横浜中華街に行ったら、どこで何を食べればいい?魂が震える本物の味はどこにある…?当連載は、横浜で美味を求める読者に向けた横浜中華指南。伝統に培われた横浜の味と文化をご紹介します。

横浜中華街といえば、大田区に住んでいた私の子供時代、年に数回ハレの日に家族で集い、円卓を囲む場所でした。

桜木町でタクシーから降り、中華街の楼門の前に立てば、そこに漂うのは異国の風情。当時は東京ディズニーランドもなく、中国は改革開放が始まったばかり。横浜中華街は、竹のベールに包まれたミステリアスな国・中国が垣間見える大テーマパークでもありました。

現在の横浜中華街の楼門。

そんな中華街が大きく姿を変えるのはバブル崩壊後。食べ歩きのための肉まん屋と、安さを売りにする食べ放題が目立つようになって久しくなりました。しかし、あちこちから「中華街で食べ放題に入ってがっかりした」という声を聞きます。実にもったいないことです。

一方で、中国料理店が密集する横浜で生まれ育ち、子供時代から舌の肥えた横浜華僑の料理人が作り上げる料理には、魂に訴えかけるような力強さがあります。

そこで、看板や宣伝に惑わされることなく、読者に横浜の中国料理の実力を再発見していただくのがこの企画。目指すところは、

1. おいしいものにたどり着く嗅覚を一緒に身につけていく
2. シェフのモチベーションを掻き立て、その店の実力を引き出す注文ができるようになる

という2点。ご覧いただき、近くて楽しい横浜中華探検に足を運んでいただけたら幸いです。

ライター:ぴーたん

ライフワークのアジア樹林文化の研究の一環として、台湾・中国・ベトナム・マレーシアを回って飲食文化も研究。10数年前の勤務先で、江西省井岡山に片道切符で送り込まれたことを機に、中国料理の魅力に目覚め、会社を辞めて北京に自費留学。帰国後もオーセンティックな中国料理を求めて、横浜をはじめ、アジア各国の華僑と美味しいものについて情報交換をしている。

横浜で夏に食べたい麺3選

いまどきの横浜の麺といえば「家系ラーメン」の印象が強いかもしれませんが、もともと横浜は広東スタイルの古風な中華そばがあった場所です。

子供の頃、野毛の伯母の家から行く日ノ出町の中華そば屋は、子供心に漢方薬臭く、洗練されておらず、ラーメンは東京が良いなぁと思っていました。そんな古い店も次々と姿を消し、今となってはしっかり味を覚えておけばよかったなと後悔しています。

そこで横浜中華街を訪ねてみれば、昔ながらの古風な中華そばとはまた違った、横浜華僑によって洗練された味わいの麺がたくさんあるじゃありませんか。そこで猛暑の今年、夏に食べたいおすすめの麺をご紹介しましょう。

清涼なスープが沁みわたる!海南飯店の汁なしねぎそば

海南飯店の汁なしねぎそば

まずご紹介するのは中華街大通りの海南飯店。かつてのタイル張りの外観や、日本茶が出てくる家庭的なサービスはなくなってしまいましたが、味のよさは昔と変わらず。「横浜まできてこんなカジュアルな店に入るの?」なんて言わないで、騙されたと思って行ってみていただきたい店です。

私は子供の頃、父に連れられてこの店に通っていたのですが、ある日「今日はもっと贅沢な店に行こう」と父が奮発、豪華な店に行くことに。

結果として、予算も注文スキルもないのとで、子供にもわかるがっかりな食事になり、次回からは何事もなかったかの如く海南飯店に戻りました。こちらの店に高級店や庶民店といったカテゴリ分けは不要。ただひとつ「旨い店」だと感じます。

汁があるのに汁なしネギそば。叉焼は明炉で焼かれた広東式

さて、この汁なしネギそばは同店の名物。スープも麺もごまかしの効かない組み合わせに、叉焼と白ネギがのった潔さが魅力です。汁なしと言っても、ネギそばに対して汁が少ないという意味合いで、写真の通りスープはあります。

また、横浜で叉焼(チャーシュー)とはラーメン屋によくある煮豚ではなく、紅麹の色がついた、明炉と呼ばれるウィスキー酒樽を縦にしたような窯で焼かれたもの。中華の叉焼はこうでなければ、テンションが上がりませんね。

