常識を覆す!? 肉粒に調味料をふわりとまぶす『新橋亭』の練らない焼売

「自分が入社した頃から作り方は変わっていません」。角田料理長がそう話す『新橋亭』の焼売の作り方は、驚くほどにシンプルだ。

「餡のベースは粗挽きの黒豚です。黒豚は脂がおいしいですからね。使っているのは、肉汁のもととなるバラ肉に、うまみのしっかりした肩ロース。味つけは、おろし生姜、醤油、酒、胡椒、砂糖、長葱1本。脂も卵も片栗粉も使いません」

肉の量に対して香味野菜は少なく、オイスターソースなどうまみを左右する調味料は使わない。まさに豚肉のうまみと脂が勝負。だからこその黒豚である。

黒豚のバラ肉と肩ロースを独自の配合で粗挽きにしている。
肉の量に対して、意外に香味野菜は少ない。
料理長の角田守さん。1976年(昭和51年)生まれで、『新橋亭』生え抜きの職人だ。

肉を練らないのも特徴だ。多くの店の焼売は、豚肉の脂と赤身が一体となるよう、しっかりと肉を練り上げて餡をつくる。しかし『新橋亭』ではその真逆。ボウルの中の肉粒を殺さず、ふわりふわりと持ち上げて、調味料をやさしく絡める。

ふわり、ふわりと肉を持ち上げながら調味料を絡める。
肉餡のできあがり。脂と肉をあえて一体化させずに、肉も脂も粒が残る状態にする。

この膨らみは一体?焼売専用機でつくる皮の秘密

さらに焼売の皮も個性的だ。一般的に、焼売には極めて薄い皮が使われるが、この皮は中央がボコッと膨らんでいる。

中央に厚みがある『新橋亭』の焼売の皮。

これを見て、自分で焼売や餃子の皮を作ったことがある方ならピンとくるだろう。肉まんや餃子の皮を手延べする際、中心は厚めに、周囲は薄くのばすのが基本である。しかし、製麺所の機械でのばす皮で、こんなかたちはみたことがない。

聞けば「底の厚みは2mmくらいありますね」と角田料理長。「これは、ある程度時間が経っても肉汁がこぼれないようにする工夫なんです。真ん中だけ厚みを持たせるため、のばした生地に型を押し当て、1枚1枚抜いています」。生地は機械でのばすが、成形は手作業というわけだ。

ちなみにこの皮、つい数年前までは同じ新橋エリアにある『まみや製麺』への特注品だった。しかし主(あるじ)が高齢となり、コロナを機に引退を決意。委託先を探し、現在は埼玉県にある製麺所が一手に担う。

「この焼売の皮には、専用の機械があります。それらをすべて輸送して、同じようにつくれるようになるまで、間宮さんは埼玉まで通って教えてくれました」。

夏場は皮同士がくっつきやすくなるため、打ち粉を多くし、冬場は硬くなりやすいので軟らかめに整えるという。本当に、どこまでも特別な焼売だ。

焼売を握る工程で現れる「てるてる坊主」

握り方にも特徴がある。皮を手のひらの上に広げ、肉餡を餡べらで擦り付けるのは他の焼売と変わらないが、手のひらはボールを握るように湾曲させ、あふれんばかりに肉餡を入れる。なにせ総重量90gである。餡べらで取る餡の量がハンパなく多い。

焼売の肉餡を餡べらで取る角田料理長。一般的な焼売の肉の量ではない。
皮にたっぷりと肉餡をなすりつける。

次に、上にむいていた手のひらを内側に向けながら指をすぼめ、ひだをつくる。しかし、厚みのある皮だから、ただ寄せればいいというものではない。

「このとき自然に寄ったひだが、均等になるようにするのがポイントです。皮が厚いので、一か所にひだが固まると食べにくくなってしまいますから」。

親指と中指で上部をキュッとすぼめる。
肉があふれないよう、餡べらで肉餡を中に送るのも大切なプロセスだ。

さらに餡べらで餡を中に送り込みながら、親指と中指で焼売にくびれをつけていくと、冒頭で紹介した「てるてる坊主」が現れる。この「てるてる坊主」の頭が、2mmの厚みを持つ焼売の底となる。

てるてる坊主。
真ん丸である。

最後にあふれた餡を餡べらでそぎ落とし、てっぺんを平べったく整えたら完成だ。角型の蒸籠の上に、ゆるやかにひだの寄った大きな焼売が続々と並ぶと、なかなかの迫力がある。

餡べらで上を平らに整える。
昔ながらの角型蒸籠に焼売を並べていく。

一連のプロセスで一貫しているのは、ふわっと肉餡を詰めていることだ。肉粒を潰さないよう、餡べらを刺すようにして肉餡を中に送り込み、てっぺんを平らに整えるときも、決して押し込んではいない。こうすると、加熱したあと、皮の中に肉汁が流動するスペースが確保される。この店の、焼売の食感を保つ秘密のひとつがここにある。

肉をふわっと押し込みながら握る。
てっぺんを平らに整える際も、決して強く肉を押し込まない。
焼売が蒸籠に並ぶとわくわくする。
蒸籠を火にかけますよ。

こうして成形が終わったら、蒸して加熱すること16分30秒。蒸籠を開けて、そこに広がっていた景色とは…? これは大至急試食案件…!!!

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