もくじ
1 日本有数のふかひれ生産地・気仙沼
2 菅原市長が語る「鮫と気仙沼」
3 鮫の水揚げ深夜二時
4 船頭はすごいよ – 延縄漁の男たち
5 大漁そして入札!
6 「鮫のひれ」が「ふかひれ」になるまで
7 真っ黒な鮫のひれが、真っ白に!?
8 干した時間もおいしさの一部!奥深い乾物の世界
9 シェフの手間を肩代わり!戻し済ふかひれ
10 ふかひれだけじゃない!鮫肉も中華に!
11 スープも具もまるごと鮫!驚きの鮫ラーメン誕生

いきなりですが、「魚の水揚げ」って何時くらいに行われているか、ご存知でしょうか。漁業関係者の方や、港町に住んでいる方はなんとなくわかると思いますが、一般的にはどうなんでしょう。ちょっと気になって周りの人に尋ねてみたところ、答えは「船が着いてすぐ」「5時ごろ」「よくわからない…」と、てんでバラバラでした。

「市場のセリや入札が6時くらいだから、明け方4時くらいからかなあ…。」実は、そんな風に思っていたんです。しかし、それは間違いでした。水揚げは真夜中から、始まっているんです!

夜の気仙沼港

さて、このたび私たちが取材させていただいたのは、鮫やマグロを釣ってくる延縄(はえなわ)船の「第七勝漁丸」。 遠方はハワイのミッドウェー沖、近くても小笠原諸島まで漁に出る延縄船は、船の大きさと航海日数にもよりますが、1回で何十トンもの水揚げがあるのは当たり前。そのため、釣ったすべての魚の水揚げを終え、朝6時の入札に間に合わせるためには、夜中から始めないと、とても仕事が終わらない…!

船の上俯瞰

…ということで、夜中2時過ぎの気仙沼港は、まさに水揚げの真っ最中。甲板にあるこの1㎡の取り出し口からは、吉切鮫やカジキ、シイラなどが次から次へと出てきます。何匹も束になった吉切鮫が引き上げられてくると「やあああ!」「う~っしょ」「そりゃ!」とまるでお祭りのよう!海の男の掛け声もひと際大きく、気合いも入ります。

視界上から俯瞰ぎみ

視界ヨコから激しめ引き出し

甲板番号
甲板には取り外して元の位置に戻せるように番号がふってあります。

釣った魚が入っているのは、延縄船の板の下にある貯蔵庫の中。鮮度を保つため、氷にサンドイッチされた状態で氷蔵されているそうですが、取り出し方を問うてみると「ヘルメットを被って中に入って、ホースで水を氷にかけて溶かしながら、魚を取り出すのっさ」と船長さん。

「中の温度はマイナス2℃~3℃。魚を凍らせないで鮮度が保てる氷温(ひょうおん)にするのっさ。冷凍もできるけど、生で鮮度のいいまま運んで来る方が買い値が高くつくからな。冬場はマイナス5℃~10℃くらい。でもたかが知れてる。冬場は中の方があったかいぞ」と船長さん。この台詞、陸の人間にはなかなか言えるもんじゃありませんね。

 

視界ヨコから安定 運び出し

今回の第七勝漁丸の航行は17日間で、合計33トンの収穫。魚種は吉切鮫、毛鹿鮫、メジロ鮫、メカジキ、シイラなど、魚体の大きいものが中心です。
メカジキのように値の付く魚は、他の魚の匂いがつかないよう、覆いに包まれていたり、重たい鮫の束になると、漁師さん3人がかりで取り出すなど、それぞれに工夫をしながら次々と甲板下の貯蔵庫から魚が取り出されていきます。

視界上から俯瞰ぎみ

視界ヨコから激しめ引き出し
陸へと運ばれていく吉切鮫。これが最もふかひれの原料に使われている鮫です。

水揚げは延縄船の仕事の中でも長時間にわたる激務ですが、漁師さんたちは手を休めることなく、威勢よく魚を運び出しています。

その中でもひときわ楽しそうに仕事をしていたのが、黄色いズボンのこの方。船頭さんに尋ねてみると、地元気仙沼の若手漁師さんだそう。

ノリオ

「あれは親父が漁師で、船が出るときよく見送りに来ていた翔汰(しょうた)だよ。ある時『船に乗りたい』っていうから『休まないんだったら乗せてやる』といったんだ。それから3年になる。船の上では、鮫を船に上げるとき、頭をやろう(刺そう)と出刃を引いたら、庖丁が左手に突き抜けたこともあったよ。でも、一日も休んでいない。すごく楽しそうに働いているだろ?」

出刃包丁が手に突き抜ける…。想像して思わず固まってしまいましたが、つらさを微塵も感じさせない、きびきびとした笑顔の働きぶりはさすが。
そこで次回は、この延縄船とその漁法、漁師のライフスタイルを船頭をクローズアップ。海で生きる男たちは、どんな風に働き、どんな風に暮らしているのか、この道半世紀以上の船頭さんに聞きました!

seven star

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構成・文 佐藤貴子(ことばデザイン)
撮影   菅野勝男(LiVE ONE)