なお、こちらの店は海鮮料理が特に素晴らしいのですが、内臓料理のレベルも実に高いのです。私の定番は、この汁なしネギそばにセンマイの冷製の組み合わせ。こりこり、ぷりぷり食感のセンマイは、外見に似合わず食感とうまみに溢れた大人の味。私が一時期住んでいた北京でも、酒飲みが最も好む食材のひとつでした。

汁なしネギそばを注文したら、ぜひもう一皿、なにかを頼んでみてください。瓶ビールと合わせれば、至福のひと時が約束されます。

海南飯店のセンマイの冷製

香港スタイルもハイブリッドもある、南粤美食の香港冷麺と香港翡翠雲呑冷麺

店名にある「粤(yuè/えつ)」とは、中国語で広東省を示す漢字。日本では通常使わない文字なので、普通の日本人には伝わりませんが、わかる人には逆に強いメッセージを放ちます。

「きっとオーナーは広東人で、日本人がこの字読めないのがわからないのだろう」。そう思い、この字につられて訪問したのは大正解。オーナーシェフの黄さんは超こだわりの人。商売としてどうかと思うような無茶をして娘さんに心配をかけていますが、全力でおいしいものを提供する姿勢が客に伝わり、人気店となりました。

南粤美食の香港冷麺。

ここのイチ推しが、香港麺に葱と叉焼を和えた香港冷麺。ごわっとした香港麺は軽く冷やしてあり、絶妙な塩加減とネギの香り、時折口に入る叉焼のうまみ、そして誰でも口にできるおだやかな辛味が胃袋を刺激し、箸が止まらなくなります。

香港麺は冷やし中華風の味付けにするとおいしくないのですが、少し甘めでしっかりとした醤油だれを絡めると、噛むうちに、その食感と麦の味が感じられます。身近な料理で似たものを思い出そうとしても、これはちょっと他では味わえません。

夏限定!日本の冷やし中華×香港ワンタンのハイブリッド麺

そして夏のうちに食べたいもう一皿が、香港翡翠雲呑冷麺。いや、これにはびっくりしました。2017年はワンタン麺用の細麺を使っており、冷やし中華的な甘酢タレを合わせると麺の香りが立たず「やっぱりトラディショナルなもののほうが旨いや」と思ったのですが、2018年バージョンは圧巻。

南粤美食の香港翡翠雲呑冷麺

ほうれん草の風味の麺は、日本のつけ麺の平麺を少々細く縮れさせたような印象で、しっかり水切りしてあるからか、最後までタレが薄まらないさじ加減が見事。

雲呑は水を通すと引き締まってぷりぷりの食感になり、餡は人肌の温かみが残っていて、乱切りの蝦が口の中で踊ります。これは冷やし中華の進化系と言えますね。

わざわざ電車で行って吉!横浜中華街に行こう

ご紹介した味は個人の好みであることと、常に新しい味を求め続ける方からはかなり遠いチョイスになりますが、料理の写真を見て、店の前に立ち、美味しい料理を出すぞという「気」のようなエネルギーを感じたら、きっと私の舌と相性が合います。

横浜以外の方が、時間と交通費をかけて横浜までいくのは正直なところ大変です。しかし、交通費をかけたとしても、中華街は値ごろな価格で、きちんと作られたおいしいものが食べられる場所だと感じます。

特に今回ご紹介したような、小規模で家族経営の店は、鍋を振るのがオーナーであり料理人でもあることが多いため、料理の質と味とが保たれ、古き良きおいしさに巡り合えること請け合い。彼らのDNAに刻まれたオーセンティックな味わいは、中華街とその周辺にまだまだ残っています。

次回は同じ麺でもガッツリスタミナ系、食べるほどに元気がでる麺料理をご紹介します。

文中でご紹介した店

海南飯店(かいなんはんてん)
住所:神奈川県横浜市中区山下町146(MAP
※中華街大通り
TEL:045-681-6515
営業時間:11:00~22:00L.O.

南粤美食(なんえつびしょく)
住所 神奈川県横浜市中区山下町165-2 INビル(MAP
※開港道 ローズホテル横浜の向かい
TEL 045-681-6228
営業時間 平日11:30〜15:00、17:00〜23:00(L.O.22:00)
土日祝:11:30〜23:00(L.O.22:00)
不定休

text ぴーたん
photo ぴーたん、shutterstock(中華街楼門)

次回予告>横浜オールド中華探訪2|ガッツリ行こう!夏に負けないスタミナ麺(8月22日更新予定)