「天上龙肉,地上驴肉(天上龍肉,地上驢肉)」。中国では、その美味しさを「天上には龍の肉あり、地上には驢馬の肉あり」と讃えられる、ロバ肉。

調理法は、炒め、煮込み、鍋などさまざまありますが、特に人気が高いロバ肉料理といえば驢肉火焼(ロバ肉バーガーまたはロバ肉サンド:リュロウフォシャオ:驴肉火烧:lǘròuhuǒshāo)です。

「天上龙肉,地上驴肉」とキャッチコピーに書かれた広東省広州市のロバ肉バーガー店(2019年7月撮影)。photo by Tsutomu Kosugi
北京郊外にあるロバ肉専門店のメニュー。推しはロバ肉バーガー(2016年4月撮影)。photo by サトタカ
北京郊外にあるロバ肉専門店のロバ肉バーガー。肉の部位が選べる。(2016年4月撮影)。photo by サトタカ
甘粛省敦煌のロバ肉専門店に貼ってあったロバ肉料理のポスター。ここでは「天上的龙肉,地上的驴肉」という表現に。(2019年9月撮影)
敦煌のロバ肉料理専門店の醤驢肉(ロバ肉の煮込み)。(2019年9月撮影)

中国では、河北省をはじめとした華北地域をはじめ、西北および東北地域でも親しまれていたロバ肉料理。それが現在は、より広い地域で食べられるようになり、さらに広がりは日本へも到来していているのです!

ロバ肉禁断症状から、故郷のロバ肉バーガーを再現!

驢肉火焼(ロバ肉バーガー)の提供を始めたのは、新小岩にある『御猫榴(ロイヤルキャットドリアン)』。「猫とドリアン、そしてロバ肉が大好き!」という吉林省長春出身の店主さんが、お母さんとともに始めた店です。

『御猫榴(ロイヤルキャットドリアン)』外観。開業は2年ほど前。
もともとはスイーツ専門店として、猫をモチーフにした可愛らしい内装を施してオープンしていました。photo by Tsutomu Kosugi

長春で暮らしていた頃は「週2、3回は食べていた」というほどロバ肉を愛していた店主さん。にも関わらず、来日してからロバ肉を口にする機会がなく、恋しさが募るあまりメニュー化を決めたのだそう。

すると、その想いに共感する人が多かったのか、発売するやいなや絶大な反響が!

筆者が店に滞在していた間も「いやぁ、ロバ肉食べたかったよ〜!」「ロバ肉まだありますか?」と入店第一声をあげる中国人のお客さんが続々来店。多くの人たちにとって、ロバ肉が故郷を思う懐かしい味ということが伝わってきました。

パリッとした焼き目が決め手のロバ肉バーガーに、生地から手づくりのロバ肉餃子

そんな驢肉火焼に使われるバンズは、火焼(火烧:フオシャオ)と呼ばれる平たいパン。焼き面がカリカリッとしているのが特徴で、この食感こそが火焼の良し悪しを決める重要なポイントとなるのだそう。

『御猫榴』では、この魅力を伝えるため、ロバの鳴き声と歯触りになぞらえて「嘎嘎脆(ガーガーツイ:gāgācuì ※ガーガーはロバの鳴き声の擬態語)」とPR。日本語でいうと「ガーガーパリッ」というニュアンスですね。

そんな火焼に切れ目を入れ、間にたっぷりのロバ肉を挟んだら、驢肉火焼(ロバ肉バーガー)のできあがり!

ロバ肉バーガー。この日は2個注文しましたが、あっという間に完食!

いただいてみると、ロバ肉は締まった赤身が多く、キュキュッと噛むほどに肉のうまみが滲み出てくるよう。そこに刻んだピーマンを混ぜるのも特徴で、後味をさっぱりと軽やかにしてくれます。

そのせいか、注文した2個をあっという間に完食!クセになりそうで、店主さんが「週3回食べても飽きない」とおっしゃるのに深く納得してしまいました。

また、店では驢肉蒸餃(ロバ肉蒸し餃子:驴肉蒸饺)も注文できます。生地は皮から手づくりで、ぷっくりとしたかたちの大きめのサイズ。

餡はロバ肉をしっかり味わえるよう、ネギを少々混ぜるに留めたところがこだわりだそう。餡からじわりと滲み出たスープを逃さないようご賞味あれ!

