横浜中華街に行ったら、どこで何を食べればいい? 魂が震える本物の味はどこにある? 当連載は、横浜で美味を求める読者に向けた横浜中華指南。伝統に培われた横浜の味と文化をご紹介します。
◆目指すゴールとコンセプトはコチラ(1回目の連載)でご覧ください。

 

伊勢佐木町で40年。広東省順徳にルーツを持つ、正宗広東料理店

横浜中華街の店と料理をご紹介することが多かった当連載ですが、中華街と呼ばれる山下町エリアの外にも、とびきりの名店が存在しています。

その中で、今回ご紹介する店は伊勢佐木町エリア。この界隈は「四川フェス2019」にも出店する人気の四川料理店「華美」をはじめ、現地系中華も充実。中華を食べに行くのに注目したい場所のひとつです。

なかでも「龍鳳」はこの地で30年超、伝統的な広東料理を出し続ける店。オーナーシェフ一族のルーツは、さかのぼること約120年。「食在広州 厨出鳳城(食は広州にあり 料理人は鳳城(順徳)から出ずる」と言われる、広東省仏山市順徳(鳳城)から来浜しています。

伊勢佐木町のランドマーク ヲデオン座(現在はドン・キホーテ)前 店外観

店を切り盛りするのは、その子孫である腕利きの料理人兄弟と、サービスを担当するお姉さんの家族3人。以前、とある雑誌で「町中華の名店」と書かれていたようですが、こちらは広東華僑が伝統の技法で日本の食材を自在に調理する、れっきとした広東料理店。春はタケノコ、冬場は自家製の腊肉(干し肉)、手作りの大根餅、伊府麺など、手間暇かけた料理が味わえます。

ちなみに、横浜が生んだ人気バンド「クレイジーケンバンド」が、長者町でのライブ前には腹ごしらえをする店としても有名。横浜中華街は休日に一段と混み合いますが、その喧噪を避け、味にうるさい老華僑やハマっ子たちが通うオアシスでもあります。

タケノコ山からざっくざく!狙うはGWくらいまで

所有する山で収穫された、新鮮なタケノコを焼いたシンプルな一品。ほかにも冬場に作られる腊肉(干し肉)や、大根餅、伊府麺など、店で手づくりの美味が味わえます。

さて、そんな「龍鳳」で、最も楽しみな季節がまさに今。同店は丹沢山麓の秦野の山に、タケノコの山を所有しており、シェフ自らタケノコを掘り出して料理にしているのです。

筆者も含め、熱心なお客さんは、タケノコのシーズンに3回は通い、味の変化を楽しむ人も少なくありません。行くのは例年、3月下旬から4月下旬、遅くてGWくらいまで。

広東料理の技で日本の新鮮なタケノコがどんな料理になるのか、とある日に、香港人の美食家の友人をもてなした時の宴会料理をご紹介しましょう。

とろとろ仕上げの白切鶏。

広東料理の前菜に欠かせないのが鶏料理。使っているのは蔵王鶏。ぎりぎり身に赤さが残るか残らないかといった加熱具合で、口にすれば、皮はちゅるり、肉は柔らかく前歯を受け止め、旨味がほとばしります。

ピータンとアボカドのゼリー寄せ

数年前から登場して以来、定番となった前菜。食べごろのアボカドを使っていることから、料理が美しく翡翠色を保つのはわずか3時間。作り置きはできないレストランならではのメニューです。

パリパリポーク(脆皮焼肉)

広東の宴会料理にはこれがないと!と思える一品。豚皮をサクサクに仕上げながらも、肉はロゼがかった色を残した脆皮焼肉。皮と肉の相反する食感を両立させ、皮がサクッ、肉汁ジュワッという最高の仕上がり。

ジューシーに仕上がったローストダック エリンギの黒酢炒め添え

明炉を用い、備長炭で焼き上げたこだわりのローストダックです。添えられたのは柑橘のソースと甜麺醤ベースのソース。フレンチや台湾客家料理を彷彿とさせる一品でした。

つぶ貝のサラダ 蕗寄せ

とびきり新鮮なつぶ貝を、彩りのよい野菜と和えた春らしい一品。つぶ貝のコリコリした食感とうまみとともに、口中を爽やかに整えるレモンや、粒のぶどうなどフルーツもあしらっているあたりにシェフのセンスを感じます。

食用の蕗(フキ)は香港では見かけないので、香港人の友人も興味津々。この一皿が今回の宴会料理で材料費最大ということでした。

ふきのとうの包み揚げ

早春の招牌菜、ふきのとうの包み揚げは、「龍鳳」を代表する看板メニュー。ほろ苦いふきのとうと、細切れにした鶏肉とを一緒に包み込んでパリッと揚げており、噛むと中に蓄えられたジュースがジュワッ。

筆者の友人には「これを食べないと春が来ない」というという人も。誰かが「もうお腹いっぱいで食べられない」と言い出せばたちまち奪い合いに。少し塩胡椒をかければ、酒飲みを虜にします。

