肉と炒めればごはん泥棒! 酸っぱうまくてクセになる、中国式の発酵ささげ「酸豆角(スァンドウジャオ)」。一度この漬けもののおいしさと手軽さに目覚めた者は、夏にささげを探し、毎年漬けるようになる。酸豆角に魅せられた者の詳細は夏に仕込もう!酸っぱうまい発酵ささげ『酸豆角』5人のレシピでご紹介したとおりだ。

これが実に簡単なのだが、未知の発酵物に対し、やる前の心理的ハードルはそこそこ高いかと思う。そこでこの記事では、こちらのページでご紹介した5人の作り方を踏まえ、どうすれば失敗せずに酸豆角がつくれるのか、さまざまな観点から要点をまとめてみたい。

らっきょう瓶(2リットル)に漬けた酸豆角。photo by サトタカ

酸豆角の作り方|5人のポイントまとめ

まずは5人の作り方の要点をまとめてみよう。特に、これから漬ける人が気になるのは、漬け汁の塩分濃度、ささげをゆでるかゆでないか、漬ける日数の3点ではないだろうか。そこに注目してみていただきたい。

塩谷式
・ささげ=生のまま漬ける
・漬け汁=作りたての塩水(約5%)
・香辛料と香味野菜=にんにく、唐辛子、花椒
・酒=なし
・漬ける日数=約2週間(以降は冷蔵庫へ)
・コツ=詰めるときはささげを折らないよう丁寧に入れる

リンセイ式
・ささげ=生のまま漬ける
・漬け汁=老塩水(約5%)
・香辛料と香味野菜=青花椒(※既に壺に唐辛子などが入っている状態)
・酒=白酒
・漬ける日数=2日(以降、適宜食べ切る)
・コツ=酸味過多や漬け汁のとろみが気になったら、塩や湯冷ましを加えて調整する

田中式
・ささげ=生のまま漬ける
・漬け汁=作りたての塩水+老塩水(3%弱と想定)
・香辛料と香味野菜=八角、月桂樹、桂皮、花椒、生姜、鷹の爪、にんにく
・酒=白酒(二锅头(二鍋頭)※北京の酒)
・漬ける日数=約1週間(以降は冷蔵庫へ)
・コツ=どのプロセスにおいても雑菌が入らないよう徹底する

北村式
・ささげ=生のまま漬ける
・漬け汁=作りたての塩水(2.5%~3%)
・香辛料と香味野菜=花椒、鷹の爪
・酒=白酒
・漬ける日数=数日常温+冷蔵庫野菜室で1週間

愛吃(アイチー)式
・ささげ=生のまま漬ける(さっとゆでる場合もある)
・漬け汁=作りたての塩水(4%)
・香辛料と香味野菜=花椒、八角、月桂樹の葉、氷砂糖
・酒=白酒(汾酒 ※山西省の酒)
・漬ける日数=2週間〜1か月(1週間経った後、状況を見て冷蔵庫へ)
・コツ=食べたいときに漬け、容器は問わない

【塩分濃度】4%が目安。長期保存向けは高めでもOK

塩分濃度は海水よりやや濃いめの4%くらいが平均だ。もちろん、それより濃くても薄くても、酸豆角はできる。例えば愛吃さんは、過去に「漬け水の塩の割合を5〜7%でつくったら、かなりしょっぱい仕上がりで、塩抜きしてから料理に使った」経験があるという。

しかしそれも失敗ではない。実際、中華食材店などでパッキングして売られている酸豆角があるが、これらは塩分濃度が高く、腐敗リスクを防止していると考えられる。「1年分作り置くなど、はじめから長期保存分として作るときは塩分を増やしてもよいかと思います」(愛吃)。

逆に、早く発酵させてすぐに食べるなら、北村さんのように塩分濃度が低めの塩水にチャレンジして、すぐに食べ切ってもいい。ささげが手に入らない人は、少量をインゲンで試してみてもいいだろう。

