もくじ
1 日本有数のふかひれ生産地・気仙沼
2 菅原市長が語る「鮫と気仙沼」
3 鮫の水揚げ深夜二時
4 船頭はすごいよ – 延縄漁の男たち
5 大漁そして入札!
6 「鮫のひれ」が「ふかひれ」になるまで
7 真っ黒な鮫のひれが、真っ白に!?
8 干した時間もおいしさの一部!奥深い乾物の世界
9 シェフの手間を肩代わり!戻し済ふかひれ
10 ふかひれだけじゃない!鮫肉も中華に!
11 スープも具もまるごと鮫!驚きの鮫ラーメン誕生
入札を終え、自らの取り分が決まったら、ふかひれ屋がいち早くやらなければならない仕事があります。それは「ひれ切り」です。
今回、この「ひれ切り」から「ふかひれ加工」までの取材させていただいたのは、気仙沼でふかひれ製造を手がけている中華高橋水産さん。
同社は入札の権利を持つすり身屋さんと提携し、ひれを中華高橋水産、鮫肉をすり身屋さんでシェアしており、その買付高は気仙沼で水揚げされる鮫の約36%!(※2011年のデータ)
そのため、鮫の水揚げがある日には、社員が早朝から市場に出勤し、ふかひれの素材である「ひれ」を切り取るところから1日が始まります。

しかし、これだけたくさんの鮫のひれを、いったいどのくらいの時間で切り終えることができるのでしょうか。
生産管理部の米倉研二さんに尋ねてみると、「どんなにがんばっても、朝から夕方まで切り続けて50山がいいところですね」とのこと。
ちなみに上の写真の吉切鮫は「小」サイズでひと山なんと600キロ!通常は1日10山くらいが平均的な量だそうです。
そしてここで使われるのが、通称「ひれ切り包丁」と呼ばれる、刃渡り30cm程度の包丁1本。皆これで100kg以上ある鮫の分厚いひれから、小型の吉切鮫の薄いひれまでスパッ、スパッと切っていくというのですから驚くじゃありませんか。

見ていると簡単そうに見えますが、素人がやるとそうはいかない…というのは物事の常。「刃の入れ方や切るスピードなど、タイミングやコツをつかめるようになってきたのは、ひれ切りを始めて半年くらいしてからです」というのは、高校卒業後、この仕事について丸2年になる佐藤俊貴さん。
ひれ切りのポイントをうかがうと、「ひれに肉が多めに付いていたり、切った後の形が悪いと、工場でひれを加工する皆さんに手間や負担がかかり、ふかひれの仕上がりにも影響するので、切るスピードも大事ながら、キレイな形に切るよう気をつける」のが大切なんだそう。
実は私も数年前に体験させていただいたことがあるのですが、文字通り「刃が立たなかった」という記憶があります。ひれ切り包丁の刃は意外に薄いので、勇気を出して、それなりのスピードで刃を入れないと、ひれをスパッと切り落とせないのも難しいところなんですよね。
こうして1匹の鮫からふかひれの原料として切り取れるひれは、尾びれ1枚、背びれ1枚、胸びれ(手びれとも言います)2枚の計4枚。
ふかひれ姿煮としていただく場合、尾びれは厚みがあり、背びれは三日月型、胸びれは繊維が長くて柔らかで…とそれぞれに特長がありますが、ひれ切りの現場を見ると、実は元々のひれの形に関係があることがわかるのも面白いところ。
例えば、こちらは吉切鮫の胸びれです。
これがふかひれに加工されると…、
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![]() 乾燥させた「スムキ」。 |
![]() 調理前の姿。 |
丸い手のひらのような形になるんです。また、コラーゲンが豊富な部位ゆえ、ふっくらと柔らかな繊維に仕上がるんですね。
そして、ネズミザメとも呼ばれ、鮭を追いかけて食べることからサーモンシャークの異名をとる、毛鹿鮫の尾びれはこちら。
厚みがあり、他の部位に比べて重さもあるこの尾びれを、ふかひれとして加工していくと…、
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![]() 乾燥させた「スムキ」。 |
![]() 調理前の姿。 |
…と、なります。
(※生のひれ、スムキ、戻し済のふかひれの縮尺比率は写真とは異なります。ここではそれぞれの形を比較するためにわかりやすい大きさで掲載していますのでご留意ください)
このように、鮫それぞれに自然界で生きていた形や大きさ、またひれの部位によってもその機能が異なるため、ひと口に「鮫のひれ」といっても、「ふかひれ」に加工した時の仕上がりは多種多様。それが、天然素材・ふかひれ加工の面白いところであり、難しいところでもあります。
また、同社では気仙沼港で水揚げされる鮫は吉切鮫、毛鹿鮫、青鮫の3種類が中心になるため、異なる種類の鮫のひれを買い付けたり、ホテルやレストランに安定的に供給するために、スペインやインドネシアなど海外からも原料を調達・管理しているそう。ですが、「やっぱり気仙沼で水揚げされた鮫がいい」と、前出の米倉さんはいいます。
「鮫を獲った後、船の中に貯蔵され、水揚げされるまでの保存・管理の方法は、国や船によって異なります。その点、僕たちは村田水産さん率いる勝漁丸の管理には信頼をおいていますし、水揚げされて間もなく加工に入ることができるので、歩留まりがいいんですよね。
特に、5月~7月は気仙沼港で鮫が多く水揚げされることから、地元での買い付けが中心。気仙沼の会社として、常に地元の鮫を買い支えていきたいという想いもあります」。
こうして、港でカットされたひれは、魚種&部位別にカゴに収められた後、工場へと運ばれ、ふかひれへと一歩一歩変身していきます。その緻密な作業たるや…! 次回は、プロの料理人に支持される高品質なふかひれを作るためのノウハウに迫ります。
構成・文 佐藤貴子(ことばデザイン)
撮影 菅野勝男(LiVE ONE)