夏になるとスーパーに山積みされるゴーヤ。都心住まいの方でも、プランターで栽培でき、熱や虫に強いとあって、家で収獲しているという話も時々聞く。
今年、畑を持っている人からは「穫れすぎて困っているので最低5本単位でもらってくれないか」という話もあった。さすがは暑さに強い野菜である。
そこでゴーヤの最盛期におすすめしたい中国料理がある。ゴーヤと大豆とスペアリブのスープ(苦瓜黄豆排骨湯|苦瓜黄豆排骨汤)だ。
このスープは、特に蒸し暑い広東省で清熱解暑の目的、すなわち身体の熱を冷まして涼しく整える家庭料理として親しまれている。目の充血や吹き出物などにもいいといわれる。
一方で、日本人目線だと「ゴーヤをスープにしたら、苦いスープになっちゃうんじゃないの?」 と思う方もいるだろう。
しかしこれが不思議なもので、一口目こそ「ん、苦い!」となるが、二口、三口と飲むと、あまり苦みが気にならなくなってくる。それどころか、徐々に感じられてくるのは、スッキリとした爽やかさだ。
事実、ゴーヤのスープはさっぱりとして飲み疲れない。それでいて、肉と大豆で補われた栄養とうまみがある。中国では凉瓜(リャングゥァー)とも呼ばれるだけあって、涼を呼ぶのだ。
実は前回ご紹介したトウモロコシと蓮根とスペアリブのスープが思いのほか好評だったため、もうひとつ、蒸し暑いときにぴったりのスープをご紹介したいと思った。それではいってみよう。
ゴーヤと大豆とスペアリブのスープ(苦瓜排骨湯)のレシピ
[材料]※碗に4杯分
・ゴーヤ 1本
・大豆 50g(乾燥の場合。水煮大豆を使う場合は90g)
・豚スペアリブ 350g~400g
・水 1,200cc(1,000~1,500ccくらいで調整)
※分量は多少増減しても問題ありません。
ゴーヤの苦み抜きをする場合
・塩 小さじ1強
・砂糖 小さじ1/2
・生姜 3~4片(薄切り)
・大棗(ナツメ)2個(なければなくてもよい)
・塩、砂糖 適量
ポイント ・ゴーヤはイボが大きく色の薄い品種のほうが、苦みが少ない。 ・ゴーヤを塩もみしてから使うと、比較的苦みを減らせる。 ・すべての素材の栄養を出し切るつもりで、長めに煮込む。 |
作り方
[1]大豆(乾燥)を1時間ほど水につけておく(水煮大豆で代用可)。
ゴーヤとスペアリブのスープには、大豆を組み合わせるのが定番だ。これは心を落ち着け、ほてりを冷ます、夏向けの取り合わせである。そもそも大豆は中医学では胃を養生するはたらきがあるとされる。消化器が弱っては、気持ちも定まらない。夏こそ、元気の源は胃腸からだ。
それに加えて、豆から出汁がでる。例えば、韓国料理のもやしのスープでは豆もやしを用いるが、それは豆から出る出汁も狙っている。このスープの場合、乾燥大豆を使ってほのかに甘い出汁を抽出する。身近に材料がない場合や、時間を短縮する場合は、水煮大豆を使ってもいいだろう。
なお、水煮大豆を使った場合、スープを煮ている間に大豆の薄皮がむけて表面に浮いてくるので、食べる前に少々取り除いた方が食感よく仕上がる。
[2]ゴーヤを縦2分の1に切り、タネとワタを取り除き、食べやすい大きさに切る。
ゴーヤのタネとワタはスプーンなどを使って掻き出すようにすると取りやすい。写真は比較的苦みが少ない白ゴーヤ。スーパーの店頭にあったので買ってみた。
[3]ゴーヤに塩と砂糖をまぶして15分~20分おく。
ゴーヤの苦みを取る定番の方法である。時間が経つとゴーヤから水が出てくるので、ボウルに押しつけるようにして絞り、最後に水で洗い流す。
ただ、このときゴーヤに含まれるビタミンCも幾ばくか流れてしまう(ビタミンCは水溶性のため)。苦みが気にならない人はこのプロセスを省略してもいい。
ちなみに白や黄緑色のゴーヤは、濃い緑色のゴーヤよりも苦みが少なく、中国南方や台湾で食べられているゴーヤに近い。