中華食材店で売られていた酸豆角。材料はささげ、塩、乳酸。photo by サトタカ

【生か加熱か】ささげは生のまま漬けてよし。ゆでるなら消毒のつもりで

次に、ささげを生のまま漬けるか、サッとゆでてから漬けるかの選択だが、今回ご紹介した5人は皆、生のまま漬けていた。ちなみに四川省に住む筆者の友人も「生で漬けるイメージしかない」と言っていたが、これも地域や人によってやり方は異なる。

ただ、野菜に含まれる酵素は熱に弱いため、発酵させるためには生のままのほうが理に適っていると思われる。加熱する場合は、消毒の観点から、中まで火が入らないよう、サッとゆでる程度に留めるのがよさそうだ。

また、ささげの端を切り落とすか否かだが、田中さんは「1回目はささげの端を切り落とさずに漬けたのですが、歯ごたえはやはりヘタ付きの方があるのかも」と振り返る。ささげをカットしたり、ゆがいていれば、そこからより漬け汁が浸透しやすくなることも考えられる。

洗った後、ザルに入れて天日干しして乾かしてもいい。ちなみにこれで380gの量。2人家族なら2~3回で食べ切れる。photo by サトタカ

【発酵日数】一から漬けるなら1週間常温で、老塩水なら2日程度

漬ける日数は、何度もいろんな野菜を漬けている老塩水なら2日程度、一から新しい塩水に漬ける場合は、1週間がひとつの目安となりそうだ。ただし、気温と塩分濃度次第ではあるので、新しい塩水で作る場合も、マメに水面をチェックしておくと安心ではある。

また、浅めの発酵で食べるのが好きな人と、しっかり発酵の酸味を味わいたい人がいる。そこも好みのさじ加減を見つけたいところだ。

筆者の経験では、新しく塩水をつくり、あとから老塩水を加えるやり方だと、塩水だけで漬けるより早く発酵が進み、すぐにうまみが乗ってくるように思う。

日本では「糠漬け上手の糠をもらうと、早くおいしく漬かる」といわれるが、中国西南地方では「泡菜名人の漬け汁をもらってきた」という話も聞く。もらえる人は、成功者の菌をもらえば安心感が高まるかもしれない。

【産膜酵母】混ぜても取ってもOK。放置しすぎはNG

漬けて数日すると、水面に白い膜を作り出す産膜酵母が発生することがよくある。産膜酵母は好気性ゆえに、基本的には水面に繁殖する。

これは少しであれば混ぜても問題なく、気になる人は取り除けばよい。風味の上では酸味が増すとされるが、放置しすぎるとツンとした酢酸エチルの匂いが発生してしまうので注意したい。

また、ささげによっては、漬けているうちにドロンと溶けたようになってしまうものもある。そういうものを見つけたら、早めに取り除いておきたい。他のささげに影響を及ぼす可能性があるからだ。

なお、産膜酵母ではなく、水面に黒や緑のカビが生えていたら、残念ながら失敗となる。酸豆角づくりの大前提として、漬ける前にささげをしっかり洗い、水気を切り、瓶や壺、ジップロック®など、容器の中に雑菌や油が入らないようにして漬けることは忘れずに。

【白酒】腐敗を防ぎ、中国的な香りを加える

最後に白酒だが、発酵の過程での腐敗を防ぎ、風味の観点からも入れたほうが“それっぽい風味”になる。一方で、薔薇のような甘やかな芳香のある白酒を使うと、漬けたときにその香りが勝ってしまうのが気になる。

ちなみに筆者は、四川省の白酒『瀘州老窖』を使っている。同じブランドでも複数の価格ランクがあるが、料理に使うのは1,000円以下のものだ。今年は『二锅头(二鍋頭)』で漬けた田中さんも、1年目は『瀘州老窖』で漬けたという。

「食べ比べてみると、『瀘州老窖』で漬けた1年目の方が、酸味がまろやかで塩味も穏やかに感じました」

参考までに、北京の白酒『二锅头(二鍋頭)』はアルコール度数56度、愛吃さんが使っていた山西省の銘酒『汾酒』は53度だ。自身に縁のある土地の白酒を使うもよし、泡盛など、手近な高アルコール度数の酒を使うのもよし。大量に入れるものではないので、無駄のない買い方・使い方をしたい。

