横浜中華街に行ったら、どこで何を食べればいい? 魂が震える本物の味はどこにある? 当連載は、横浜で美味を求める読者に向けた横浜中華指南。伝統に培われた横浜の味と文化をご紹介します。 ◆目指すゴールとコンセプトはコチラ(1回目の連載)でご覧ください。 |
今回の前編にあたり、ちまきの由来と端午節限定ちまきをご紹介した記事「横浜オールド中華探訪11|限定ちまきを狙え!端午節の横浜中華街で、広東粽食べ比べ」はコチラから! |
ちまきとは、日本の雑煮のようなもの
日本に住んでいると、ちまきの味付けを意識して食べ比べることはなかなかないと思いますが、中国におけるちまきは、地域によってさまざまな個性が味わえるものです。
例えば、筆者が北京に住んでいた頃の話。端午節に買ったちまきをワクワクしながら食べてみると、葦の葉の中にはもち米と棗が1個だけ。肉が入っておらず、甘い味付けに拍子抜けしたことを思い出します。
それもそのはず、食べる前は、横浜中華街で売っているような、旨味がもち米に染み込んだ味わいをイメージしていたから。あまりにもさっぱりした味付けに、なにか騙されたような気になり、北京生まれの友人に「肉入りのちまきは北京にないのか?」と尋ねたところ、「ちまきとは甘いものだ。肉が入っているほうが珍しいんじゃないのか?」と言われました。
つまり、ちまきは日本でいうところの、故郷のお雑煮のようなもの。地域性があり、地元民の思い入れもさまざま。そして店ごと、家ごとにも特徴があります。
そこで今回は、先月ご紹介した広東系のちまきの続編として、横浜中華街で作られている台湾系および上海系のちまきをご紹介したいと思います。
行列必至「ちまき屋」の「チマキ」は台湾南部スタイルで大人気!
まずご紹介するのは、台湾南部のちまきです。横浜中華街で買える台湾ちまきは北部タイプが多いのですが、筆者の知る限り、唯一の南部ちまきがこちら。
台湾では「北部ちまきと南部ちまきはどちらがよいか」という論争が見られますが、南にいくほど、中身が豪華になる傾向があります。そして北部の人も、なんだかんだいって味のよい南部ちまきを認めざるを得ないとか。そんな台湾南部のちまきですから、横浜でも「ちまき屋」が人気になったのはうなずけます。
一般的な台湾南部のちまきは、生のもち米と調理済み材料をそのまま緑の笹の葉に包み、湯の中に入れて長時間煮込んでつくるもの。もち米を油で炒めないので軽そうに見えますが、大きな豚バラ肉の塊なども入っており、肉の脂がじわりとちまきのもち米にまんべんなく染み込み、なんともいえない旨味があります。
「ちまき屋」では、かわいいサイズのしいたけ、干しえび、豚の角煮、落花生入り。しっかりと密着したもち米の中に具がぎっちり詰め込まれており、まるで笹の葉の中にある小宇宙のよう。
筆者は朝食にいただいたのですが、食べ切るのはほんとうにあっという間。口の中はべとつかず、もう1個くらい軽くいけそうなくらい。余計なものはひとつもなく、足りないものもひとつもない印象を受けました。
オーナーシェフの小林さんは几帳面な方で、材料を5ミリ単位で詰めるという緻密さ。台湾出身のお母さんのちまきの製法を受け継いでいるそうです。
お話をうかがうと、職人を募集しているのだけれども、材料を丁寧に扱えることが重要で、そうなるとお目がねに適う方はなかなかいらっしゃらないとのこと。職人が限られると生産量を増やせないため、しばらくは入手困難のままとなりそうですね。
「ちまき屋」の「チマキ(肉粽)」【販売】通年 ★詳細はこちら |
台湾北部の味!手作り点心専門店「茂園食品」
台湾ちまきは関帝廟通りなどで売っていますが、店で仕込んでいる“メイド・イン・横浜”なちまきにこそ惹かれるもの。
そこでご紹介する「茂園」は、山下町から少し離れた徒歩圏内、石川町駅の北側にあるお店。飾りっ気のない店内で、ちまきを作っているおばちゃんに「ここの味は台湾のどちら?」と尋ねたところ、「台北だよ」との返事。すなわち北部のちまきですね。
北部ちまきの一般的な作り方は、もち米と調味料を炒め、半分火を通してから、笹の葉で巻き、蒸して作ります。 食べてみると、味は濃いめ、香りも濃いめ、米粒感があるのが特徴。ピーナッツが入っているのも台湾ならではの特徴でしょう。一般的に日本人が思い浮かべるちまきもまた、もち米にまんべんなく醤油の色が染み込んだ、このタイプだと思います。