参考までに、このスープがよく飲まれている広東省では杜阮凉瓜(dou6 yun2 leung4 gwa1)、現地の方言で雷公鑿(leui4 gung1 jok6)と呼ばれる品種を使うことが多い。これは黄緑色の丸っこいかたちをした、肉厚のゴーヤである。似たようなものがあったらスープにしてみよう。
[4]豚スペアリブを水で洗い、表面や骨の周りについた血を取り去る。
スペアリブは、ところどころ血の塊がついていることがある。そこで、水を張ったボウルに肉を入れ、赤く見える血の塊を洗って取り除いておく。
[5]水に生姜、葱、酒、豚スペアリブを入れて強火で煮沸し、アクと汚れを出す。
生姜+葱+酒は、肉などの臭みを抜く三種の神器である。これらを入れた水に豚肉を入れ、強火で煮沸すると、ぶわーっと沸き上がるアクとともに、肉の間に詰まった血が小さな塊になって出てくる。
2~3分加熱すると、アクがさかんに出るのが収まるので、肉を取り出し、水で汚れを洗い流す。これで肉の下ごしらえは完了だ。もし手近に薬味がなければ、湯でゆでるだけでもいい。
[6]鍋にスペアリブと大豆を入れ、水と生姜の薄切りを加え、蓋をして中火で約45分間煮る。
まず、出汁のでるスペアリブと大豆を先に煮る。食材を鍋に入れ、水を注ぎ、沸騰するまで強火にする。材料から味を抽出したい場合は「水から煮る」と覚えておこう。棗がある場合はこのタイミングで入れると、スープにほんのりとした甘みを加えられる。
沸騰したら、常時小さな泡が出る状態に火加減を調整する(中火が目安)。土鍋は保温力が高く、しっかりと食材の成分が抽出されるのでおすすめだ。45分ほど煮ると、スープがうっすらと白濁してくる。
[7]鍋にゴーヤを入れてさらに30分間煮る。
ゴーヤは軟らかいので、スペアリブと大豆をしっかり煮た後に入れる。そのスープを吸わせながら、ゴーヤから成分を抽出し、くたっと煮えたらできあがりだ。
煮上がったら、大きめの碗にたっぷりよそい、塩を加えて味を調えてからいただこう。ゴーヤは苦瓜(にがうり)というだけあって、苦みがウリ。ファーストインプレッションは「ん、苦っ?」と感じるかもしれない。
そこでさらに飲んでみよう。飲むほどに苦さは気にならなくなり、スッとした清涼感と爽やかさが感じられるようになる。おかずの合間にこのスープを飲めば、一服の清涼剤となり、口直しにもなっていく。
また、肉はこのくらい煮ると、ホロッと骨から外れるくらい軟らかくなっている。食べるときは豆板醤やコチュジャンなど、ちょっと辛みのある調味料をつけて食べるのがおすすめ。筆者宅では熟成させたコチュジャンが定番だ。
とろとろになったゴーヤや、大豆のぬるんとした食感も心地よく、ほのかな苦みで身体いいものを食べている実感もあるこの一杯。一口目よりも二口目、三口目よりも四口目のほうが、より身体に吸収されていく感じがこのスープの持ち味だ。
なお、広東省では、蒸し暑いときだけでなく、ニキビなど吹き出物がでたときにこのスープを飲むことがある。甘く冷たいものではなく、食事で身体にこもった熱を発散し、スッキリしようという民間の知恵だ。
このままでも十分だが、参考までに現地で定番のアレンジをご紹介すると、干し貝柱や干し牡蠣を入れて煮る方法がある。乾貨の風味が加わり、一段とうまみが増す。
さらに、咸菜(シェンツァイ)と呼ばれるカラシナ系の植物の漬物を入れることもある。漬物特有のうま味と塩味が加わり、これもまた味わい深い。中国では「潮州咸菜」として市販されているが、日本にあるもの代用するなら、辛くないタイプの搾菜(ザーサイ)でもいいだろう。
まずは試してみて、気に入っていただけたら、日々の味噌汁感覚で食事に取り入れていただければ幸いだ。
RECIPE・TEXT・PHOTO サトタカ(佐藤貴子)