「今日はみんなが集まるぞ!」
そんなうきうきした気分で家族や友人が一堂に会するとき、中国では丸のままの食材を使った料理がよく登場する。鮮度抜群の魚の蒸しもの、丸揚げ、丸鶏を使った料理など、特に魚介や家禽のかたちがある料理は盛り上がる。
そもそも市場がある地域では、絞めた鶏を一羽買うのは珍しいことではない。地域によっては、好みや調理法に合わせて鶏の種類を選べるし、なんなら生きたままの鶏を小脇に抱えて持ち帰る方もいる。
また、郊外に店を構える農家レストラン(農家楽)では、地鶏を1羽絞めて食べるのが定番のごちそうだ。一羽をひとつの料理にすることもあれば、2~3種類の料理にしてもらうこともある。そこにはみんなで命をいただく喜びとありがたみ、円卓を囲む幸せがある。
日本では、骨付きの肉は食べにくく敬遠される声もあるが、実は食味の面ではメリットも多い。文字通り、肉と骨が繋がっているため、火を入れても肉が縮みにくく、硬くなりにくいのだ。また、煮込むと骨からも出汁がでて、一緒に煮る食材に鶏のうまみを多く抽出することができるし、揚げたときの瑞々しい肉の食感もたまらない。
言ってみれば、鶏のポテンシャルを引き出し、余すところなくいただき、食べる側のテンションもアゲてくれるのが丸鶏料理だ。そこで当記事では、「骨付き上等!」「丸鶏最高!」を合言葉に、東京で味わえる、ワザあり丸鶏料理をご紹介したい。
パリパリ&じゅわ~が同居する神業! 学芸大学『中華銘菜 慶(チン)』で食べる広東名菜・脆皮鶏(チョイペイガイ)
中国の南方に位置する広東省は「無鶏不成宴(鶏がなければ宴会が成り立たない)」といわれるほど鶏料理を重視し、愛する地域だ。
『中華銘菜 慶(チン)』は、そんな広東省にルーツを持つ梁慶彰さんの店。いつも地元のお客さんで賑わっているが、わざわざ食べに行きたくなるのが、この店の脆皮鶏(チョイペイガイ ※広東語読み。普通話でツイピージー|cuìpíjī)である。
脆皮鶏の“脆皮”とは、歯ごたえがありながらも、噛むとカリッ、サクッと軽快に弾ける皮の状態をいう。鶏皮をゆでたり煮たりした場合、ぶよっとした食感になり、焼き鳥の皮なら香ばしいのは表面のみであることが多いが、この鶏皮はパリパリの薄氷の如くガラス化しているのだ。
この食感を描くには、丸鶏に熱湯をかけて皮を張らせ、酢水に水飴を加えた“皮水”をかけ、しっかり乾かすという下準備が欠かせない。さらに調理時は鶏に低温の油を何度もかけ、じっくり、ゆっくりと熱を入れていく。そうすると、皮は破けずピカピカになり、肉にふっくらと火が通る。家庭でやるタイプの料理ではない。これぞ中国料理の技の結晶といえる丸鶏料理だ。
梁慶彰さんが選んでいるのは、ほどよい弾力で味わいが濃く、焼き縮みしにくいといわれる銘柄鶏・伊達鶏。ひと口ほおばると、パリパリの皮と、清らかな肉汁を湛えた肉の両方の食感が一挙に弾けて、鶏とはこんな美味いものなのか…!とただただ幸せな気持ちになれる。
テーブルの上に運ばれた半身を見て「2人で食べ切れるか?」なんて心配は無用。おいしいうちに瞬殺だ。