近年、都内を中心に、新しい中華スイーツ(中式甜品)の店が増えている。中華スイーツというと、月餅、麻花、お汁粉や、香港やマカオの定番スイーツであるエッグタルト(蛋撻:ダンター)などを思い出す方が多いかもしれない。
しかし、いまどきの中華スイーツ店に並ぶお菓子は、伝統菓子だけには留まらない。多くの店が冷蔵ショーケースを持っていて、中に“中華風の洋菓子”をずらりと並べているのだ。
どんなものかというと、マンゴーやドリアン、タロイモなどを主役に、生クリームとスポンジケーキを容器の中に重ねた盒子蛋糕(ボックスケーキ)や、虎皮蛋糕巻(生地に虎の皮のような焼き色をつけたロールケーキ)、肉松小貝(肉でんぶケーキ)など。全体的に見た目が華やかで、“映え”要素があるものも少なくない。
そんな中、日本人が「ん?」と二度見してしまう菓子がある。肉でんぶをまとった、肉松小貝(ロウソンシャオベイ:ròusōngxiǎobèi)がそれだ。
肉でんぶとスポンジケーキをマヨネーズ入りクリームがつなぐ
肉松小貝に使われる肉松(ロウソン)とは肉でんぶのことで、小貝(シャオベイ)とは小さく丸い貝のような菓子のかたちを形容したものだ。
生地の甘さと、肉や卵など動物性たんぱく質のしょっぱさが絶妙な中華スイーツとしては、咸蛋(シェンダン:アヒルの卵の黄身の塩漬け)を入れた月餅や、横浜『翠香園』の中秋節の看板商品でもある金華ハム入り月餅などをイメージするとわかりやすいだろう。いずれも伝統菓子であり、そのおいしさを理解する人も多い。
しかし、中華洋菓子となると、その趣(おもむき)はガラリと変わる。ふわふわのスポンジ生地にマヨネーズを加えたミルキーなクリームが塗られ、甘いじょっぱい肉でんぶに海苔がかかったスイーツと聞いたら、あなたはどう感じるだろうか。
そんな肉松小貝が、日本に住む若い中国人の間でずいぶんと知名度があるのだ。
肉松小貝は中華洋菓子界の大ヒット商品
都内で販売しているいくつかの店での聞き込みによると、肉松小貝は2017年くらいに中国で流行り始めたようだ。
中国の『投中网』などの記事によれば、2000年代前半に北京に開業したスイーツ店『鲍师傅(鮑師傅)』から誕生したという。店は新メニューである肉松小貝のヒットによって、いくつもの模倣店ができるほど有名に。そこから肉松小貝は、ひとつの菓子として一気に広まっていった。
“経典”と呼ばれる味の基本形は、弾力性のあるスポンジケーキに、小貝醤や蛋黄沙拉醤などと呼ばれるマヨネーズベースのクリームを塗り、肉でんぶをまぶし、海苔とごまをトッピングしたもの。さらにやわらかな餅を挟んだものや、タロイモのクリームを挟むものなどもあり、でんぶの味付けも含めるとアレンジは無限だ。
そして今、都内に増えている中華スイーツの新店舗に、ほぼもれなく肉松小貝が並んでいるのが興味深い。
山手線の北側をざっと見ても、池袋界隈は『NANATEA and Tsutsumi ファクトリー店』『發財暴富』『食甜』、大塚『柴犬ママ点心局』、駒込『李百万』、日暮里『吉時』など1店舗に留まらない。こうなると、肉松小貝がどんな味なのか気になってくる。