もくじ
1 日本有数のふかひれ生産地・気仙沼
2 菅原市長が語る「鮫と気仙沼」
3 鮫の水揚げ深夜二時
4 船頭はすごいよ – 延縄漁の男たち
5 大漁そして入札!
6 「鮫のひれ」が「ふかひれ」になるまで
7 真っ黒な鮫のひれが、真っ白に!?
8 干した時間もおいしさの一部!奥深い乾物の世界
9 シェフの手間を肩代わり!戻し済ふかひれ
10 ふかひれだけじゃない!鮫肉も中華に!
11 スープも具もまるごと鮫!驚きの鮫ラーメン誕生
振り返ってみれば、鮫の水揚げ ルポから始まった「ふかひれへの道」。その後、ひれを切り、皮を取り、軟骨や中骨を抜き、形は保ちつつ、金糸だけの状態に整えたところで、やっとふかひれの形らしきものが見えてきましたよね。
しかし、ここまでは下処理をしただけで、まだ「生原料」。この状態で煮込んでも、あのプリプリとした食感や、ソースやスープを含んだ、馥郁たるふかひれ料理の味わいは生まれません。なぜなら、鮫のひれは干されて初めて「ふかひれ」という中華食材になるからです。 そしてご存知の通り、中華の高級料理といえば今も昔も乾物を使ったもの。広大な国土を有する中国では、山で海の幸、海で山の幸が食べられるよう乾物が重宝され、それらを使った料理が発達してきた経緯が、その背景にはあります。 また、乾物は輸送の利便性や保存性が高いだけでなく、生にはない旨みや食感が魅力。戻した乾物に、鶏や豚など動物系のスープの旨みを煮含ませて生まれる豊潤な味わいは、中国料理の技と歴史の結晶です。 そんなわけで、これからご紹介する「乾燥」こそ、ふかひれ作りの中でも最も時間がかかり、かつ重要な、中国食材づくりの過程なのです。 |
ふかひれへの道(復習)
皮・中骨取り(vol.7)乾燥(いまココです) |
天日×時間×風×手間=乾物
ふかひれの乾燥日数はひれの大きさ、厚さによって異なりますが、市場でニーズの高い1枚100gのふかひれ姿煮の場合、天日干しに要する日数は約90日。
もちろん、ただ放置しておけばいいというものではありません。季節や気候、鮫の種類、そして日々変化するひれの状態を見て、仕上がりをコントロールしていくのがふかひれ屋の仕事。主に11月~4月末まで集中して行われる天日干しや、室内での冷風乾燥を使い分けつつ、理想的な状態へと導いていくのがミッションです。
面白いのは、干すまでは鮮度、すなわちスピードが大切ですが、干してからは逆に時間が最大の調味料になるということ。もちろん、鮮度を保ったまま加工する技も、いいふかひれを作るために乾燥させる時間も、手抜きや短縮はできません。
「原ビレ」はこだわりの証
そして、スムキよりさらに干し方にこだわって作られるふかひれもあります。それは、血抜きした後、皮や骨を取り除かずに乾物にする「原ビレ(げんびれ)」というもの。
これらはスムキより値が張りますが、その理由は完全に天日干しでしか作れず、生産できる季節が限られるため。特に製造に適した季節は冬で、乾燥した冷たい空気が、固く締まったいい乾物を作ります。
また、皮付きのまま乾燥させると、より旨みが凝縮され、金色の金糸が作られるというメリットも。そのため、ふかひれ料理にこだわりのあるレストランは、実はこの原ビレを買い付けているんです。
スムキは重さで計測しますが、原ビレはまず大きさで計測した後、重さ別に分類されます。
年季の入った原ビレ専用定規。鮫の種類別に何本も用意されています。
また、原ビレは干し方にもバリエーションがあります。ぶら下げて干す「吊るし干し」は、穴は開くものの、ひれがピンと伸びた形になり、早く乾燥させられる方法。
吊るし干し。季節になると、ここにふかひれが吊るされます。
気仙沼港近郊で見た吊るし干しの現場です。
そして網の上に並べて干す「平干し(ひらぼし)」は、ひれにしっかり天日を当てられる一方で、日の当たる面に丸まりやすくなるため、裏返しながら干す方法です。
平干しの網。季節になると、ここにふかひれが並べられます。
原ビレに網目がついているのが平干しをした証拠。
ふかひれ姿煮となるのは、画像にマウスを乗せたときに青く変わる部分です。
結果的に、姿煮になる部分はスムキとほぼ同じですが、
製造プロセスと、レストランが下処理時にかける手間には大きな違いが。
切り分けた断面の骨に、キレイなダイヤ柄が出ていたらカット成功!
慣れないと、このダイヤが出てきません。
原ビレ製造担当の戸羽さん曰く、吊るし干しと平干しは、気候や原料の状態を見て使い分けしているそう。
このようにして、お陽さまと年月、冷たい風と手間とをかけてできあがったこだわりの原ビレは、出荷前に形を整えられて梱包され、日本全国のレストランへと旅立っていきます。
次回はいよいよ、ふかひれ製造最後の過程をご紹介します!
>NEXT TRAVEL シェフの手間を肩代わり!戻し済ふかひれ
構成・文 佐藤貴子(ことばデザイン)
撮影 菅野勝男(LiVE ONE)、80C編集部