中国料理FROM天台山!当企画は、2021年にオープンした中国浙江省の山岳リゾートホテル「星野リゾート 嘉助天台(かすけてんだい)」総料理長・山口祐介さんの中国食探訪記です。仏教の聖地・天台山から、ここに住み、食を生業として働く料理人の目線で見た《中国の食》をご紹介します。★1回目から読む方はこちらからどうぞ! |
豚バラ肉をじっくり煮込み、プルプルの食感がたまらない杭州名菜・東坡肉(トンポーロウ)と、一口大の肉塊にうまみの凝縮した中国全国区のおかず・紅焼肉(ホンシャオロウ)。
前編では、同じ角煮といっても似て非なる両者の特徴をご紹介しましたが、この後編ではそれぞれの作り方をご紹介します。これを読めば、あなたも角煮名人に!
▶前編から読む:中国二大「豚の角煮」の違いに迫る!東坡肉(トンポーロウ)と紅焼肉(ホンシャオロウ)|山口祐介の江南食巡り④
水は使わず紹興酒で煮込む!本場杭州の東坡肉(トンポーロウ)の作り方
最初にご紹介するのは、浙江省が誇る名菜・東坡肉(トンポーロウ)。他の地方にもありますが、僕がご紹介するのは杭州式で、ホテルなどで作られている、ちょっと高級な店の作り方です。
とはいえ、決して難しくありませんよ。プロセスは、①肉を下ゆでする→②酒と香味野菜と調味料を入れて煮る、の2ステップ。以前、圧力鍋を使った家庭用レシピをご紹介しましたが、今回の作り方はさらに本格的です。
<東坡肉のレシピ>※杭州式
●皮付き豚ばら肉 3kg
●肉の下ゆでのための材料
・小葱 8本くらいを結んで使用
・生姜 1塊をスライス
・紹興酒 少々
●煮込み調味のための材料
・小葱 8本くらい
・生姜 1塊をスライス
・紹興酒 2,000cc(「古越龍山」陳年5年を使用)
・生抽 100cc~(ここでは海天醤油「金標生抽」を使用)
・氷砂糖 半掴み
①皮付き豚バラ肉を切らずに、大きな塊のまま鍋に入れ、下ゆでする。
角煮というと切ってから煮るイメージがあるかもしれませんが、肉は切らずにゆでます。なぜそうするのでしょうか。それは、東坡肉は真四角にカットして美しく盛り付ける料理だからです。
もし、生肉の段階でカットして煮たら、それぞれの塊で身の縮み方にバラつきがでてしまい、形が揃わなくなってしまいます。逆に大きな塊のまま煮て、縮むところまで縮んだら、改めて火を入れても肉は煮崩れしないのです。
下ゆででのとき、お湯に加えるのは、葱、生姜、紹興酒。火加減は鍋の中がふつふつと湧いている状態で、断生(ドゥァンシォン|duànshēng)と呼ばれる状態になるまで煮込みます。
「断生」とは食材に火が通った状態になること。蒸し鶏や蒸し魚などにも使う料理用語で、生の気配がなくなるというニュアンス、伝わりますよね。
煮込み時間は、豚バラ肉3kgに対して1時間くらい。「断生」になったら鍋から出し、重石をして、肉の高さを均一にします。店では油のペットボトルなどを肉の上に載せ、温かいうちに平たくします。
②下ゆでして角切りにした肉を、葱、生姜、紹興酒、砂糖、醤油で煮る。
肉の凸凹が均一になったら、7cmの角切りに整え、香辛料と調味料を加えて軟らかく煮ます。角煮というと、日本では八角の香りをイメージする人が多いかもしれませんが、杭州の正統な東坡肉は、葱、生姜、紹興酒、砂糖、醤油、この5種類しか入りません。
なかでも味の決め手となるのは紹興酒です。東坡肉は、酒を以って水とする「以酒代水(イージウダイシュイ|yǐjiǔdàishuǐ」という言葉があるほど紹興酒を多く使うのが特徴。
どのくらい入るかというと、3kgの豚ばら肉に対して、500ccの紹興酒のボトルが4本。氷砂糖はひとつかみ、醤油は広東省産で有名な海天醤油の生抽(濃口醤油)をまず100ccほど。醤油の量は最終的に味をみながら調整します。
煮るときは、葱、生姜を鍋底に入れ、その上に竹網をのせ、竹網の上に肉を並べます。このとき、皮を下、または横にします。そうすると、煮汁が詰まったとき、皮においしそうな茶色がつくからです。日本の家庭で竹網を持っている方は少ないと思うので、なかったら肉を直接香味野菜の上に並べてください。
紹興酒を注いだら、最初は強火で煮てアクを出します。そのアクを取り除き、弱火で蓋をして煮ること約2時間。煮汁の味に徐々に変化がおこります。
実はこの煮汁、煮る前は味わえるようなものではありません。材料の通り、紹興酒の中に醤油と砂糖が入った甘い液体ですからね。
しかしこれが煮詰まって、アミノ酸がしっかり感じられるようになると、煮込むほどに、驚くほどおいしくなるのです。反射するような美しい照りもでてきます。
脂がうまい!おすすめの食べ方は東坡肉丼!
できあがったら、いざ実食! 僕が思う一番おいしい東坡肉の味わい方は、こちら。
東坡肉をごはんにのせた東坡肉丼です!ラードライスやバターライスを食べたことはありますか? そうです。あの禁断の味です。動物性の油がごはんに絡み、さらにほろほろの肉がついてくるんですから、おいしくないわけがない!
ちなみに日本では角煮に芥子を添えますが、中国ではその食べ方はありません。米は硬めに炊いてくださいね。パラッとした米に豚の脂と煮汁が絡んだところを一気にいってください。
次のページでは、もうひとつの豚の角煮であり最高のおかず・紅焼肉(ホンシャオロウ)の作り方をご紹介します。