気張らずに、ちゃんとした、丁寧につくられた中華が食べたい。そんな気持ちに寄り添う店「桃仙閣 東京」が2020年9月、六本木にオープンした。

場所は六本木の俳優座そば。クローズは深夜1時(日によって短縮営業あり)。

目指すところは、どこか懐かしく、さりげなく上質な味わいをアラカルトで楽しめる店。

最近ではおまかせコースだけ、という店も少なくないが、思えば往年の中華料理店は、メニューを開き、なにを食べようかと目移りするのも喜びのひとつだったものだ。

ちなみに六本木の中華料理店で、アラカルトで楽しめる中華の二大巨頭といえば「中国飯店」と「香妃園」。どちらも老舗で、しっかりとした中華だが、産声を上げたばかりの「桃仙閣 東京」は、アラカルトながら、ほとんどの料理で一皿のボリュームが調整ができ、軽やかな味付けが中心。

昔ながらの中華のように、肩肘張らない楽しみ方ができることに加え、モダンな空間や、料理の提供スタイル、お酒のバリエーションなど、今の東京都心に合わせて進化させており、訪れる人それぞれに、いろんな楽しみ方ができる店となっている。

個室は7室。思い思いにくつろげるシックな空間。

特に今の時代らしいと感じるのは、個室を多く設けているところだ。なんとその数、7室。2人向けに4室、4人向けが3室あり、プライベートな空間を大切にできる。

グレーを基調としたシックな内装。こちらは4人向けの個室。各個内には空気清浄機を備えている。

一方、1~2名ならカウンターもいい。こちらは「ふらりときて、空いていたらラッキー」と思えるいい雰囲気。「お酒を飲みに来ていただくだけでもどうぞ」と店主の林亮治さんがいう通り、ワイン、日本酒目当てもアリ。お好きな方は、相談したらすごい1本が出てくるかもしれない。

カウンターは最大4席。落ち着いた照明で寛げる。※撮影日は3席。
お酒は好みを伝えて出してもらっても吉。

日本で愛される定番中華も、中国を感じる季節の料理も。

メニューをめくると、ちょっとしたつまみにちょうどいい前菜が10品ほど。炒めものや煮ものなどの温かい料理は、エビチリや酢豚、かに玉、ホタテの炒めものなどの日本中華の定番はもちろん、季節によって上海蟹の料理や、カエルの炒めものなども登場し、目に舌に楽しませてくれる。

カエルの唐辛子と花椒の香草炒め
ホタテと黄韮の炒め

前菜は中国各地の伝統的な料理を、現代的な引き算をして仕上げられたものが多く、温かい料理は日本の中華の定番をベースにしつつ、この店らしい、やさしい味わいに着地させている印象。

例えば、鶏モツを四川料理の調味だれ、椒麻(ジャオマー:葱の青い部分と花椒を叩いてペースト状にしたもの)で和えた前菜は、レバー、ハツ、砂肝を湯引きし、ふわりと火の通している点が現代的。椒麻は現地よりやわらかくコクのある風味に仕上げていることで、日本のお酒とも合わせやすくなっている。

鶏の三種内臓湯引き 椒麻味

蒸し鶏は、中国の鶏料理とは異なるしっとりとした風合いであり、キリリと口がすぼまるようなクラゲの甘酢は、どこか懐かしい味わい。

蒸し鶏の葱ソース
クラゲの冷菜

運ばれるて来るなり目を奪われる豚足の醤油煮込みは、スッキリと透明感のある風味が印象的で、店のスペシャリテといえる一品。口の中でふるふるととろける豚足に、マデイラワインを提案するのはこの店のセンスだ。

豚足の醤油煮込み
料理に合わせてドリンクをすすめてもらうのも楽しい。

さらに、ひと目で御馳走とテンションが上がる料理も用意されている。松江近郊の港で水揚げされたナマコをはじめ、海鮮を使った季節の炊き込みごはんは、和食のそれとは違った趣でクセになること必至だ。

使い込んだうつわのように、時を重ねてやわらかさを出せる店に。

ところで「桃仙閣 東京」という店名を見て「“東京”ってことは?」と思った方もいるだろう。実はこちら、本店があるのだ。

その歴史は古く、1967年9月島根県松江市で開業。家族の集いから婚礼まで、半世紀以上親しまれてきた「桃仙閣」だ。別会社となるが「Asia’s 50 Best Restaurants」等で世界のグルマンから注目される、広尾「茶禅華」もまた「桃仙閣」の林亮治オーナーが手掛けていると聞けば、なるほどと思う方もいるかもしれない。

その、満を持しての東京店である。開店前から店のInstagramで進捗を拝見していたが、店が目指すところは、このフレーズに込められているように思う。

「どんな高級なお皿よりも、50年近くつかい慣らされたこの朱色のお皿に温もりを感じてて、価値を感じています。こんな感じに時を重ねて、柔らかさを出せる中華屋さんになれたらという思いもあります。

なので今回あえて、桃仙閣の東京でもちょっと懐かしいデザインの染付けの丼をつくってもらいました。時間が経って、青と白の境界がぼやけて、味わいを感じれるようになりますように」。


桃仙閣 東京
東京都港区六本木4-8-7 六本木嶋田ビルB1F(MAP)※地下鉄六本木駅6出口から徒歩1分。俳優座劇場そば
TEL  080-4343-3946
営業時間 月~金18:00~AM1:00L.O. 土17:00~AM1:00L.O.
日曜定休、月曜不定休、その他定休日あり
Instagram
※サービス料5%。22:00以降入店は10%
※ほとんどのの料理で量の調整が可能
※おまかせコースあり(8,000円)


TEXT & PHOTO サトタカ(佐藤貴子)