(2020.3.4追記:2020年より開催が毎週水曜日から火曜日に変更となりました。)
有名中国料理店の35歳以下の若手料理人が、一日限定で料理長を務める「わかば食堂」。主催するのは、80Cのサイトオーナーである中華・高橋で、会場は江東区三好にある、中華・高橋営業センター向かいのキッチンスタジオ、C’s kitchen(シーズキッチン)。
その3Fに、毎週水曜のみ、中華ランチレストランがオープンしていることをご存じでしょうか?
実はこの「わかば食堂」、2014年2月のオープン以来、1日限定50食が毎回ほぼ完売。若手といっても、登場するのは名だたる店で経験を積んだ料理人。彼らがこの日のために材料を手配し、原価を計算し、気合いを入れて作る料理が1000円で提供されるとあって人気は上々。
2016年新春第1回目(1月13日(水))に80回を迎えるこのレストランを、80回にちなんで取材してきました。
>歴代の「わかば食堂」料理長と料理を一挙紹介! |
●有名店・人気店の若手料理人が登場
80Cが取材した11月25日は、2015年最終回の「わかば食堂」。この日の1日料理長は、ウェスティンホテル東京「広東料理 龍天門」(以下「龍天門」と略)の斎藤翔太さん。専門学校を卒業後、新卒で「龍天門」に入って3年目のわかばシェフが登場です。
「わかば食堂は前から出たいと思っていて、半年くらい前からあれこれ考え初めていたんです」と話す斎藤シェフは、お父様も中国料理人という料理人ファミリーの一員。
「店の賄いで作った料理や、これまで勉強した知識をベースに、先輩方のアドバイスをもらいつつ考えました」というお品書きはこちらです。
メインAランチ:梅菜臘味炒飯(中国漬物と腸詰めの炒飯)Bランチ:冬菜蒸鶏球(鶏肉と中国漬物の蒸し物)A・B共通(前菜・スープ・デザート)前菜 :辣白菜(白菜の辛み漬け)醤露白(干し大根の醤油漬け)スープ :蕃茄牛肉羹(トマトと牛肉のとろみスープ)デザート:茘枝茶啫哩(ライチ茶ゼリー) |
●知名度のない料理は、どうおすすめする?
さすがは「龍天門」の若手、広東料理らしいラインナップのこの日のメニュー。とはいえ、「わかば食堂」に来店されるお客さまは清澄白河界隈の方が中心で、いつも中華を食べつけているわけではありません。そんな中、このメニューを見て、どうやって食べたい料理を判断するのでしょうか。
その要は、食券販売時のトーク。売る側はどうしたらお客さまにその料理を理解してもらえるか、味や調理について朝礼でヒアリング。例えばこの日の場合、
食券担当「蒸しものの味付けは?」
シェフ 「チキンブイヨンとオイスターソースです。鶏肉はにんにく油、落花生油、ごま油を絡ませています」
食券担当「使っている副食材は?」
シェフ 「きくらげとネギです」
食券担当「腸詰の下ごしらえは?」
シェフ 「千切り生姜を乗せて丸のまま蒸した後、カットしています」
食券担当「梅菜は?」
シェフ 「塩抜きをして、ごま油と砂糖で炒めます」
…というように、質問を重ねて味のイメージをつかみ、お客さまにおすすめできるよう脳内準備。さらにおおよその調理時間についても確認し、お客さまをお待たせしないよう、オペレーションにも配慮します。
●緊張のオープン前・怒涛のオープン後
そんな「わかば食堂」のオープン時間は11時30分。朝礼からお客様が入るまでの時間が、わかばシェフが最も緊張する時間です。
予行演習で鍋を振って味を確認したり、仕込み内容を確認したり、オープンするまで落ち着かないのはみんな一緒。それがオーダーが入るやいなや、あれこれ悩む暇はなし。ひたすらおいしい料理を作ることに集中!!