立派な大きさの笹の葉を開いてみると、米粒がぽろりと崩れ、香りのいいおこわのよう。炒めた米粒の食感がよいですね。北部ちまきは脂が多めと言われますが、「茂園」の台湾ちまきは肉の脂も少なめで、ずっしりとした重さとは裏腹に、軽く喉を落ちていきます。
休日の昼下がりに、ちまきのごはん、落花生、肉をつつきながら、ビールをぷしゅー。そんな贅沢なランチに持ってこいの逸品です。
「茂園食品」の「手作り茂園チマキ」【販売】通年 ★詳細はこちら |
「大三元酒家」の「肉粽」は上海系の素朴な味わい
上海付近のちまきは、棗入りの甘いもの、肉入りのしょっぱいものの両方がありますが、大きさは比較的小さめで、中に入っている具はシンプルな印象です。
なかでも上海から100kmほど南西に下った浙江省嘉興市は、ちまきで有名な都市。豚肉や栗を入れて三角錐に包んでおり、「大三元酒家」のちまきもまた、この地域の製法に通じます。
開けてみると、均質に醤油の色が回り、米粒が立っているじゃありませんか。棗のほんのりとした甘みがアクセントになり、炊き込みごはんのような親しみやすさを感じます。
上海に長く住んでいた家人は、素朴な風味を気に入った様子。筆者も濃い目にいれた番茶を飲みながら、あちらで食べていたものより美味しいなと、中国での修行時代を思い出す味でした。
「大三元酒家」の「肉粽」【販売】通年 ★詳細はこちら |
端午節と年末限定!予約完売「龍鳳酒家」の「伝統広東粽」
筆者がサイクリングで横浜に行くと訪れる店が「龍鳳酒家」。端午節のちまき特集前編でご紹介しようと思っていたのですが、確認すると、今年は5月半ばで早々に予約終了という人気ぶりでした。
こちらのちまきは、年末と端午節だけの季節限定。8時間ゆでるというその製法は台湾南部のちまきと同じです。ただし味付けは広東式で塩味の塩卵入り。ほかに緑豆、豚肉、貝柱、ピーナッツが入っています。
塩味ベースのちまきは、あっさりとして上品な味付け。中の豚肉がほろりと崩れ、肉の周りの脂肪が口のなかにじゅわーーーっと広がると、これぞ御馳走だと感じます。
こちらのお味は伝統的で繊細なレシピで作られているので、おだやかな味のお茶かお酒が合いますね。気になる方は、今年の年末か、来年の端午節に向けて、早めの予約を狙ってください。
「龍鳳酒家」の「ちまき」【販売】年末および端午節(要予約) |
ちまきはゆでて再加熱。3分置いて状態を整えよう
最後に、前回もご紹介しましたが、ちまきのゆで時間について。いくつかの店に尋ねてみると、大きさによって15分~25分(冷蔵品の場合)で、迷ったら長めにするといいでしょう。冷凍の場合はさらにプラス5分。熱湯にいれてから時間を測ってください。
ちなみに「ちまき屋」は説明書きがついていますので、それに従って時間を測ってゆでましょう。時間に余裕があれば、さらに長めにゆでるとよいようです。
ゆで上がったら、鍋から取り出して2~3分ほど置いて水分を飛ばすのは前回同様。水気を飛ばせば歯ごたえが戻ってくるそうですよ。ぜひお試しください。
今回ご紹介したお店
持ち帰りのちまきひとつにしても、掘り下げてみると実に多様性がある横浜中華街。筆者も回り切れていないのが実のところではありますが、狭いエリアに美味しい店が密集している、日本でも稀有な場所として魅力を放っています。端午節(2019年は6月7日)の週末に行く場合は、混んでいる時間帯を避けて、横浜中華街を楽しんでくださいね。
ちまき屋
住所:横浜市中区山下町186(MAP)※路地の奥
営業時間:火~金11:00~売り切れまで
不定休
茂園食品(もえんしょくひん)
住所:横浜市中区翁町2-9-5 三起ビル1F(MAP)
営業時間:11:00~17:00
大三元酒家
住所:横浜市中区山下町136(MAP)
営業時間:11:00~22:00
不定休
龍鳳酒家(りゅうほうしゅか)
住所:神奈川県横浜市中区山下町152(MAP)※中山路
営業時間:11:00~15:00(L.O.14:30) 17:00~21:00(L.O.20:30)
火曜定休
text & photo:ぴーたん
ライフワークのアジア樹林文化の研究の一環として、台湾・中国・ベトナム・マレーシアを回って飲食文化も研究。10数年前の勤務先で、江西省井岡山に片道切符で送り込まれたことを機に、中国料理の魅力に目覚め、会社を辞めて北京に自費留学。帰国後もオーセンティックな中国料理を求めて、横浜をはじめ、アジア各国の華僑と美味しいものについて情報交換をしている。