日本ではあまり知られていないが、中国では知られている家庭料理「地三鮮(ディサンシェン)」。醤油ベースのタレで3種類の野菜を炒めた、やたらと飯が進むこの料理、いったいどうすればおいしく作れるのか?
これは中国駐在を経て帰国したアベシが、現地で食べまくっていた料理の理想の味を追い求める、男の料理レポートだ。(詳しくは1回目へ

ナス、ジャガイモ、ピーマンだけで、肉が入らずともごはんもお酒も進みまくる料理、地三鮮。

これが家でおいしく作れるなら最高だ…!ということで、帰国後、みしみしと地三鮮を食べ歩いた経験から、理想の味わいが導き出された。その要素は、以下の通りだ。

・ほくほくのジャガイモ
・とろとろのナス
・ジャガイモ、ナス、ピーマンの偏りのないバランス
・甘さ控えめ、辛さ強め
・ご飯が進む適度な塩分
・とろみは控えめ
・色は黒すぎない(黒くてとろっとしていると甘い味付けが多い)

そして、この理想に最も近い地三鮮を作る店がついに見つかった。2019年1月にオープンした、発酵中華と日本ワインの店「SABOTEN(さぼてん)」である。

「SABOTEN」の地三鮮は中国各地の融合系

「SABOTEN」は2019年1月、千葉県成田市にオープンした店。オーナーシェフの石曽根禎宏さんは「桃の木」「中國名菜 孫」「黒猫夜」等で修行した25歳だ。(2020年10月現在、隣店の火災によって店は閉店しています:編集部追記)

「SABOTEN」オーナーシェフの石曽根禎宏さん。

店には酢豚などの定番料理もあるが、石曽根さんが中国で感銘を受けた発酵の味わいを生かした料理と、自らがこよなく愛するワインを合わせたペアリングコースが実は肝入り。

自家製発酵食材を使う店は他にもあるが、彼自身のキャラクターも料理に醸し出されるのだろう。全体的に、マニアックというよりも、やさしく、まろやかなうまみのある料理が印象的だ。

セラーには石曽根さんが日本各地から集めた国産ワインが充実。

さっそく地三鮮のレシピを見せてもらうと、豆板醤とオイスターソース入り。たしかに、今回目指している甘さ控えめ、辛さがあって、とろみが少ない配合となっているが、ガチ中国東北料理とはちょっと違う味付けのようだ。

「それは僕が修行した『中國名菜 孫』のスタイルなんです。オーナーシェフの孫成順さんは、北京出身の特級厨師。理由として、北京料理そのものが中国全土の技術を詰め込んだ集大成の料理だから、と説明してもらいました」

たしかに地三鮮は中国東北地方が発祥とされる料理だが、今や中国各地でローカライズされている。私が食べ込んでいた常熟市もそうだ。つまりここでは地三鮮を北京料理の視点で捉えた、ということだろう。そして、調理のポイントは?

野菜を素揚げしてから調理することと、薬味をしっかり炒めて香りを出すことです。とろとろのナス、香ばしくホクホクのジャガイモ、シャキッとした食感の残るピーマン。この3つの食感と香りが大切ですね

ではさっそく教わっていこう。

SABOTENの地三鮮レシピ(2人分)

<主材料>
ナス1本、ジャガイモ(大)1/2個、ピーマン1個
<薬味>
にんにく1片、生姜1スライス、長ねぎ1/3本
<調味料・香辛料>
豆豉5g、唐辛子(鷹の爪)2本、豆板醤小さじ1
<合わせ調味料>
砂糖小さじ1、酒小さじ1、醤油大さじ1、オイスターソース小さじ1、チキンスープ(ここでは店でとった清湯)大さじ2、胡椒少々、水溶き片栗粉小さじ2
<仕上げ調味油>
ごま油(焙煎タイプ)小さじ1

 

1:材料をカットする

まず、材料を切り揃える。ナス、ジャガイモ、ピーマンを一口大の乱切りに。長ねぎは斜め1cm幅に切り、にんにく、生姜、豆豉はみじん切りに。刻む食材は、にんにく:生姜:豆豉=1:1:2の割合が目安。

にんにくは、まず包丁の腹で叩いて潰してから、粗く刻むのがポイントです。その方が香りが出やすくなるんですよ

左が薬味、香辛料、調味料。右が主材料。
2:ジャガイモを加熱する

続いてじゃがいもが軟らかくなるまで火を通す。蒸し器で蒸してもいいし、レンジで加熱してもよし。「このプロセスは調理時間短縮のためです」。これは家でも使える時短テクだ。

ジャガイモは熱々ではなく、少し冷めているくらいがいいんです。理由は、冷めている方が硬くなるじゃないですか。その方が揚げたときに崩れにくいんですよ

なるほど、熱々のジャガイモだと触っただけで崩れてしまうかもしれないので、キレイに揚げて、キレイにタレを絡めるには必要なことだ。

3:ジャガイモを170℃の油で揚げる

そしていよいよ、地三鮮のおいしさの要となる野菜の素揚げだ。…が、その前に、ひとつ驚いたことがある。鍋から中華鍋にお玉で移す油が、古い…?