この日サポートに入ったのは「龍天門」同期入社の高森さん。2人でしっかり味見中。
オープンと同時にお客さまが続々入店。それを見守る斎藤シェフ。
鍋を返しては炒飯が次々と作られていきます。
●常連さんはよく見ている!厳しくも温かい声
お客さまにとっては、わかばシェフの姿を見ながら、料理を待つのも「わかば食堂」の楽しみのひとつ。この日カウンター席に座られた山田さん夫妻は、2014年夏頃に初来店。ご主人が退職されてから、ご近所ということもあり、時々ご夫婦でわかば食堂に来られているそうです。
「これまで見てきた中では、5年以上経験のある方は安心かな。以前35歳のシェフがいらしたんだけど、うす味で味付けがよかったねえ。特に炒飯は、最初の一口で『うまい』と思っても、そういうのは最後まで食べるのが案外難しいでしょう。塩気のコントロールがよかったね」と、話してくれたのはご主人。
「今日のこのスープは素直な味。スープはこのメニューの中で一番出来がいい思うよ」と、広東料理を手掛ける斎藤シェフに、嬉しいコメントもいただきました。
蕃茄牛肉羹(トマトと牛肉のとろみスープ)
辣白菜(白菜の辛み漬け)と醤露白(干し大根の醤油漬け)
●食べログレビュアーも来店!
また、この日お母様とご来店された冥王星さん(ハンドルネーム)は、食べログに「わかば食堂」の感想をアップされているリピーターさん。気になるランチがあれば電車に乗って食べに行くそうで、わかば食堂もお気に入りのひとつだそう。
「昨年の夏ごろ初めて来てみたら、想像していたよりよかったんです。若手とはいえ、シェフがこの日のために作る料理ですし、手抜きが一切ない」というのが、冥王星さんが感じる「わかば食堂」の魅力。
今まで召し上がった料理の中で思い出深いものは、「柏市『文菜華』さん。一度行ってみたかった店というのもあり、ランチをA・Bの2種類とも頼んでしまいました。特に印象に残っているのは、『青豆板醤』という調味料を使ったタコの和えもの。
他にもいろいろありますが、ここに来ればいろんな中華と出会え、普通のお店では食べられないようなものが出てくるのがいいです。今日の料理も、鶏の味付けがよかったですね」と語ってくれました。
冬菜蒸鶏球(鶏肉と中国漬物の蒸し物)
●中華を食べる機会が増えた!飲食店経験者の温かなまなざし
そして「ここに来るようになって、中華に行く機会が増えました」と話してくれたのは、月に2、3回は来店しているという超・常連の岩崎さん。
味の感想を伺うと、「今日の斎藤シェフは、味見しながら鍋を降っているので、失敗しにくいですよね。私が食べたのはBの鶏肉ですが、ビーフンまでよく味が染みていてよかったです。欲を言えば、緑や赤などの色味があるとさらにいいかな。料理は見た目と香りの印象が大切ですものね」とさすがのコメント。
それもそのはず、岩崎さんは飲食店の経営経験がある方。「新しい人たちがやることを支援したいという気持ちがあるんです。調理が終わった後にシェフがテーブルを回ってくれるので、気になる料理があればコツを聞いたり、使っている調味料を教えてもらえる、シェフとの距離の近さもいいですよね。食後のアンケートもついしっかり書いてしまいます」と、厳しくも愛のあるまなざしで「わかば食堂」を楽しまれているようでした。
●オーナーシェフのように、自分ですべて切り盛りできる醍醐味がここに
こうしたお客様に囲まれて、思う存分腕を振るうことができるわかばシェフ。ひと段落したところで、シェフはお客さまのテーブルを回り、お料理の感想をうかがったり、質問に答えたりとコミュニケーションを取るのも大事な仕事です。
食後のアンケート
この日は2回転で完売御礼。13時半を過ぎたころ、最後のお客さまがお見送りしたらほっとひと息、スタッフの賄いタイムに入ります。
斎藤シェフは、一からすべて自分で調理した料理を出すのは初めてということで、「仕込み中はオープン時間までに間に合うのかドキドキでした。でも、本番は落ち着いて、滞りなくお出しすることができてほっとしました」と、胸を撫で下ろした様子。
「調理中に味見しすぎて、全然おなかが空きません(笑)。今はともかく水が飲みたい!」と言いつつ、「またやってみたいです」と笑顔を見せてくれました。
2016年も、さまざまな店から若手料理人による、気合いの入った料理が期待される「わかば食堂」。作る方も食べる方も、今までにない中華が体験できるランチレストランとして、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょう。
「わかば食堂」の流れ11:15 食券販売開始(中華・高橋営業センター駐車場にて)
OPEN:毎週火曜日 11:30~14:00L.O.(2020年より、毎週水曜日から火曜日に変更) |
TEXT & PHOTO 佐藤貴子