ロバ肉蒸し餃子。手作りの皮もポイントです。
餡にはロバ肉の肉汁がギュッと蓄えられています。

ロバ肉バーガーにも地域性あり!『御猫榴』は保定式

なお、中国のロバ肉バーガーには、パン(火焼)のかたちとロバ肉の調理法で、大きく2つのスタイルが存在します。

①保定式(河北省保定市)
[火焼(バンズ)]丸型
[ロバ肉の味付け]鹵制(香料煮込み)
[温度帯]温かい
[ロバ肉の形状]刻んである

保定式の驢肉火焼。丸型なのでロバ肉バーガーと呼ぶにふさわしい。

②河間式(河北省滄州市河間)
[火焼(バンズ)]長方形
[ロバ肉の味付け]醤制(醤油をきかせた煮込み)
[温度帯]熱くない
[ロバ肉の形状]薄切りが基本

河間型の驢肉火焼。長方形に焼き上げる火焼なので、ロバ肉サンドと呼ぶほうがしっくりきます。photo by サトタカ

これを知ると、『御猫榴(ロイヤルキャットドリアン)』は保定式ということがわかりますね。

驢肉火焼はここでの登場をきっかけに、日本における驢肉火焼の黎明期を迎えるかもしれません。また、今後ロバ肉サンドが食べられる場が増えたり、再び中国を旅することができるようになったとき、どちらのスタイルも楽しめるよう、ぜひ覚えておきましょう!

マレーシア産ドリアン「ムサンキング」を使ったスイーツは必食!

今ではロバ肉サンドが注目される同店ですが、開店直後は、店主さんが惚れ込んだマレーシア産ドリアン「猫山王(ムサンキング)」を使ったスイーツや、冰粉(ビンフェン:石花籽(假酸浆籽)を水の中で揉んで作るゼリー)、芋圓(さつまいもだんご)など、中華スイーツの専門店でした。

しかしオープンからほどなく、コロナの影響でテイクアウトとデリバリーに業態転換。お客さまからのリクエストに応えるうちに、食事メニューが少しずつ増えていった経緯があります。

『御猫榴』の鮮果冰粉(フルーツビンフェン)。スイカ、メロン、マンゴー、ドラゴンフルーツ、グレープフルーツ、芋圓入り。詳しくは80C(ハオチー)Twitterでも。photo by Tsutomu Kosugi
黒板メニュー。ロバ肉蒸し餃子の次に書かれているのは、ドリアンのムサンキングの餡を包んだ冰皮月餅(冷たい月餅)。

そのため、店名にも掲げるドリアン商品は今も健在。ショーケースに並ぶエッグタルトは、ベーシックなカスタード味とドリアン味の2種類が並びます。

オープン当初から作り続けているエッグタルト(写真左)は今も定番メニューのひとつ。

ムサンキングの特徴は、鮮やかな黄色の果肉と、滑らかでクリーミーな質感。実際にプレーンなカスタード味のエッグタルトと食べ比べてみると、独特の香りがあり、甘みも濃厚で、タルトになってもしっかり際立っているのが印象的です。

この重層的な味わいはムサンキングだからこそなし得るのだ、と店主さんはキッパリ。他の品種では出せない味わいなのだそうです。こちらもぜひトライしてみてくださいね。

猫山王榴莲蛋挞(ムサンキングドリアンエッグタルト)
猫山王榴莲蛋挞(ムサンキングドリアンエッグタルト)を割ったところ。鮮やかな黄色と果肉感!

なお、今後も食事メニューをもっと増やしていく予定とのこと。ロバ肉料理登場で多くの人たちが歓喜に沸いたように、これからの展開からも目が離せません!

御猫榴(ロイヤルキャットドリアン)
東京都葛飾区新小岩2-8-1(MAP
TEL 080-6709-6868
営業時間 11:00-20:00
火曜日定休


text & photo :アイチー(愛吃)
中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。中華料理にまつわるコーディネート、アドバイス、監修などを行う。一つの「食」を愛し、味も知識も徹底的に極めた「偏愛フーディスト」がプロデュースする期間限定レストラン『偏愛食堂』中華料理担当として、多彩な中華地方菜の楽しさを伝えている。★アイチー執筆・出演記事はこちら