「そうなんです。地三鮮は野菜だけの料理なので、コクを加えるのに何度か使った油の方がいいんですよ。逆に新しい油の場合、野菜の味が油の方に持っていかれてしまうんです。僕の場合は麻婆豆腐と地三鮮、この2つの料理に限っては、何度か使った油を意図的に使っています

というわけで、わざわざ選んでいたというこだわりがここに! 思えば錦糸町の「美味亭」で、何だか品がある感じがしたのは「油に臭いがないからでは…」思ったことを思い出した。

170℃前後に熱したら、まずはじゃがいもを油に投入。温度計を使わずに170℃を見極める目安は、一度濡らした菜箸を布巾でふき、油の中に入れた時に、細かな泡が絶え間なく上がる状態だ。

目安は周りがうっすら色づくまで。じゃがいもの表面を固め、香ばしさを出す目的なので、キツネ色に揚げなくても大丈夫です

揚げ時間はだいたい1~2分くらいだろうか。ジャガイモをザーレン(網)の上においたら、石曽根さんはさらにその上に、ピーマンのツヤツヤの面(外側)を上にして並べている。

なぜかというと、この後ナスを揚げた油をこの上に流しかけることで、ピーマンに高温で瞬間的に火を通すんですよ

なお、店では油の入った鍋の上にザーレンを置いて調理できるが、家にザーレンや油用の鍋がない場合は、ナスを揚げ終わる直前に、ピーマンも揚げ油の中に入れ、一瞬で取り出すのが現実的と思われる。

4:ナスを190℃で揚げる

続いてナスを揚げる。ガスを強火にして油を約190℃の高温に上げたら、ナスを投入する。温度計を使わずに190℃を計る目安は、濡らした菜箸を布巾でふき、油の中に入れると、大きめの泡が勢いよく上がってくる状態だ。

ナスの表面が薄く色づいてきたら揚げ上がりのサインである。油とナスの入った中華鍋を持ち、ピーマンとジャガイモがスタンバイしているザーレンの上に、油ごと一気に流す。

すると、ピーマンはこの通り。「中国料理には、ピーマンを焼いたり揚げたりしたときに、表面がしぼしぼになる“虎皮”という表現がありますが、それを目指します。高温の油を一気にかけると、そんな状態になるんですよ」

店の場合、ピーマンに火を通しながら、もともとあった場所に油を戻すことになるので、効率的な調理法である。一方、ザーレンと油を入れる鍋のない家庭の場合は、野菜を網に取り、油は後で漉して、炒め油などに使うことになる。

5:豆板醤と薬味を炒めて香りを出す

続いて炒めダレの調理にとりかかる。ジャガイモ、ナス、ピーマンに油で火を通したら、鍋に大さじ2杯の油を入れ(分量外)、弱火で豆板醤を炒めて香りを出す。油がしゅわしゅわと泡立ち、豆板醤色に染まってくるのが確認できる。

豆板醤の香りが出てきたら、にんにく、生姜、豆豉を追加。

ここでしっかり香りを出すことが大切です。野菜だけの料理ですから、豆板醤、豆豉、香味野菜を炒めることが旨みを出す要になります

続いて葱、唐辛子を追加して、より複層的な香りが鍋の中から漂ってきたところで…

6:合わせ調味料を入れて加熱し、野菜を炒め合わせる

合わせ調味料を投入する。

「本当は“打ち込み”といって、“さしすせそ”の順に調味料の材料をひとつひとつ鍋に入れながら味を作っていくといいのですが、ここでは失敗のない合わせ調味料を使います」

合わせ調味料の中には水溶き片栗粉も入っている。上の写真のように少しとろみを感じる状態になったら、ザーレンの上のナス、ジャガイモ、ピーマンを戻し入れ、炒め合わせる。

中華鍋で何回か煽り、全体にタレが絡んだら、仕上げに胡麻油をサッとかけてフィニッシュだ。その間、約10秒!

ああ、地三鮮の香りが店いっぱいに広がっている。

「はい、できあがりです!」

実食!理想の味は再びここに現れるか?

久々に食べる「SABOTEN」の地三鮮。まず、見た目がきれいである。

家で作るともっとゴチャッとしてしまところ、3つの具の色も形もしっかり残っているのは、揚げる温度と時間の的確さによるものかもしれない。最後に回しかけたゴマ油の効果なのか、きらきらとして豪華さもあり、とても肉のない料理には見えない。

待望の試食!

口にすると、ジャガイモのホクホク感、ナスのジューシーさ、ピーマンのシャキシャキ感とそれぞれの持ち味が出ていて、食感の対比がおもしろい。味付けは、うまみとコク、塩気がしっかりあって、白飯を呼ぶ味。味の濃さが食べごたえにつながっている料理でもあると実感する。

皿の底に残ったタレも、粗みじんに刻まれたにんにく、生姜、豆豉の食感が残っていて、とても美味しい。これだけでも持って帰りたいくらいだ…。

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