80C読者の皆さん、好久不見了(お久しぶりです)! 愛吃(アイチー)です。前回ご紹介した冒烤鴨(マオカオヤー)の記事から少し時間が経ってしまいました。
その間、なにをしていたかというと、東京から引っ越しました。
転居先は“武蔵の小京都”、埼玉県比企郡小川町です。場所は池袋から東武東上線、または関越自動車道で1時間ほど。和紙のふるさとであり、有機農業の里としても注目を集めており、訪れたことがある人も少なくないかもしれません。
ここに暮らし始めて、いきいきとした野菜が手に入りやすくなったり、地元の大豆や水を活かした豆腐屋さんを見つけたり、家庭料理を楽しむ時間が増えつつも、やはり近隣にあるお店も気になるところ。探し歩くなかで、ひとつの店名が目に留まりました。『阿孫(アースン)』です。
「孫(スン)さんが営むお店だな!どこのご出身かなぁ。」と、ワクワクしながら訪ねてみることに!
築90年の古民家リノベレストラン『薪をくべる』が集いの場
『阿孫(アースン)』は、食べることが大好き!という、台湾高雄出身の孫竟哲(ソンジンジャ)さんと木村可奈さんのご夫婦が営む、ランチ&カフェ限定のポップアップレストランです。
場所は、築90年超の空き家をリノベーションしたシェアキッチン&シェアハウス『薪をくべる』。この店名には「訪れる人それぞれの新しい挑戦を燃料に、エネルギーが交わる場所となるように」との想いが込められているのだそう。孫さんと可菜さんは、ここで日替わりシェフとして、月2回ほど出店しています。
以前より、台湾各地を食べ歩きながら「いつか日本でお店を出したいね」と夢を抱いていたふたり。東京都内に暮らし、小川町まで有機野菜を買いに来るうちに「いいところだなぁ!」と思い、この町に移住したとのこと。
店を始めるきっかけとなったのは、町で開催された料理コンテスト。そこで『薪をくべる』の店長と出会った縁をきっかけに、2022年5月『阿孫』のオープンへ至りました。
満腹満福!「阿孫満福ランチセット」の内容は?
ランチのイチ推し、「阿孫満福ランチセット」は、孫さんの媽媽(お母さん)から教わった台湾高雄の家庭料理と、ふたりが台湾各地に足を運んで気に入った料理を中心に、可奈さんが留学と仕事を合わせて5年ほど暮らしていた上海の思い出の味が組み合わさった、充実の内容です。初めていただいたのは「阿孫満福ランチセット」。その内容がいいんです。
台湾式おこわ(油飯)
孫さんの媽媽から伝授された高雄の家庭の味。しいたけ・豚肉・八角・干しエビを、醤油・酒・みりんで味付けしています。
野菜たっぷり春巻(写真下)&大根餅(写真左上)
春巻は企業秘密のパリパリ皮で、鶏ガラスープで味付けした春雨・切干大根・小松菜を包んでいます。この一品は、可奈さんが上海在住時代に上海人の元カレの媽媽から教わったものだそう。黒酢をつけていただきます。
大根餅は、すりおろした大根にもち粉を合わせ、蒸してから焼いたもの。お好みで、台湾で入手した海鮮醤・下ろしにんにく・焼肉のタレをつけていただきます。こうした点心は孫さんの手作り。
ミニ焼き肉まん(写真左~中央)&季節野菜炒め(写真右)
ミニ焼き肉まんは、台湾では「水煎包」上海では「生煎包」として親しまれており、孫さん・可奈さんのふたりにとっても馴染み深い小吃のひとつ。豚肉とネギの風味をシンプルに引き出すために、生姜・醤油・みりん少々で味付けしています。こちらも孫さんの手作りです。
季節野菜炒めは、豆苗・切干大根・春雨を、こだわりのオイスターソースでシンプルに炒めた一品。小川町産の切り干し大根は、しっかり出汁がとれるので愛用しているそう。
いずれも調味はシンプルに、素材の持つ味わいをしっかり楽しめる料理です。すっきりとワンプレートにまとまっていますが、見た目以上にボリュームたっぷり。名前のとおり、満腹・満福になれるセットでした。
台湾おにぎり、蛋餅、魯肉飯、豆花…!味と人との出会いの場
これまで提供されたことのあるメニューを遡ってみると、蛋餅(ダンビン)や、魯肉飯(ルーローファン)、涼皮(リャンピー)、酸菜白肉鍋、海南鶏飯などの料理を中心に、豆花(ドウファ)、杏仁豆腐、エッグタルト、台湾カステラなどのスイーツも充実。通うのが楽しくなりそうなラインナップ。
例えば過日のメニューには「ラグメン(羊肉トマトめん)」が登場。可奈さんが上海で暮らしていたとき、お気に入りだった羊肉炒麺の懐かしい記憶を辿りながら再現した、阿孫オリジナルの一品です。
麺はコシが強めの国産うどんを使い、味付けはトマトのうまみたっぷり。スルスルっと平らげてしまいました。
さらに、台湾おにぎり(飯糰)を販売していることも。具は、朝に揚げた油条(ヨウティアオ|中国式の細長い揚げパン)・たくあん・高菜漬けで、黒米でぐるりと巻いてボリュームたっぷり。油条の隣に忍ばせた、甘じょっぱい油揚げの煮ものがいい隠し味になっています。
こうした料理を初めて目にするお客さんには、快活な可奈さんが丁寧に説明を添えてくれるので、新たな食との出会いを楽しむ様子が温かく、よい雰囲気につながり、とても心地よい空間に。
普段は会社勤めや子育てをしながら「阿孫」を運営している孫さんと可奈さんですが、今後はキッチンカーでイベント出店をしたり、可奈さんが上海で取得した茶藝師の資格を活かし、中国茶藝のワークショップやお茶の販売をするなど、今後の展開にも夢が広がります。
和紙や有機野菜のみならず、地酒やワイナリー、クラフトビールも揃い、“酒都”としても楽しめる小川町。長年にわたる地元の人気店以外にも、『阿孫』が出店する『薪をくべる』や、カレーの人気店が集まり、食も充実しています。
そんな流れからか、東京へアクセスの良い町として注目が高まるなど、移住者も増え、町に新たな潮流が生まれつつあるこの町。みんなも引っ越しておいでよ!と強引には言えませんが、週末ちょこっと、ぜひ気軽にお出かけください!
阿孫(アースン)
埼玉県比企郡小川町小川87-18 シェアキッチン&シェアハウス『薪をくべる』ポップアップ(MAP)
TEL 0493-81-7377
『薪をくべる』の営業時間 ※『阿孫』の出店日は月2回。以下のSNSで確認できます。
平日ランチ 11:00-16:00
土日早朝カフェ 7:00-10:00
土日祝ランチ 11:00-17:00
月曜定休
阿孫Instagram
薪をくべるInstagram(月間営業カレンダーはこちらで)|薪をくべるオフィシャルサイト
text & photo :アイチー(愛吃)
『中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。中華料理にまつわるコーディネート、アドバイス、監修などを行う。一つの「食」を愛し、味も知識も徹底的に極めた「偏愛フーディスト」がプロデュースする期間限定レストラン『偏愛食堂』中華料理担当として、多彩な中華地方菜の楽しさを伝えている。★アイチー執筆・出演記事はこちら