢中になってしまうのは、料理はもちろんのこと、器やテーブルなど、食周辺の素材に細部にまでこだわり抜いて選ばれたものを使っているところ。さすがはデザインのプロが手掛けるカフェです。

例えば、料理をのせたアルミトレイは、ちょっとした仕掛けを施してあることで特有のカツカツッと鳴りがちな音を吸収し、シンプルでクールな表情を見せながらもどこか温かみや懐かしさを感じさせてくれます。そうしていつの間にか寛いで、モグモグ夢中で頬張ってしまうのです。

気になる中国地方菜スペシャルランチ、「次の料理はもうお決まりなのですか?」と尋ねたところ、中国各地、東西南北にわたり、さまざまな地方の料理でプランを描いている模様。さらに提供形態については、ランチに加え、スペシャルディナーやケータリングなども計画しているのだそうです。

今や日本でも、中国地方菜を楽しめる場はディープなエリアばかりでないのだ、という新機軸。アーツ千代田3331の入居アーティスト、近隣住民、さらにSNSを通じて、より多くの人々へと伝え広まる今後の展開も、目が離せません。

※料理名のカタカナ表記は80C(ハオチー)の表記ルールに準じています。


3331 café Ubuntu(カフェ ウブントゥ)
住所:東京都千代田区外神田6-11-14 アーツ千代田 3331 SUITE105(MAP
TEL:03-5846-0533
営業時間:11:00-19:00
★程さんが腕を振るう中国地方菜スペシャルランチは、月火11:30-15:00の提供となります。


text & photo :アイチー(愛吃)
中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。日本の中華のなかでも、中国人シェフが腕を振るい、郷土の味が味わえる“現地系”に精通。『ハーバー・ビジネス・オンライン』でも執筆中。