加熱してなお増す存在感!ミントを鍋料理で味わう愉悦

最もミントを大量消費する食べ方。それは、鍋やスープの具にすることである。煮えばなのミントの清々しい香りは、最高のひと言。具としての存在感は圧倒的で、ミントの真の力を味わえる。そして、この食べ方なら、西双版納の市場で見たような大きな束も余裕で瞬殺できるのだ。各地の例を見ていこう。

トップバッターは、雲南省玉渓市江川県の名物料理・三道菜のひとつ、清湯羊肉(山羊のスープ)。山羊肉と白葱をじっくり煮込んだシンプルかつワイルドなスープを、山盛りのミントを入れた皿に一気に注ぎ入れる。スープの熱でミントに火が通ると同時に、山羊肉スープのクセがミントの香りと溶け合い、野趣あふれつつも爽やかなスープが完成する。

清湯羊肉(山羊のスープ)

広がる香り。染み渡る旨味。しみじみする滋味だ。ここでもミントの働きは素晴らしく、清々しい香りとほろ苦さが、「モリモリ肉を食べよう!」という気を湧き起こしてくれる。

同じく雲南料理の肥腸銅鍋魚(豚ダイチョウと魚の煮込み鍋)は、たっぷり入ったミントの緑と唐辛子粉の赤の対比が美しく、食欲をそそる。

肥腸銅鍋魚(豚ダイチョウと魚の煮込み鍋)

コクのある激辛スープに、つるりとした身質の川魚とむっちょりした豚ダイチョウ。どっしりした味わいだが、そこをミントが鮮やかに彩る。その他、じゃがいも、芹菜、茎レタス、湯葉など、スープを吸って旨くなる具がたっぷり入った豪華鍋だ。

更に雲南からもう一品。薄荷牛肉湯(ミントと牛肉のスープ)は、牛すね肉のぶつ切りを煮込んだあっさりスープでミントをさっと煮て、肉とミントを蘸水につけて食べる。途中で他の野菜、キノコ、米線(ライスヌードル)なども加えていくので、スープというよりは鍋だ。

薄荷牛肉湯(ミントと牛肉のスープ)。写真が見つからないので、僕の料理でご勘弁。

最後は、我が最愛の貴州料理に締めてもらおう。花江狗肉火鍋(貴州式犬肉鍋)である。「第一回に続いて、また犬肉鍋かよ? たった三回の連載で二回も犬肉鍋を採り上げるなんて頭おかしいんじゃないか」と思った方もいるかもしれない。しかし、これには理由がある。

驚くことなかれ、貴州省におけるミントの呼び名は、狗肉香。犬肉鍋に欠かせない存在として、特別な名前まで付いているのだ。これでは、この料理を採り上げないわけにはいかないではないか。

花江狗肉火鍋(貴州式犬肉鍋)

花江狗肉火鍋は、僕が知る限り、中国で最も上品な犬肉料理だ。その魅力は過去の連載で熱く語っているのでそちらをご覧頂くことにして、ここではミントに話を絞る。

様々な香辛料が香る旨味豊かなスープに大量のミントを放り入れ、さっと煮て食べる。ミントの香りがスープの香りと溶け合い、ふくらむ。ミントの清涼感が大量の犬肉で火照った身体を優しくいなし、更なる食欲を呼ぶ。

ミントと犬肉を交互に食べていれば、いつまでも食べ続けられるんじゃないか。そんな気がしてくる。実際、中医学ではミントは涼性、犬肉は熱性とされているので、そういう相互補完効果があるのだと思う。

大量のミント。犬肉鍋のベストバディ!
わしゃっと入れて、モリモリ食べる!

店によっては、犬肉鍋に添える蘸水にもミントが使われる。煳辣椒面(焦がし唐辛子粉)、花椒粉、小葱、生姜、大蒜、腐乳などを合わせたペーストに、刻んだミントを混ぜ込むのだ。

花江狗肉火鍋の蘸水

これを犬肉にちょいとつけて口に放り込むと、蘸水の辛味と香ばしさとコクが犬肉の旨味と溶け合い、最後にミントの香りがふわりと広がる。その絶妙感。狗肉香という呼び名が如何に的を射たものか、誰もが納得するに違いない。

中国に行く前はハーブティーかスイーツの添え物にするくらいしかないと思っていたミントが、まさか犬肉鍋に一番合う存在として扱われているなんて、想像もしていなかった。

なんと世界は広いことか。北京の雲南料理店で涼拌薄荷を食べたときに感じた思いは、貴州の花江狗肉火鍋に出会って、より深く、大きくなったのであった。

ということで、「ところ変われば食べ方も変わる。知っている食材の意外な姿!」をテーマにお送りした短期集中連載は、今回で最終回となります。最後までお付き合い下さった読者の皆さまと、今回も好き勝手書かせてくれた80C編集部には、深く御礼申し上げます。

尚、昨年10月に発売した初レシピ本『あたらしい家中華』(マガジンハウス社)には、この記事に登場した料理のうち、以下のレシピが掲載されています。よろしければご覧ください。

  • 韮菜炒薄荷(ニラとミントの炒めもの)
  • 檸檬鶏(レモン鶏)
  • 薄荷牛肉湯(ミントと牛肉のスープ)

それでは、またこちらでお目にかかれる機会があることを祈って、再見!

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TEXT&PHOTO 酒徒