すすらず飲もう!台湾独自のかつおだし×とろみの世界

かつおだしの効いたとろみのあるスープに、小麦粉と塩でできた極細麺が入った麺線(めんせん|麵線|普通話miàn xiàn|台湾語mī-sòaⁿ)は、台湾の国民食のひとつです。

口当たりのよい、そして箸で持ち上げにくい麺は、レンゲですくって食べるのが定番。牡蠣やモツ、香菜などがとろとろのスープの上にのっていて、小腹を満たすにはぴったり。

見た目からは味を想像しにくい麺線ですが、一口食べるとかつおだしの風味が広がって、日本で育った人ならどこか慣れ親しんだ味に感じるはずです。

台北『藍家割包』の麺線。とろみをまとった麺をレンゲですくっていただきます。

台湾では、この麺線にさまざまな味変要素が用意されています。例えばすり下ろしたにんにく、ウスターソースにも似た味わいの烏酢(ウーツー:酢にスパイスなどを加えた調味酢)、辣醤(唐辛子ペースト)などが定番の調味料。これらを少しずつ加えて、自分好みの味にしていくのも楽しみのひとつです。

台北『晴懷麵線』店頭(写真提供『浅草豆花大王』)。牡蠣、大腸、全部入りなどトッピングが選べます。味変用の調味料は、台湾の場合、最初から入っている場合もあるので、苦手な調味料は先に伝えるとよいかも。
台中『黃氏肉羹麵線』店頭。こちらは肉団子を入れた麺線専門店。店主の正面にあるのが煮込まれた麺線が入った鍋です。

麺線のルーツは対岸の福建省泉州にあり

今では台湾名物となった麺線ですが、そのルーツは中国福建省東南部に位置する泉州市の麺線糊(面线糊とも)といわれています。

麺線糊はとろみのあるスープに、素麺のような極細麺が入った泉州のご当地麺。モツや海鮮が具に入り、食通の乾隆帝(清の第6代皇帝。1735~1796年に在位)が食べたという逸話もあるほど。

そんな麺線糊が台湾に渡り、かつおだしが加わることで今の麺線になったものと思われます。かつおだしが入るようになったのは、日本統治時代(1895~1945年)の間に、日本が台湾でも鰹節を製造していた背景も関係あるかもしれません。

お祝いや厄払いの白麺線、煮込んで食べる屋台の赤麺線

麺線に使われる麺には、白い麺(白麵線)と赤い麺(紅麵線)があり、それぞれ用途と食感が異なります

白い麺は見た目も食感も日本のそうめんに近いもの。とはいえ、日本のそうめんは鎌倉時代に中国から渡ってきたものなので、ほぼ似たようなものといえるでしょう。一方、赤い麺はよく乾燥させており、煮込んでものびないのが特徴。こちらはとろみのあるスープの中に入れて煮てあります。

この白と赤の違いについて、台湾出身の友人や福建省出身の友人に尋ねてみると「白い麺線は誕生日などのお祝いの時に食べるよ」「台湾では厄払いにも食べているよ」と教えてくれました。

例えば、台湾でお祝いや厄払いの際に食べるのは、猪脚麺線(豬腳麵線:豚足をのせた麺線)麻油鶏麺線(生姜と胡麻油と酒で煮込んだ鶏肉をのせた麺線)などで、白い麺を使います。麺はサッと茹でて、水洗いはせずに使うので、塩気があります。

豬腳麵線を作ってみました。麺は福州手拉線麺を使っています。
麻油鶏麺線。こちらも私の手づくり。麺は「福州手拉線麺」です。
阿Q麺館』の麻油鶏麺線。汁ありタイプです。

また、白い麺には太平麺、長寿麺とも呼ばれます。これは麺の束が切れておらず、1本の麺になっていることからついた異名。まさに生活に密着した、意味のある麺なのです。また、福建省の中でも福州市では线面(綫麺)と呼ばれており、地域によってちょっとした違いもあります。

福建省福州市で线面(綫麺)と呼ばれる白麺線。泉州の麺線と同様のものです。
「福州手拉線麺」。切っていない、長い麺が1束にまとめられています。

一方、赤い麺(紅麺線)は煮込んで食べるのが定番。その製法は独特で、3mほどある生麺を95℃で9時間蒸し、意図的にメイラード反応を起こしたあとに、短くカットしてから乾燥させます。その結果、麺が茶色に変質するとともに、非常に伸びにくい仕上がりに。

食べ方は、とろみのある大腸麵線(モツ麺線)蚵仔麵線 (牡蠣麺線)などに使われています。具は肉羹(豚肉と魚すり身の団子)、イカ、魚フライ、香腸(腸詰)など、バリエーションはさまざま。

『阿Q麺館』の大腸麺線。麺の長さは5~7cmほど。レンゲですくいやすい長さです。
台中『黃氏肉羹麵線』の肉羹麺線。豚肉と魚すり身の団子が入っています。

日本国内の麺線を看板メニューにしているお店では、主にこの赤い麺を使ったモツ麺線や牡蠣麺線を食べることができます。次のページで、都内のおすすめ麺線専門店3選をご紹介します。

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