夏場にあまり食欲がないときに、ちゃっと麺をゆでてたれを絡めるだけ。手軽でおいしい中国の和え麺の代表格が麻醤麺(麻酱面)だ。生鮮品は胡瓜とニンニクがあれば上等。家にある調味料で作れて、一度ハマると家の定番となること請け合いだ。
麺の風味を引き立てる潔いタレが決め手。
麻醤麺は中華圏の和え麺、すなわち拌麺(バンミィェン)のひとつ。麻醤麺の麻は芝麻(ジーマー:ごま)の麻(マー)で、芝麻醤(練りごま)をベースに、醤油、黒酢、ごま油などを加えて和えだれを作る。
ナッツ好きならハマるであろう焙煎ごまの香ばしさと、黒酢とニンニクの隠し切れない隠し味。これらが一体となり、ストレート麺にしっかり混ぜれば暑い夏でも食欲加速効果絶大。ところどころ胡瓜を麺で絡め取って、もう食べ始めたら止まらない!

中華麺というと、日本にもごまだれの冷やし中華があるが、その存在はむしろそうめんに近い。麻醤麺はあれやこれやと具を盛り込まず、濃厚なタレにきゅうり、もしくは薬味のみ。麺の風味を引き立てることに徹したタレの潔さがポイントで、むしろ具は蛇足と思えるくらいだ。
そして、麻醤麺もそうめんも家庭料理で、手抜きするならとことん手抜きできるところも似ている。市販のつゆを利用してもいいし、材料をひとつひとつ吟味して作ったっていい。どちらもシンプルだから、繰り返し飽きずに食べることができる。要は簡単でおいしい。
そこで、手抜きバージョンは紹介するまでもないので、ここではオールド北京スタイルに倣い、芝麻醤と花生醤(無糖のピーナッツペースト)を2:8の割合にした「二八醤」のちょっとこだわったレシピを紹介する。中国の家庭料理としては芝麻醤だけで作るのが一般的なので、もちろんそれでも没問題だ。
麻醤麺(マージャンめん)のレシピ麺 1玉(120g)※ストレート中華麺。冷麦、細うどんなど。縮れていないもの たれの材料 具と薬味 お好みで |
ちょっとこだわった麻醤麺(マージャンめん)の作り方
①材料を切る。
胡瓜は細切り、ニンニクは包丁の腹で叩き潰してからみじん切り、小ねぎは小口切りにする。



②和えだれを作る。
たれの材料をすべて混ぜ合わせる。芝麻醤と花生醤の割合を2:8にすると二八醤。もちろん芝麻醤だけでもいい。

もし、初めて作るのであれば、材料を一気に混ぜてから味をみるのではなく、芝麻醤と花生醤を小さなボウルに入れて混ぜ合わせたのち、芝麻醤と花生醤の混合ペーストに、醤油、黒酢、砂糖、塩を順次なじませるように混ぜ合わせてみよう。
その理由は、ひとつの調味料を混ぜ合わせるたびに軽く味見をすると、テクスチャーと味わい(主に塩気や酸味)の変化が体感でき、途中で好みの味わいに調整しやすくなるからだ。例えば、黒酢を入れると色合いがぐっと濃くなり、味が引き締まる。

その後、砂糖を入れるとザラザラのテクスチャーになり、硬くなる。

そこで、合わせだれをゆるめ、砂糖を溶かしてくれるのが小さじ1杯の水。ここで水ではなく、麺をゆでるために沸かした湯を使うと、砂糖も溶けて一石二鳥。

最後に胡麻油を加えれば、文字通り潤滑油として、麺にするりと絡みやすくなるだけでなく、香りよく仕上がる。仕上げにみじん切りにしたニンニクを加えたらタレの完成だ。

ちなみに上のプロセスは、日本料理で調味料を入れる順番のセオリーとなっている「さしすせそ」とは異なる。しかしここでは麻醤麺のたれに欠かせない要素(芝麻醤・醤油・酢)から入れていく方が味を確認しやすいと思い、このような順番にした。少ない材料で味が決まった方が、より手軽だからだ。
③麺をゆでる。
熱湯で麺をゆで、ゆで上がったらザルにとって水にくぐらせ、軽く麺を冷ます。

④麺とたれを和える。
水切りした麺にきゅうりをのせ、たれと小ねぎをかけてできあがり。薬味は香菜にしてもいいし、好みで砕きピーナッツ、またはいりごまをのせてもよい。
さらにアクセントとして加えるなら、最後に辣油をたらーり。花椒油でもいい。
すると、辣油や花椒油がニンニクの薬味力をググッと引き出し、いわゆる日本のごまだれとは全く違った様相となる。

食べる前にはよくよく混ぜていただこう。最後に入れた胡麻油が香りづけ兼潤滑油となり、麺に気持ちよく絡んでいく。

芝麻醤と花生醤を混ぜるか混ぜないか問題。
ちなみに中国人がアップしているYouTubeやブログでレシピを検索すると、紹介されている麻醤麺のたれは、その名の通り芝麻醤(練りごま)のみで、花生醤は加えていないレシピがほとんどだ。
北京出身&在住の北京人にも尋ねてみると「家では芝麻醤に水、醤油を混ぜて作るわね。花生醤を入れた二八醤は店で食べる味かな」とのこと。
では、芝麻醤単独で作る場合と、花生醤も合わせた場合でどう違うのだろう。試作してみたところ、醤になる胡麻やピーナッツの焙煎の加減にもよるが、芝麻醤単独だと甘みが少なく感じられるようだ。
一方、花生醤を混ぜ合わせると、軽やかさが加わり、よりナッティーな風味になる。花生醤もいろんな種類があるが、この麺に使うなら粒なしで滑らかなタイプがおすすめ。そして、粒や皮のないタイプの方がクセやエグみがなく仕上がる。

つまるところ、麻醤麺づくりで肝心なのは、たれになる調味料のチョイスといえる。調味料を合わせるだけ=そのものの風味に大きく左右されるので、調味料の味わいと、掛け合わせたときのバランスが風味に直結するからだ。
ちなみに私は、芝麻醤や花生醤は滑らかで焙煎が強すぎないもの、醤油は軽めの味わいのもの、黒酢は山西老陳醋を使っている。
麻醤麺をはじめ和え麺は、簡単な上、気に入った調味料と要領を掴めば、自分好みにレシピをアップデートしやすく楽ちんである。夏はそうめん一択という方も、これから麻醤麺が家庭の定番になれば幸いだ。
TEXT & RECIPE & PHOTO サトタカ(佐藤貴子)