中央が『瀘州老窖』右が『二锅头(二鍋頭)』photo by サトタカ

【保存】冷蔵庫に入れて発酵を止めれば意外と長持ち

酸豆角は、常温発酵でいい感じの酸味と香りに落ち着いたら、冷蔵庫に入れてその状態をしばらくキープできる。しかし発酵食品の類は、どの程度まで冷蔵庫にしまっていていいものなのか。

その点、塩谷さんが興味深いコメントをくれた。

「昨年2020年、最後にいんげんを漬けたのが10月だったのですが、そこそこ発酵したところで、そのままびんごと冷蔵庫に入れておきました。それが11月3日です。そして再び開けて食べたのが、今年2021年の7月1日。8ヶ月くらい寝かせていたことになります」

2020年11月、いんげん冷蔵庫へ。photo by 塩谷卓也

「そんなに長く漬けておいたら、ふやけて触れただけで崩れてしまいそうですが、不思議なくらいいんげんのキュッキュッ感が健在。ただの塩漬けではなく、ちゃんと古漬けらしい風味になっていたので、おいしくいただくことができました」

2021年7月、8か月の月日を経ていんげん開栓。photo by 塩谷卓也

これは5%の塩水で漬けると、そんなことも可能とも読み取れる。なお、筆者が台湾の台北市で購入した真空パックの酸豆角は、購入から2年後に開封したが、強烈な古漬けの香りとともに、炒めて美味しく食べることができた。

塩分濃度の項目でも言及したが、長期保存を狙いたい場合は、濃度を高めに設定して、使うときに塩抜きしてから使うのもいいだろう。

【定番レシピ】酸豆角炒肉末(スァンドウジャオチャオロウモー)の作り方

酸豆角に塩味がついているので、肉と炒めるときは好みで醤油と酒と唐辛子を加える程度。難しいことはなにもない。photo by サトタカ

酸豆角ができあがったら、いの一番でおすすめしたい料理がこれ。みなさん口を揃えて「よく作る」といっていた、酸豆角炒肉末(スァンドウジャオチャオロウモー)だ。

味付けは基本的に酸豆角に含まれる塩気で決まるので、プラスアルファの調味料は醤油たらり、といった感じでほぼいらない。フライパンひとつででき、実に簡単な料理なので、ぜひ試していただきたい。

<材料 2~3人前>
酸豆角(小口切り)120g(ここでは4%弱の塩水で漬けたものを7本)
豚ひき肉 130g~150g(酸豆角よりやや多め。できれば粗びきがおすすめ)
にんにく 1片(叩き潰してからみじん切り)
赤唐辛子 1本(小口切り)※お好みで
油 大さじ1杯弱
醤油(または花椒醤油)小さじ1/2杯
料理酒(黄酒、紹興酒など)大さじ1/2杯

<作り方>
① フライパンに油、にんにく、唐辛子を入れ、弱火で香りが出るまで焦がさないように炒める。
② ①に豚ひき肉を入れ、強火にして炒める。肉の表面に火が通り、白っぽくなったら、醤油を加えてざっと煽り、酸豆角を入れてさらに炒める。
③ 酸豆角の香りが立ってきたら、酒を加え、強火のまま水分を飛ばすようにしっかりと炒める。

酸豆角炒肉末(スァンドウジャオチャオロウモー) photo by サトタカ

これさえできたら、ごはんにのせる、麺と和える、炒飯にするなど、料理の幅が広がる。大量に作って食べ残したとしても安心してほしい。常備菜としても優秀だ。仮に少ししょっぱいと感じたら、翌日はトウモロコシなどを加え、炒めてカサ増ししてもよい。きっと夏らしい味わいになること請け合いだ。

なんたって、自分だけでなく、取材にご協力いただいた食いしん坊のみなさんが満場一致で「ごはんに合う!」、酸豆角ができたら「酸豆角炒肉末を作る!」というほどだ。自分で漬けたら楽しさもひとしお。ささげでもいんげんでもいいので、作ってもりもり食べていだけたらこの上ない喜びだ。

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TEXT サトタカ(佐藤貴子)
PHOTO 愛吃、塩谷卓也、サトタカ(佐藤貴子)
取材協力 塩谷卓也、リンセイ、田中慈、北村浩司、愛吃(ページ順)