春菊と自家製豚関節塩漬け肉の薬膳スープ

このタイミングでスープが登場。いざ、後半戦に切り替えです。口に含めば穏やかでやさしい味。具にはコラーゲンたっぷりの豚の塩漬け肘肉、爽やかな苦味を持つ春菊、ハトムギなど漢方薬の原料となる乾物などで調和がとれています。

塩気は最低限に留めており、飲むと胃袋が生き返るよう。当日はストレス起因の胃もたれで辛かったのですが、このスープをいただいてからは胃袋の動きが絶好調に。

タケノコとタケノコ入り海老しんじょ炊き合わせ

この宴会を開催したのは今年の3月上旬。やや時期が早かったため、タケノコは土から顔を出す前の小さなサイズでした。その繊細な味わいのタケノコ、薄味の海老しんじょを取り合わせ、絶妙な塩味で仕上げたのがこちらの一皿。

海老しんじょは、海老の刻み方にひと工夫あり、食感の違いを出していました。写真では日本料理のように見えるかもしれませんが、仕込みも味わいも紛れもない広東料理でした。

蒸し魚(清蒸鶏)※要予約

香港では石斑魚(ハタ)が宴会に定番の高級魚。この日は身が厚く、高く盛り上がった見事なキバタでした。日本産の大きな鮮魚に香港人の友人も大興奮。身を取り分けると、中落ちにうっすらと赤みが残った絶妙な蒸し加減にため息が出ます。

「龍鳳」では戻した干し椎茸を添えて提供するスタイル。蒸し魚のタレを、白いご飯にかけて食べると箸が止まりません。

タケノコ、春キャベツ、黄ニラの甘みと旨みに、窯焼きチャーシューのほのかな塩味、甘酢醤油がマッチして、満腹なのに飲み物のようにするすると入ってしまう〆の冷やし麺。余計なものが一つもなく、足りないものも一つもない一皿です。

食は広州に在り、料理人は鳳城に出ず。そして味は横浜に在り!

最初から最後まで隙のない広東料理を、日本の春の食材で表現するコース料理に、香港人の友人はもちろん、SNSでこれらの料理写真を見た彼らの友人も大盛り上がり。

シェフのルーツである順徳は、腕利き料理人を多く輩出している地域として有名であり、一昔前の香港のお金持ちが雇うお抱え料理人の多くも順徳出身。友人は「お金持ちの通う会員制プライベートキッチンに招待された気分だ」と大興奮して帰っていきました。

参考までに、下の写真は昨年4月後半にいただいた最盛期のタケノコ料理。そのパワフルな味わいに負けじと、豚バラ肉のコクたっぷりに煮た一品です。

最盛期のタケノコには、その味の迫力に負けない豚バラ肉と炊合せ。そして同じ山で取れた山椒の木の芽の爽やかな香りが豚肉の重さを吹き飛ばしてくれます。

香りを添えているのは、同じ山で取れた山椒の木の芽。爽やかな香りが豚肉の重さを忘れさせます。ちょうど4月後半のタケノコ盛りに宴会をするならば、おそらくこちらの一品が登場することでしょう。

参考までに、宴会を開催する際には、5名以上のおまかせコースは3日前までに要予約、税込6,000円からが目安。東京の高級店と比べたら破格ですよ。例年4月中旬からゴールデンウィーク頃までは、タケノコ料理が用意されており、アラカルトでも味わえるのが魅力です。

なお、アラカルトで注文する場合は、最初にサービスを担当しているお姉さんと相談し、提供されるタイミングまで含めて流れを決めてもらうとよい結果になります。最後までおいしく料理をいただくためのコツですよ。

「龍鳳」店内。優しい大女将のお母さんはいなくなってしまいましたが、いつも大テーブルに座って新聞を広げているような気がします。

ご紹介したお店

龍鳳(りゅうほう)
住所:神奈川県横浜市中区長者町7丁目112(MAP
※伊勢佐木町三丁目交差点そば。ドン・キホーテ伊勢佐木町店斜め向かい
TEL:045-261-0308
営業時間:11:00~14:30 17:00~21:00 (L.O.20:30ごろ)
水曜定休・臨時休業あり
※訪れる際は事前に休業日を電話で確認することをお勧めします。
※宴会予約は5名以上。市場休日は宴会不可。おまかせ宴会料理の目安は6,000円(1名・税込)


text & photo:ぴーたん
ライフワークのアジア樹林文化の研究の一環として、台湾・中国・ベトナム・マレーシアを回って飲食文化も研究。10数年前の勤務先で、江西省井岡山に片道切符で送り込まれたことを機に、中国料理の魅力に目覚め、会社を辞めて北京に自費留学。帰国後もオーセンティックな中国料理を求めて、横浜をはじめ、アジア各国の華僑と美味しいものについて情報交換をしている。