2023年は1月22日(日)が春節(中国の旧正月)。日本のお正月と同様に、中国にもその土地ならではの“郷土おせち”を楽しむ風習があります。その代表的なものが、中国南方で楽しまれている盆菜(ぼんさい:プーンチョイ:poon choi)です。

盆菜は元来、広東省の客家に伝わる冠婚葬祭の料理のひとつ。具に明確な決まりはありませんが、

①ふかひれ、なまこ、魚の浮袋などの高級乾貨
②豚足やモミジなどコラーゲンたっぷりのぷるぷる食材
③大根や芋など煮汁を吸っておいしくなる食材

という3タイプの食材群が重ねられているのが特徴のひとつ。食材はそれぞれ単独で煮炊きし、最後にすべてを重ね合わせ、ひとつの鍋に盛り付けており、昨今はザ・ペニンシュラ香港をはじめ、高級ホテルなどでも提供される“ハレの日の鍋料理”としても定着しています。

ちなみに80C(ハオチー)で盆菜を初めてご紹介したのは2020年のこと(横浜オールド中華探訪19)。当時は日本でほぼ見ることのない料理でしたが、あれから2年を経て、日本でも広東料理店を中心に、盆菜を提供する店が増えてきています。

正月に「ペニンシュラ東京」で見た盆菜の御案内。オリジナルの鍋付き。

なかでも今年売り出している盆菜で目を引いたのが、日本橋の『蟹王府(シェワンフ)』。高級乾貨に伊勢海老、さらに上海蟹までをてんこ盛りにしたゴージャス感と、88,000円(6~8名分)という末広がりな価格は中国の春節料理ならでは。

店に状況をうかがってみると、今年は在日中国人からの問い合わせが多く、配送分も含めて、既に100件の盆菜の予約が入っているというじゃありませんか(1月12日現在)。 それほど人気ならば…!と立ち上がり、同好の士6名で食べにいってきました。

盆菜の食材や食べ方について書いてあります。チラシは中国語と日本語の両面印刷。実際は中国人の富裕層が多く予約しているとのこと。

鮑参翅肚の四大海味に、伊勢海老と上海蟹がどどん。

盆菜といっても前出の通り具はさまざまですが、『蟹王府』の盆菜は、泣く子も黙る高級乾貨が勢ぞろい。なまこ(海参)、魚の浮袋(魚肚)、ふかひれ姿(魚翅)という中国で格の高い海の乾物に加えて、あわび、伊勢海老、上海蟹という、海水・淡水の生鮮も盛り込まれています。

こだわりのなまこは、黒く棘のしっかりした北海なまこを使用(写真上)。さらに、日本人にはなじみがないものの、中国人では珍重されてきた魚の浮袋も見逃せません。

浮袋はフウセイ(大黄魚)をはじめニベ科の魚やチョウザメなどが原料になることが多く、肉厚なものほど上質とされます。こちらはほどよい弾力があり、舌にまとわりつくような滑らかさ。

どちらもここ10年で価格が爆上がりした食材でもあり、中国料理の高級乾貨を経験してみたい方にはぜひ召し上がっていただきたいもの。ともかく、この上段だけでも圧倒的な御馳走感!!

1人1個食べられるサイズの海参(なまこ)。棘があるかないかで金額が大きく変わる食材です。
左手前下、伊勢海老の尾に隠れるように詰められているのが魚の浮袋。乾物は油で揚げるか水に浸して戻しますが、こちらはぷるんとした弾力が持ち味の水戻しです。
ふかひれは厚みのある尾びれが1枚。120~130gくらいでしょうか。とろとろに煮てあるのではなく、ある程度弾力を残してあり、ソースを絡めながらいただきます。
何気なく入っていますが、なかなかの高級食材です。

ぷるぷるが止まらない!コラーゲン食材は続くよどこまでも

乾物の茶色、甲殻類の赤色、ブロッコリーの緑色で構成されていた上段を食べ切ると、スープの中からちらほら顔を見せるのが茶色オールスターズ。ここで注目したいのが、ぷるぷる系の二大巨頭です。

上段がなくなった地味なビジュアルながら、グツグツと煮立つ盆菜の魅力は変わらず。

まずひとつがアヒルの足(鴨掌)。鶏のもみじは飲茶などで召し上がったことがある方も多いと思いますが、アヒルは鶏より一回り大きく、可食部分が多く食べごたえのあるサイズ。

そして同じくぷるぷる系食材の雄が豚足(豬蹄)です。豚足は中国語で豬手(zhūshǒu)ともいい、発音の似た就手(jiùshǒu)にかけて、望みやお金が手に入るよう願って食べる縁起もの。こちらもすでにこっくりと煮込まれて、思わず目尻の下がるおいしさ。

