各地に漬物文化が根付くアジア。そのなかでも、台湾を代表する漬物といえば菜脯(中国語:ツァイプ|càipú、台湾語:ツァイポー|chhài-pó͘)です。

菜脯とは、大根を塩漬けにして干したもの。台湾では、これをたまご焼きに入れた菜脯蛋(中国語:ツァイプダン|càipúdàn、台湾語:ツァイポーヌン|chhài-pó͘-nn̄g)が身近な家庭料理として親しまれています。

菜脯は、菜脯蛋のほかにも菜脯雞(鶏肉のスープ)菜脯鹹粥(菜脯入りのお粥)、ごはんや麺のおともにぴったりの辣菜脯(唐辛子やにんにくを入れた菜脯の炒めもの)など、いろいろな食べ方で楽しまれている万能食材。今回は、そんな菜脯の食べ方と作り方を中心に、菜脯の世界をご紹介します。

日本の中華食材店で購入した台湾産の菜脯。

そもそも、塩漬けした野菜を干して保存食にするのは、客家に伝わる食文化のひとつ。中国南部の沿岸部や台湾には客家の食文化が入り込んでおり、ツァイプもまた、中国の福建省や広東省潮仙あたりから台湾に渡ったもの。この名称も、福建省の方言や台湾語由来となっています。

福建省福州市出身で、国立で料理教室を主宰している小紅さんによると、「子供の頃、福州では菜脯は自家製が一般的でした。細かく刻んだ菜脯を少量の油で炒め、お粥と一緒に食べた思い出があります。福州の方言では、菜脯仔(ツァイウォーヤン)と呼んでいます」と話してくれました。

なお、福建省、広東省、台湾あたりでは菜脯と呼ぶのが一般的ですが、中国の他の地域では蘿蔔乾(ルゥオボーガン|luóbogàn|萝卜干)と呼ぶことが多く、台湾でもこの表記を見ることがあります。菜脯と合わせて覚えておくと、現地で買うときに安心ですね。

2018年に台湾土産でいただいた、台湾の市場で購入した菜脯。冷蔵庫保管して、たまに使っています。

また、菜脯は日本の切り干し大根とも沢庵とも異なり、塩漬けしてから水分を出して干し、上手につくれば長期保存できるのが大きな特徴です。

詩人で文学者の焦桐が、台湾の飲食文化について紹介した『味の台湾(味道福爾摩莎)』によると、菜脯の干し具合について、客家人は水分を少なめ、閩南人(主に台湾と福建省に住む漢民族)は水分を多めにするとあります。

実はこの水分こそが、菜脯づくりの大きな決め手。素材となる大根に水分が含まれていると、発酵が長く続き、最初は白に近い黄土色の菜脯が、何年かすると真っ黒になるからです。

この黒い菜脯は喉によく、整腸作用があると言われ、と呼ばれて重宝されているもの。30年物というのも珍しくなく、なかには70年物ととんでもなく古い菜脯もあるそうです。

客家出身の台湾人が作った老菜脯。何十年ものかわかりませんが、一般的に30年物でこのくらいの色と質感に。黒光りしていました。
台湾出身の朝井真理さんによる日本産菜脯。濃いほうが8年、薄いのは5年物。日本でもうまく発酵させれば、ここまでいけます!

台湾料理の定番! 塩漬け干し大根入りたまご焼き「菜脯蛋」とは?

そんな菜脯の料理のなかでも、たまごと一緒に焼いた菜脯蛋(ツァイプダン)は台湾でよく食べられている家庭料理です。菜脯、葱、たまごを混ぜて焼くだけの単純な料理ですが、菜脯の絶妙な塩加減や食感によって、非常に味わい深くなります。

台湾料理教室で作った菜脯蛋(2021年撮影)

元々はお肉代わりに菜脯を入れたのがはじまりのようですが、確かに菜脯入りたまごやきはなかなかのボリューム。そして、ごはんやお粥が進みます。

また、一般的には丸く平たい形をしている菜脯蛋ですが、最近のレストランでは、厚みのある菜脯烘蛋(蘿蔔乾烘蛋とも)を提供しているところもあります。見た目はスペインオムレツのようですね。

次のページでは、そんな菜脯蛋を都内で美味しく食べることができるお店を紹介します。

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