2017年8月、甘粛省蘭州市の老舗『馬子禄(マーズルー)牛肉面』の日本初上陸をきっかけに、注目が集まった蘭州牛肉麺(蘭州拉麺)。

以来、提供店舗が全国各地に急増し、身近な存在になりかけていましたが、この4年間で勢いはすっかり鎮静化。みなさん、もしかして「そういえば流行っていた時があったよねぇ」と記憶の奥にしまわれてはいませんか? 過去のブームや思い出の料理ではなく、今も美味い蘭州牛肉麺は健在です!

店名に込められた蘭州への郷土愛

今回ご紹介するのは、早稲田・大隈通りにある『隴垣金城(ろうえんきんじょう)蘭州清湯牛肉面』。2018年7月の記事蘭州を旅するように蘭州拉麺を楽しもう!in JAPANより2か月遅れの2018年9月10日にオープンした店です。

これまで数回ランチタイムに訪ねていますが、ピークタイムを過ぎても常に満席続きの盛況ぶり! 店内に飛び交う言葉は中国語が多めながら、店員さんは日本語もOK。メディアやSNSへの登場は少ないものの、今も多くの人が足を運んでいます。

『隴垣金城 蘭州清湯牛肉面』外観。

店名の『隴垣金城(ろうえんきんじょう』は、“甘粛省の都・蘭州”を表す中国語。

隴(lǒng|ロン)=甘粛省の略称
垣(yuán|ユェン)=都・城
金城(jīn chéng|ジンチォン)=蘭州の古称

生まれも育ちも蘭州で「蘭州牛肉麺が大好き」という店主が、本場の基準である一清(透き通ったスープ)・二白(軟らかく煮た大根)・三紅(辣油)・四緑(葉にんにくと香菜)・五黄(手延べ麺)にきちんと沿った故郷の味を日本で忠実に再現したい、との想いで開いたのだそうです。

麺の太さは4種類。一清 二白 三紅 四緑 五黄、王道のうまさ!

『隴垣金城 蘭州清湯牛肉面』の麺打ち現場。

蘭州牛肉麺は、目の前で打つ手打ち麺が基本。改めておさらいすると、現地で分類されている麺の太さは12種類!

▼円形麺(6種類)
毛細(直径0.5〜1mm) → 細 → 三細 → 二細 → 一細 → 二柱子(5〜7mm)

▼平麺(5種類)
韮葉(幅5mm程度、韮葉=ニラの葉)→ 薄寛 → 寛 → 大寛 → 皮帯寛(30〜40mm、皮帯=ベルト)

▼三角形麺(1種類)
蕎麦棱(蕎麦の実のような形)

このなかから『隴垣金城』で選べるのは、細・中細(「二細」程度の太さ)・韮(ニラの葉くらいの細めな平麺)・太(「寛」程度の平麺)の4種類。牛骨とスネ肉、20種類以上のスパイスで長時間煮込んだ清湯(スープ)に、やわらかく煮た大根、葉にんにくと香菜をのせたら一杯の完成です。

自家製の辣油は、注文時に入れる旨を伝えてください。すると、巨大な碗から柄の長い匙でひと掬いしてくれます。これぞまさしく現地蘭州スタイル! 蘭州の多くの店でも、麺を提供する台の前が辣油の定位置なのです。

『隴垣金城 蘭州清湯牛肉面』の辣油どんぶり。ここから柄杓ですくって入れてくれます。
参考までに、こちらは本場蘭州の写真。蘭州の中華老字号(老舗の意味)、「張国仁牛肉麺館」でも受け渡しカウンターが辣油の定位置です。

中細の麺を口にすると、滑らかな口当たりで、噛めばしっかりとしたコシが。クリアかつ豊潤な牛スープとともに手延べ麺をすすれば、うまみとともに辣油の香ばしさが口に広がり、後から辛さがじんわりとやってきます。

スープのスパイスと辣油のどちらも効いているのか、いつの間にか身体はぽかぽか。麺の量が既に十分ボリュームありますが、さらに煮卵・牛スネ肉スライス・香菜を追加するのもオススメです。

蘭州牛肉麺。うつわの中の煮卵と左右の小皿はトッピングです。
左は牛すね肉、右は香菜のトッピング。

卵トマト麺、打鹵麺、米線、酸辣粉…!日々通っても飽きない品揃え

近隣の住人や大学生にもありがたいのは、蘭州牛肉麺以外の主食も充実しているところ。「太陽の恵みトマト麺(西紅柿炒鶏蛋拌麺)」は、マイルドな酸味の濃厚トマトとふんわりたまごが、ツルッと&モチっとした「二細」くらいの太さの手延べ麺によく絡みます。後半、ちょこっと黒酢をたらすのも、味変にオススメ。

太陽の恵みトマト麺(西紅柿炒鶏蛋拌麺)。

ほかにも「牛バラ肉入り五目つけ麺(牛腩打鹵麺)」や、「特製こってりぷりもつ麺」、「西安風酸辣スープ水餃子」、麻辣または酸辣風味の「牛肉米線」、牛肉かモツが選べる「酸辣粉」など、頻繁に通っても飽きないメニューがうれしいですね。

左が主食、右が冷菜。ビールも飲めます。

なお、こちらは清真(ハラール)ではないので、肥腸麺(モツ麺)や、おつまみの鹵味(スパイス煮込み)に使う肉や内臓は豚を使用しています。ディナータイムの利用なら、鹵味などをつまんでから麺で〆るのもよさそうですね。

一杯の牛肉麺で、心は甘粛省の都・蘭州へ!

蘭州牛肉麺については2018年、マサラの本場蘭州での食べ比べレポートに続き、日本で蘭州牛肉麺を楽しめる店をご紹介しました。あれから3年、連日開店の知らせを目にしていたような勢いはすっかり収まり、残念ながら閉店してしまったところも少なくありません。

そのような変化のなか、以前ご紹介した店は、嬉しいことにすべて営業継続中。ザムザムの泉は立地と営業スタイルを大胆に転換、新たな道を歩み始め、『金味徳』は『牛羊酒場』という居酒屋へガラリと業態変更したものの、アラカルトメニューに蘭州牛肉麺は健在です。

肌寒くなり、空気も乾燥してくるこの季節。蘭州を旅するように蘭州牛肉麺を食べに出かけ、ポカポカ温まりましょう。

蘭州市のシンボル・中山橋。黄河に架けられた最初の固定式鉄橋で「黄河第一橋」とも称されます。

隴垣金城(ろうえんきんじょう)蘭州清湯牛肉面

東京都新宿区西早稲田1-9-10扶桑ハイツ早稲田1階(MAP
※都電荒川線早稲田駅 徒歩3分、地下鉄東西線早稲田駅 3b出口 徒歩10分
03-6233-8278
土曜定休
ランチ11:30-14:30 ディナー16:30-20:00(スープがなくなり次第終了)


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蘭州を旅するように蘭州拉麺を楽しもう!in JAPAN


text & photo :アイチー(愛吃)

中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。中華料理にまつわるコーディネート、アドバイス、監修などを行う。一つの「食」を愛し、味も知識も徹底的に極めた「偏愛フーディスト」がプロデュースする期間限定レストラン『偏愛食堂』中華料理担当として、多彩な中華地方菜の楽しさを伝える。