さらにうまみ爆弾のどんこ椎茸(花菇)、みんな大好きな肉団子(獅子頭)が重なっており、煮込んでさらに美味しくなる食材がみっしりと詰まっています。

左端が豚足、右端がアヒルの足、その左が肉団子。センターは上からふかひれ、浮袋、伊勢海老。

沁みてこそ輝く!根菜と湯葉は盆菜の隠れたスター

そして最下段となる鍋底には、大根、蓮根、腐竹(中国の乾燥湯葉)、里芋という地味メンが揃いました。上から落ちてくるうまみすべてを吸う役割がこの下段であり、縁の下の力持ち。地味で滋味という言葉がぴったりくるのがこれらの食材ですが、彼らがいるからこそ盆菜のバランスが保たれているともいえます。

この中で、『蟹王府』のこだわりは、中国南方の広西チワン族自治区からわざわざ取り寄せたという里芋。里芋が特産品となっている桂林市茘浦県では長寿が多いことでも知られており、それにあやかって食べるのも一興。カットされた塊を見るに、日本の里芋よりも一回り大きく、タロイモに近いきめ細かさと、ほくほくした食感が印象的でした。

左から、スープをしっかり吸った腐乳(湯葉)、しみしみの大根、ほくほくの里芋、中央にはどんこ椎茸。盆菜のスープは根菜を輝かせます。
円卓は、鍋が回ってくるのを待つ時間も楽しいもの。

真のお宝はスープ。夢広がる第二ラウンド!

こうした食材の豪華さもさることながら、もっとも“お宝感”を感じるのはスープです。金華ハム、豚足、親鶏ほか7種類の食材を煮込み、さらに鮑の煮汁を加えて炊いた盆菜専用のスープは、濃厚かつまろやか、それでいて塩辛くないというさじ加減。

コラーゲン質もたっぷりで、片栗粉を使わずについた自然なとろみはどこまでもシルキー。飲んでいると、どんな病気も治ってしまいそう…!

そして、このスープを最後にどう生かすか? センスが問われるところですが、今回は年上の先輩の提案で雑炊に決定。このスープのふくよかな味わいを生かすために卵は使わず、ごはんのさらりとした食感を残すために湯を足し、香りづけに陳皮をぱらり。

これがまた、盆菜の第二ラウンドにふさわしい、スープの生きるアレンジでした。 ふと隣を見ると、先輩は紹興酒を香りづけに足しています。なんと罪な…。

一緒に円卓を囲んだ、浙江省寧波にルーツのある友人曰く「春雨と白菜を足して煮込むのもおいしい」のだそう。ふかひれを用意しておいて、この煮汁で煮込んでもう1品贅沢な料理を仕込むか、豚足をとっておいて、牡蠣と一緒に煮込んでもう一品正月料理をつくるのもアリですね。

店のチラシには「ごはんやうどん」ともありましたが、ここはいろいろなアレンジが楽しめそうです。

雑炊の箸休めに、蚕豆と干し肉の炒めものを出していただきました。盆菜のスープは、豆料理や青菜の料理との相性もよいですね。

6名が最強!盆菜を家で楽しむなら配送が吉

ここまでざっと1人3回ずつおかわりをし、2回雑炊をおかわりして鍋は空っぽに。最初はこれでお腹いっぱいになるのかな…?と思いましたが、6~8名向けの盆菜とあって、〆まで楽しむと十分な量がありました。

ちなみに乾物の個数は明言されていないのですが、6名だと1人1個ずつ行きわたることも判明。争いのおこらない人数は6名といえそうです。

レストランで食べるとラグジュアリーな空間で、家で食べるとアレンジし放題。あなたならどちらを選ぶ?

年明けのSNS等を見るに、年末年始に体調を崩した人も多かった今年。春節で気持ちも新たに仕切り直すなら、こんな栄養満点の正月料理もよいのではないでしょうか。

ちなみのこの盆菜、そもそも鍋単体(空の状態)だけで4kgあるそうで、そこに具を詰めているので、電車で持ち運ぶのはかなり腕力がいります。店で食べても、お持ち帰りでも宅配でも盆菜の料金は一緒。さあ、どこでいただきましょうか。

蟹王府(シェワンフ)の春節料理「盆菜」

予約受付:2022年12月16日(金)~2023年1月19日(木)
提供機関:2022年12月18日(水)~2023年1月22日(日)
価格:88,000円(税込。レストラン・持ち帰りともに同価格。レストランは別途サービス料がかかります)
予約:受取希望日の3日前まで(キャンセル・変更は予約日の4日前まで。3日前以降はキャンセル料100%)>オンライン予約:tablecheck

住所:東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井二号館1階(MAP
TEL:03-6665-0958
営業時間:11:00-15:00、17:00-23:00
無休
★公式サイト


TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)